第54話

 女剣士が泣き止むまで待つと、やっと街に向かって出発できた。

 もちろん、泣かれようと武器と防具は絶対に返してやらない。


「少し北西方向に進め。魔物がいる」


 神フォンを見ながら進んでいると、進行ルートの左側に、一つの赤色点滅を見つけた。


「んっ、分かった……」


 女剣士は口答えせずに、素直に進路を変えた。

 やっと口は災いの元だと理解できたようだ。

 まずは予定通りに、街に到着する前に、監視役の魔物をゲットしないといけない。

 上空監視役はワイルドホークが適任だけど、見つかそうにないなら、森に沢山いる虎蜂にするつもりだ。

 女剣士には、魔物は影の中なら自由に移動させられる事とか、デタラメな能力を言っておいて、二十四時間、影の中から、魔物に監視されていると思わせよう。


「んっ?」


 ブウウウウンと、独特の羽音が聞こえてきた。間違いなく虎蜂だ。


『ビイイ……』

「まだ魔法を使えるな。あの虎蜂を墜落させろ」

「むぅぅ……」


 宙を飛んでいる虎蜂を指差して、女剣士に命令した。

 不機嫌そうな顔を見せているけど、こっちはお前のMPを全て使わせないと、戦闘に集中できない。

 戦闘中に背後から魔法で撃たれるのは、絶対に許されない行為だ。

 まあ、僕の暗殺に失敗したら、それ相応の辱めを受けてもらうつもりだ。

 その覚悟があるのならば、ちょっとぐらいの隙と背中は見せてもいいかもしれない。


「どうした? やらないのか?」

「だって、私は見ているだけでいいんでしょう?」

「はぁっ? やれやれ……どうやら、まだお仕置きが足りないらしいな。俺はお願いしている訳じゃないんだ。やれと言われた事は、やれ」

「はうっ!」


 ムニッムニッ♡ 後ろから女剣士のおっぱいを揉んだ。

 触り心地が良いように、黒革のジャケットのチャックは下させている。

 何もやらなくていいとは確かに言った。でも、そんなのは嘘に決まっている。

 僕がやれと言ったのならば、反抗せずにやればいいのだ。


「やりたいと言うまで、揉み続けるぞ?」

「はうっ、あうっ……やりたいです」

「……このド変態女め。さっさとやれ」

「ひぐっ!」


 女剣士のやる気スイッチは、コリコリの左乳首にあるので、僕が仕方なくスイッチを捻ってあげた。

 ビクンと身体を跳ね上がらせると、女剣士は虎蜂に向かって走って行った。


「やれやれ、女は面倒くさいなぁ~」


 今ならば、サリオスが言っていた言葉が、真実なんだと思えてくる。

 人を従わせる方法は、やっぱり恐怖だ。僕もいじめっ子達が怖いから従っていた。

 女剣士も僕が怖いんだ。それが死なのか、辱めなのか、分からないけど、恐怖には人を従わせる力がある。

 それは間違いない。


「〝ウィンドアロー〟」

『ビイイ⁉︎』


 女剣士が右手から放った風の矢が、ドォスと虎蜂の胴体に突き刺さった。

 虎蜂が地面に向かって墜落していく。

 女剣士に剣を持たせていたら、きっと一人でも倒せるはずだ。

 でも、それは危険なので許可できない。


「さてと、僕の出番か……」


 虎蜂に体勢を立て直される前に、僕は全力で走った。

 虎蜂の残りHPから、友達にするには、素手で三回攻撃するしかないからだ。

 剣で攻撃力を上げてしまうと、友達には出来ずに倒してしまう。

 当然、魔法で三回攻撃してもいいけど、MPを雑魚魔物を捕まえるのに使いたくはない。

 結果、最も野蛮な殴る蹴るという攻撃手段を、使わなければならなくなった。


『ビ、ビ、ビイイ……』

「そのまま寝ていろ! オラッ‼︎」

『ビイイイ~~⁉︎』


 ドガァ‼︎ 起き上がったばかりの虎蜂の左胴体を、サッカーボールのように蹴り飛ばした。

 虎蜂は地面をゴロゴロと激しく転がっていく。

 けれども、まだまだ僕の華麗なドリブルは、こんなもんじゃ終わらない。

 さらに虎蜂の胴体を蹴り飛ばした。


「オラッ‼︎」

『ビイイイ~~⁉︎』


 ドガァ‼︎ 人間ならば、きっと血反吐を吐くような物凄いダメージだと思う。

 でも、虎蜂は蹴り飛ばされた先で、六本足をガグガク震わせて、なんとか立ち上がろうとしていた。


「オラッ‼︎」

『ビイイイ⁉︎』


 ドォスン‼︎ 僕は容赦なく虎蜂の頭を足の裏で踏んづけた。

 こんな所で手こずっている時間はない。

 そういうド根性は見せなくていいから、さっさと友達になって欲しいんだよ……僕は!

 グリグリと頭を踏んづけながら、立ち上がろうと頑張る虎蜂に、スキルを容赦なく発動させた。


「誰が立っていいって言ったんだよ! スキル『魔物友達化』‼︎」

『ビイイ⁉︎ ビ、ビ、ビイイィィィ~~~‼︎』


 いつものように魔物の身体が、パァッーと光り輝いていく。

 しばらくすると、光は消え去り、虎蜂は大人しくなった。


「ふぅー、手こずらせやがって。影の中で休んでろ」

『ビイイ……』


 まずは一匹目だ。これで空中戦が出来る魔物が手に入った。

 この虎蜂を使えば、狙っているワイルドホークも捕まえやすくなる。

 まあ、見つかりそうにないなら、遭遇した魔物を手当たり次第に友達にすればいい。


「おい、行くぞ」

「ひぃぃ‼︎」

「えっ?」


 戦闘が終わったので、後ろを振り返って女剣士に呼びかけた。

 なのに、身体を震わせて酷く怯えている。

 えっ? もしかして、僕が魔物にするような酷い事を、女剣士にもすると思っているなら、絶対にやらないよ!

 女の子の腹を足蹴りした事なんて、一度もないし、顔面を踏んづけて、グリグリなんて絶対にしないよ!


「何を怖がっている。早く街に行くぞ」

「は、はい……」


 一応呼んだら走ってやって来た。

 僕の前をスタスタと歩いているけど、女剣士は明らかにビクビクと怯えている。

 そして、足取りが遅い。

 明らかに前方よりも、後ろにいる僕を警戒している。

 ただ普通に戦っただけなのに、怖がられる要素に一つも心当たりがない。


 まあ、ちょっと乱暴な口調だったかもしれないけど、女剣士も僕との戦闘中に似たような乱暴な口調だった。

 もしかして、素手で戦うのが魔物みたいで野蛮だったのかもしれない。

 この世界には、そんなテーブルマナーというか、戦闘マナーがあるのだろうか?

 

「……おい」

「は、はい!」

「何をそんなに怖がっている? 俺が何か怖がられるような事をしたか?」


 いくら考えても答えは分からなかった。

 なので、前を歩く女剣士に直接聞く事にした。その方が断然早い。

 心当たりは山程あるけど、戦闘後に極端に怖がられ始めた。

 ようするに戦闘中の何かが、女剣士にとっては耐えられないような何かだったのだろう。


「こ、怖がってませんよ! でも、あれが死霊魔法なんですよね? 私も気に食わないと、ああやって、蹴られて、闇の底に送られるんですよね?」

「んっ?」


 死霊魔法に、闇の底? 

 ちょっと何を言っているか分からないけど、死霊魔法は僕の嘘だ。

 そんな魔法は使えない。

 だとしたら、虎蜂をボコボコにした後に、使用したスキルが死霊魔法に見えたんだろう。

 確かに僕の影の中に虎蜂が消えて行くのは、不気味といえば、不気味かもしれないけど……。


「安心しろ。気に食わない程度で死霊魔法を使うなら、もう五回は使っている。使うつもりはない。俺の正体がバレるまでは、お前の命は保証してやる。虎蜂、出ろ」

『ビイイ……』

「ひゃあ⁉︎」


 ヌッと僕の声を聞いて、足元の影の中から虎蜂が顔を出した。

 女剣士はビックリして、地面から飛び上がってしまった。

 ちょっと面白いので、たまにやって、怖がらせてもいいかもしれない。


「この虎蜂をお前の中の影に常に潜ませている。もしも俺の事を街の人間に教えたり、助けを求めたり、逃げたりした場合は、そこでゲーム終了だ。お前の動きは全て俺に筒抜け状態だ。馬鹿な真似はしないようにしろ」

「うぅっ……」


 女剣士は、ほとんど死刑宣告を受けたような顔だ。まあ、下手に希望は持たせない方がいい。

 絶対に逆らえない状態だと分からせた方が、馬鹿な真似をして、被害者の数を増やそうとはしないだろう。

 僕の言う通りに従っていれば、被害者は女剣士一人だけで済む。

 いや、むしろ、僕という幸運を独り占めできる。


 それにこの女剣士は精神的に弱い。

 恐怖で支配するだけじゃなくて、出来るだけ、喜ばせないといけない。

 つまりは僕が一緒に寝るか、大金を渡せばいいのか。ふぅー、まあ、頑張りますか。

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