辺境伯様の元へ

迎え

 

 家を出て、ナルアス辺境伯様の元へ嫁ぐ準備が整いました。辺境伯様と話したあの日から3日程が経っています。


 私と同時にリースもオージェの家へ嫁ぐことになっていたのですが、既にリースは家を出ています。

 ただ、オージェの家の迎えが来たからではなく、何故か別の家の方の迎えによって家を出ているのです。何か良くない予感がしますが、あの書類が貴族院に受理された以上、もう私やこの家はリースとの繋がりは無いのでどうなろうと関係は無いでしょう。


 それでそろそろ辺境伯様の迎えが来るとの事なので私は家の前で待っているのですけど、まだ来る気配はないですね。聞いた時間が間違っていたのでしょうか?


「本当にこの時間で合っているのでしょうか」

「奥様からの報告ではそろそろですね」


 お母さまの、というところが気掛かりですが抜けているところがあるとはいえ、そうそう間違えることは無いでしょう。……若干、不安ですけれど。


「そう言えば、確認も取らずに勝手にランを連れて行くことを決めてしまったのだけれど、大丈夫だったかしら?」

「大丈夫ですよ。私は何処でも気にしませんし、むしろ連れて行くと決めて下さったのに感謝しているくらいですから」


 ランはそう言った後、信頼してくださっているということでしょう? と嬉しそうな表情で私の頭を撫でました。

 私と10近く歳が離れているから、ランは私のことを妹のようにかわいがってくれます。それは嬉しいのですけれど、さすがにこの年となると少々恥ずかしくもあります。


「そう、なら良いのだけど」


 いきなり嫁ぐことになって急遽連れて行く使用人を選ばなければならなくなったのです。元は商家に嫁ぐ予定だったので見た目重視のメイドを連れて行く予定だったのですが、いきなり辺境伯家へ嫁ぐ事になり、見た目ではなく能力面で選ぶ必要が出ました。そこで長く私の世話をしていて、私のことを良く知っている付き人兼メイドのランを連れていくことにしたのです。


 一応リースの方も連れていく使用人を選ぶことになっていたのですが、何故かリースはその使用人を執事長にしようとしていたのです。さすがにそれは無理な事ですから、直ぐにお父様に却下されていましたけれど。


「おや、来られたようですね」

「え?」


 ランの言葉を聞いて辺境伯様の迎えが来るはずの方を見ます。そこには我が家では買うことが出来ないような豪華な馬車がこちらに向かって来ているのが見えました。


「豪華な馬車ですね」

「そうですね。まさかあのような馬車で迎えを出してくれるとは思っていませんでした」


 まあ、まだあの馬車が辺境伯様の出した迎えとは限らないのですけれどね。……ああ、ですが家紋が辺境伯様の物です。ということは、私はあれに乗って辺境伯様の元に向かうことになるのですか。


 そう思っている内にその馬車は減速し始め、私の近くで止まり、馬車の扉が開いて中からナルアス辺境伯様が出てこられました。

 え? 辺境伯様が直接迎えに来られたのですか? 通常の嫁入り、婿入りなら迎える側は屋敷の方で待っているのが普通だと聞いていたのですけれど。


 それに忙しくは無いのでしょうか? この前の話の時も無理をして来てくださったと聞いていますし、前から辺境伯様は忙しくて社交界などにも出られないと聞いていたのですけれど。


「すまないトーア。待たせたね」

「え? あ……いえ、それほど待っていないので大丈夫です」


 想定外に辺境伯様が馬車から出て来たことで混乱していますが、しっかりしませんと。これから辺境伯様のお屋敷で生活するのです。ここで躓いているようではいけませんね。


「それならよかったが、そちらが一緒に来ることになっている使用人か?」

「ええ、ランです。長く私の世話をしてくれていたメイドなのです」

「そうか。まあ、色々あるだろうがトーアのことをこれからもよろしくな」

「受け賜わりました」


 ランが深々とお辞儀をしたのを見届けた後、辺境伯様の馬車に私たちは乗り込み、私たちを乗せた馬車は辺境伯様のお屋敷に向けて走り出しました。

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