さっそく嫌がらせですか…
「こちらの部屋をお使いください」
アグルス様のお屋敷について直ぐに私とランは用意されていた部屋に通されました。ですが、用意していたと言う割に家具などがあまり整っていないような? それに辺境伯様の屋敷の中でも結構な距離を歩いた程度には奥に位置する部屋のようでしたし。
「アグルス様に指定された部屋はここで合っているのでしょうか?」
「……私はこの部屋に案内するよう言い伝っただけですので」
「そうですか」
何やら沈黙があやしいですが、まあ、この部屋でも準備は出来ますからいいでしょう。
「それでは私はこれにて失礼します」
「ええ、ありがとうございます」
そうして私たちを案内して来たメイドが部屋を出る。そしてそのドアが閉められた瞬間に何やら重い物が壁に当たったかのような低い音がドアから響きました。
「ねぇラン。今の音、何かしらね?」
「何でしょうね」
何やら凄く嫌な予感がします。とりあえずランがドアの確認をしに行きました。そしてドアが開くかどうかの確認をして、……ドアが開かなくなっていることがわかりました。
「外から鍵を掛けられたのでしょうか?」
「いえ、このドアは内鍵のようですからそれは無いでしょう。それにドアノブ自体は動きますから、ドアの向こう側に何か重い物でも置かれているのだと思います。このドア外開きですし、その所為で開かないようです」
「そうですか」
まさかこんなに早く嫌がらせを受けるとは思っていませんでした。確かにアグルス様が夕食の場で牽制することがわかっているのなら、その前に手を出すのが良いのかもしれませんけど。
「どうしましょうか」
「まあ、ナルアス辺境伯様がお気づきになられるのを待つ以外ないと思います。それまで夕食の際の準備でもしておきましょう」
「それ以外はありませんね。幸い荷物はランが持って来ていましたし、そうしましょうか」
夕食までまだ時間はありますから、こちら側からドアを開けることは出来ないようですし、ゆっくり支度を進めましょう。
しかし、アグルス様が指定したメイドも反発している側なのは、アグルス様が言う以上に事態は深刻かもしれませんね。
もしかしたら、上の人に逆らえなくて仕方なしに、このようことをやっているのかもしれませんけど。
「お嬢様。こちらに」
「ええ、よろしくお願いします」
ランが持ってきた荷物からドレスを取り出してこちらに持ってきました。
「おや、これは何ですかな?」
私が今着ている服を脱いでドレスに着替えようとした時、ドアの向こうから声が聞こえました。どうやら私たちはこの部屋から出ることが出来そうです。
「申し訳ありませんが、ドアの前に置いてあるものを退かしてくれませんか?」
「中に人がおられるのですか? 誰がこのようなことを。少々お持ちください。今
退かしますので」
「お願いします」
そしてガタガタ何か重い物を動かす音が聞こえ、それが聞こえなくなると同時にドアをノックする音が聞こえました。
「入ってもよろしいですかな?」
「……ええ」
「入りますよ」
少し警戒しつつもドアの前に置かれた何かを退かしてくれた人物に入室の許可を出す。さすがに物を退かして貰っている間にドレスはしまいましたし、見られて困るようなものは無いでしょう。
「おや、これはアグルス様の奥様になられる方とそのお付きの方ではないですか。どうしてこのような状況に?」
部屋に入って来たのはこの屋敷の使用人を束ねる執事長でした。執事長とはこの屋敷に到着してすぐ会いましたし、全く見知らぬ相手ではありません。
ですが、どうも見下されている、と言いますか、対応がおかしい気がします。そもそも私たちがここに閉じ込められていたにも関わらず、驚いた感じが見受けられないのです。
「アグルス様に用意した部屋で着替えて来て欲しいと言われ、その部屋まで案内してもらったのですが、その案内をしていただいたメイドが部屋の外に出た瞬間にドアの前に物が置かれたのです。そのため部屋の外へ出ることが出来なくなりました」
「そうしたか。それは災難でしたね」
ああ、なるほど。この執事長もグルなのですね。もしかしたら無理やりドアを開けようとしたら叱責でもするつもりだったのかもしれません。
だとしたら、あのメイドもこの執事長の指示であのようなことをしたのかもしれませんね。メイドでは執事長の指示には逆らえませんし。
「とりあえず、本来案内されるはずだった部屋の方に移動したいのですが、案内していただいてもいいでしょうか?」
「ええ、いいでしょう」
執事長は笑顔で対応していますが、目が笑っていませんね。もしかしたらこの人が反発の元凶なのかもしれません。
そうして私たちは執事長が呼んだメイドによって、本来先に行くはずだった部屋に案内してもらい、そこで夕食の前にドレスに着替えることになりました。
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