ひとり書き続ける
霜月かつろう
第1話
キーボードを打ち込む指が速くなってきたような気がする。そんな余計なことを考えながらも打ち込むスピードは落ちずにカタカタという音と共に黒い背景に白い文字が次から次へ打ち込まれているのを他人事の様に見つめる。それを操作しているのは自分だというのにそんな感覚すら鈍っているのを感じる。毎日の日課ともなればこんな感覚に陥ることもあるのかもしれないと、疲れた目を休ませるためにモニターの奥に飾ってある山岳風景のポスターに視線を移してて止めかけていた息を腹から思いっきり吐き出した。
WEB小説投稿サイトに毎日文章を打ち込むようになってからしばらく経つ。仕事の日も休みの日も出先でも家でも元気な日も落ち込んだ日も体調がいい日も悪い日も、飽きることなく毎日の様に時間を使って書き続けているのは頭をすっきりさせるためだと自分に言い聞かせながら書き続けている。
言い聞かせる必要があるのは自分は臆病者なのを知っているからだ。こうやって書き続けているのにも関わらず、プレビューが伸びず星が増えずコメントももらえないことに対して事実を認識したくないからだ。
だから自分は日々のあったことを整理するために文章を書いて少しずつ消化しているのだとそう言い聞かせる。楽しかったことも嫌なこともいったん感情ごと文章に置いてきてしまえば心には残らない。そうすることで日々の生活を安定して過ごせるのだとそう言い聞かせる。
それでもときたま増えるプレビューを見ては読者がいることを実感して嬉しくなってしまったりする。止めておけばいいものを違う人の作品を調べに行って自分の作品となにが違うのだろうと気になり始めてしまう。
そうして調べている間に気付くのだ。WEB小説投稿サイトで繰り広げらている読者との交流だったり、仲間たちとの交流だったり。楽しそうなコメントが飛び交うのを。
だから止めておけと言っただろうと自分の中の声が聞こえてくるくらいにはそれを見てショックを受けるのだ。そうして考え始めてしまう。なぜ自分にはそんなコミュニティがないのかと。
いや頭では分かっているはずだ。自分から読みに行って感想を言えばいい。企画がたくさんあるのだから積極的に参加して交流を図ればいい。
そうしないのは何故だ。そう自分に問いかけ続ける。
そうしている間に呪文の様に繰り返され始めるのだ。自分は日常を整理するためだけに書き続けているのだと。そう言い聞かせてくるのだ。読者が欲しくて書いているのではないと、仲間が欲しくて書いているのではないと、そういうつもりはないのだと言い聞かせるのだ。
だったらなんでWEB小説投稿サイトを利用しているのだと、別の自分が問い詰めてくる。自分だけが読める日記でいいじゃないのかと。
だけどそんな声は聞こえないふりをしてキーボードに手を置く。
そうして再び文章を書き始める。いつか何かが変わるとそう信じて。いろいろなものから逃げる。いつかが訪れると信じて。それが全部ごまかしだと知っている。それでも、書き続けることだけが何かを変えるのだと。それだけは信じながら。
ひとり書き続ける 霜月かつろう @shimotuki_katuro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます