執事長の不審な行動

 

 アグルス様のお屋敷に来て1週間ほどが経過しました。


 執事長からの嫌がらせが無くなった訳ではありませんが、アグルス様の計らいにより、私の所には執事長があまり来られないように仕事の調整をしてくれています。そのため、嫌がらせと思われる状況はあまり起きていません。


 そして、ようやく私はこのお屋敷での生活に慣れ始めてきました。お屋敷の全てを把握した訳ではありませんが、普段使う場所なら問題なく行き来が出来る、程度ではありますけど。


 普段から屋敷の中では付き人としてランが追従してくれることが多いのですが、時々私の元から離れる時があります。それはアグルス様が執事長を遠ざけたことに起因しているので、仕方のない事なのです。


 現在、アグルス様は王都での仕事のためこのお屋敷を離れています。私と婚姻を結んだ時も王都から来られたように、頻繁にこのお屋敷から離れているのです。


 本来ならこのお屋敷で出来る仕事が大半だとの事ですが、前辺境伯様が早世したため引継ぎが上手く進んでいないことと、先代が床に臥せっている間に溜まってしまった王都での仕事を消化するために、半ば王都に駐在しているような状況になっているようです。


 その所為で、アグルス様が屋敷に居ないことをいいことに執事長は屋敷に居る使用人を扇動し、使用人たちとアグルス様の間に大きな溝が生まれ、今の状況を招いてしまったそうです。


「お嬢様。昼食をお持ちしました」

「ありがとう。ラン」


 昼食も本当なら別室で食べるのが普通なのですが、執事長に干渉される可能性があるので、アグルス様が居ない場合は私室の方でいただくことになっているのです。

 私室での食事はあまり気が乗らないのですが、致し方ない事ですね。



 昼食が終わって一息つきましたので、腹ごなしにこのお屋敷のまだ見て回っていない場所を回ってみましょう。


 今日はお屋敷の庭を中心に見て行きましょう。不用意にお屋敷の中を回っていると執事長に会ってしまうかもしれませんから、それはなるべく避けたいのです。


 アグルス様のお屋敷は辺境伯だけあってとても大きいです。それに合わせて庭も広いので見て回るだけで十分な運動にはなりますね。


 お屋敷から出てお屋敷の庭を見て回っているのですが、あまり手入れが出来ていないのでしょうか。所々、草が生い茂っている所がありますね。

 そう言えば前辺境伯様が亡くなった際に、使用人の一部が他家からの引き抜かれたと言っていましたので、これはその所為かもしれません。


 ん? あれ? あんな物陰に人が居るようですが、何をしているのでしょう。

 気になりますね。……あ、ですが、もし仕事であそこに居るだけでしたら邪魔になるだけですし、出来るだけ気付かれないように近づいて確認してみましょう。


 あら? あそこに居るのは……執事長のようですね。

 今の時間に屋敷の外でする仕事は無かったと思いますが、何故あのようなところに居るのでしょうか。それに執事長の前に誰かが居て、何やら話しているのが見えますね。相手の方は……フードを被っているので誰なのは判断できませんね。見えたところで私の見覚えがある相手だとは限らないのですけど。


 ですがそうして、屋敷の影になるようなところで話をされているのでしょう。

 おや? 何でしょうか。今、執事長が何かを相手に渡して、その後何かを受け取ったように見えたのですが、何かの取引なのかしら?


 これは正式な取引なのでしょうか? いえ、このような人目に付き辛い場所でしているのですから、正式なものではない可能性が高いですね。


 これは、アグルス様が王都から帰ってきましたら、すぐにでも報告した方が良いかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る