第61話
女剣士のレベルは12、僕のレベルは15だ。
僕のレベルアップに必要な経験値は1060なので、まずは魔物三十匹を倒す事を目標に立てた。
【名前=ツーハンドスネーク。種族=蛇獣族。レベル=18。
HP=4202/4202。MP=541/541。
腕力=216。体力=221。知性=318。精神=202。
重さ=普通。移動速度=少し遅い。経験値=32。換金エル=67。
固有能力=『
女剣士の情報では体長四メートル程の大蛇だったけど、その見た目は、大型トラックのタイヤを切って伸ばして、玩具のマジックハンドを取り付けたような感じだ。
動きは遅く、それに、ほとんど動かない。
攻撃方法は固定砲台のように近づく敵を見つけたら、足元の地面を抉って、土砂と小石を投げつけるという地味なものだった。
友達にするには、ちょっと使えない奴なので経験値になってもらうしかない。
「隠れて地魔法でチマチマ攻撃してもいいけど、トドメを刺さないと駄目なのか……」
相手は動かない。ならば、ギリギリの攻撃範囲から攻撃して、地味にHPを削っていけば安全に倒せる。
でも、倒すのが目的ではない。女剣士のレベル上げが目的なんだ。
ここは蜘蛛糸で拘束してから、女剣士にトドメを刺させるのが無難な方法だと思う。
あと注意するのは、蜘蛛糸で拘束した後に剣で攻撃したら、剣がくっ付いてしまう事だ。
そうなると、回収に火を使わないといけなくなる。その問題点の解決策も考えないといけない。
意外と蜘蛛糸を使うのは面倒かもしれない。身体全体ではなく、身体の一部を拘束した方が良さそうだ。
「ワイルドボア、お前の出番がやって来たぞ」
『フゴォ!』
「真っ直ぐに突進して、あの蛇を轢き殺せ」
『フゴォ! フゴォォォォーーー‼︎』
ワイルドボアが僕の指示通りに、ツーハンドスネークに向かって行った。
僕は囮役が頑張って、ツーハンドスネークを突き飛ばした後に応援に向かうつもりだ。
『スネッ‼︎ スネッ‼︎』
『プギィー⁉︎ プギィー⁉︎』
まさに猪突猛進といった感じで、ツーハンドスネークが投げつけて来る石飛礫をガァンガァン喰らいながらも、真っ直ぐにワイルドボアは突き進んでいく。
予想以上にワイルドボアのHPの減りが早いので、ツーハンドスネークの攻撃は対魔物に特化しているようだ。
防具を着込んだ冒険者ならば、投石ダメージを半減する事も出来る。
強力な防具を購入して、僕一人で突っ込んだ方が良かったかもしれない。
「今更遅いけど……」
固有能力はMPを消費しないから、無限投擲も可能だ。
小石を神フォンに大量に収納していれば、散弾銃のように広範囲に攻撃できる。
意外と使える魔物かもしれない。
『フゴォーー‼︎』
『ズネッ⁉︎』
色々と考え直していると、指示通りにワイルドボアがツーハンドスネークを突き飛ばして、さらに上にのしかかって動きを封じている。
ほとんど放置状態だったから、頑張っているようだけど……。
「友達チェンジだな」
僕は答えが決まると、急いでツーハンドスネークを助けに走った。
二本の腕は投擲させるだけじゃなくて、剣を持たせたり、盾を持たせたり出来るはずだ。
つまりは突進しか出来ないワイルドボアよりは、幅広い活躍が期待できるという訳だ。
「覚悟! セイリャ‼︎』
『プギィーーー⁉︎』
「お前もだ! オラッ‼︎」
『ズネッーーー⁉︎』
ズバァン‼︎ と死にかけのワイルドボアの背中を背後から切って倒すと、次にワイルドボアの死体に、下敷きになっているツーハンドスネークを半殺しにしてあげた。
今日から僕達は友達だ。
「ちょっと、ちょっと‼︎ 何で魔物を倒しちゃうんだよ‼︎ 私のレベル上げをしてくれるんじゃなかったの‼︎」
「はぁ?」
ワイルドボアを神フォンに収納していると、隠れていた女剣士が怒ってやって来た。
何を怒っているのか知らないけど、下準備は大切に決まっている。
レベル12のワイルドボアから、レベル18のツーハンドスネークに戦力が大幅にアップしている。
頭を使って、しっかりと考えれば、戦力が強化されている事は分かるはずだ。
「心配するな。約束は守るし、戦力はキチンと強化されている。それに、ここの魔物が強いと言って、ビビっていたのはお前だぞ。俺は安心安全に、お前のレベルを上げれるように考えているんだ。もうちょっと信用してくれよ」
面倒臭い女だ。すぐに感情的に噛み付いて来る。
こっちは女剣士が死なないように、頑張って色々と考えているのに、自分の感情ばかり優先しないで、少しは僕の気持ちを理解してくれよ。
「むむむっ! それだと、私が凄く弱いみたいじゃない!」
「そうだろう?」
「レベル12だよ! 最大レベルは23まで上げられるんだよ! 女の子にしては凄い才能がある方なんだよ! 街でも二十年に一人の逸材だって言われているんだよ!」
最大レベル23……ヤバイ、聞きたくない情報を聞いてしまった。
多分、女性冒険者の中では凄い方なんだと思う。思うけど、最大レベル23は僕の中では凄い方には入らない。
「最大レベル23だって⁉︎ 凄いじゃないか! ちなみに普通の女性冒険者はどのぐらいが一般的なんだ?」
「ふふふん♪ 街の女性なら、大体レベル7が限界だよ。女性冒険者でも、大体がレベル15が良い方なんだから。つまり私は普通の人の三倍は強いんだよ!」
「へぇー……行くぞ」
「ふへぇ? それだけ?」
少し大袈裟に驚いてあげたし、一応は褒めた。これ以上は褒めるつもりは微塵もない。
先を急ぐので、急いで塩対応に切り替えた。
『もっと褒めて』と顔で訴えて来る女剣士を無視して、僕は次の魔物を探しに向かった。
【名前=カラフルキャット。種族=猫獣族。レベル=18。
HP=4837/4837。MP=183/183。
腕力=248。体力=272。知性=223。精神=122。
重さ=普通。移動速度=速い。経験値=32。換金エル=45。
固有能力=『擬態』】
最後の三種類目を見つけたのは、三匹のサソリ蜘蛛と二匹のツーハンドスネークを倒した後だった。
やっぱり森の中という事で、昆虫系の魔物が多いようだ。
食物連鎖から考えると、蜘蛛を食べる蛇、蛇を食べる猫になる。つまりは猫が一番少ないのは当然だ。
「見えるか? あそこにカラフルキャットがいるだろう」
左隣にしゃがんでいる女剣士に、薄茶色の木を指差して聞いてみた。
「えっーー? 木しか無いよ?」
「木の上にいるんだよ。あの枝に見えているのが後ろ足で、身体の色を木の色と一緒にしているんだ。飛び出している枝の太さが、他の枝よりは少し細いから分かるだろう?」
「えっ? そうかな……」
僕の目にはカラフルキャットのステータスが見えている。間違いなく、あそこにいる。
でも、女剣士には見えないという事は擬態能力は結構凄いという事だ。
確実に不意打ち攻撃が出来るといっても、最初の一撃だけ。しかも、その後は爪と牙のよる攻撃しか出来ない。
接近戦が得意な魔物は、すでに友達にしたから、流石にもう友達チェンジは必要ないだろう。ここは遠慮なく経験値になってもらおう。
「ふぅー、疲れたなぁ~」
『……』
まったく気づいていないアピールをしながら、僕はカラフルキャットがいる木に近づいて行く。
作戦はこうだ。木に近いて行き、サソリ蜘蛛に粘着糸を飛ばしてもらうつもりだ。
その後は木にくっ付いて動けないカラフルキャットを、ツーハンドスネークに小石でも投げさせてダメージを与えていく。あとは女剣士が魔法を撃って、トドメを刺すという流れだ。
「ふぅー、サソリ蜘蛛、あそこに粘着糸を撃って」
『シュピー‼︎』
良い天気だ! みたいな感じで上を見上げながら、足元の影にお願いした。
影から飛び出した粘着糸は、木の上に擬態していたカラフルキャットを見事に拘束した。
『ニャアッ⁉︎ ニャアニャア⁉︎』
擬態が解けたカラフルキャットが、虹色の身体をジタバタ動かして、木の上で踠いている。
確かに虹色の身体はカラフルだ。そういう意味でカラフルキャットという名前が付いたのだろう。
勉強になりました。ありがとうございます。さようなら。
「オラッ! オラッ!」
『ニャアッ⁉︎ ニャアッ~~~⁉︎』
ドガァ! ドガァ! ニャン子先生にお礼とお別れを言うと、予定通りに投石で虹色猫さんを集団リンチした。
最後は魔法も使わずに、女剣士に投石でトドメを刺してもらった。
ニャン子先生の経験値は、戦闘参加が美味しくいただきました。ありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます