第40話
「おおっ! レベルが上がった!」
どうやら、僕の言いつけを守って、虎蜂三匹は魔物を倒しているようだ。
定期的に増える経験値をステータスで確認していると、レベルが11から12になっていた。
僕も頑張らないといけない。
「♪パァネェテェレ♪ ♪パァネェテェレ♪」
マイホームで椅子に座って、神フォンでゲームをしながら、覚えた呪文を唱え続ける。
サボっているように見えるけど、もう忙し過ぎて、過労死してしまうかもしれない。
多分、一回転してから呪文は唱えなくても問題ない。
もし一回転が必要ならば、右手を突き出して呪文を唱えるだけでは、水魔法は発射できないはずだ。
なんとか今日中に土魔法を習得して、明日のアルアとの朝練の時に披露して、カッコいい姿を見せるつもりだ。
とりあえず、予定よりもレベルが上がるのが早いから、それに合わせて全体的に調整しないといけなくなった。
虎蜂三匹が予想以上に頑張っているから、レベル30になるのも時間の問題だ。
「——と言っても、僕がやる事は、虎蜂達が倒した魔物の回収と、クエスト報酬の受け取りぐらいしかない。あとは地道に武技や魔法の習得ぐらいかな?」
友達に任せていれば、勝手に強くなるし、勝手にお金も手に入る。僕はほとんど何もしなくていい。
そういえば、女神様が言ってたけど、僕専用のクエストをクリアしたら、異世界通貨がもらえるはずだ。
別に街に行けないから欲しくはないけど……でも、今日のクエスト報酬はエルだった。
この世界の通貨がエルなのか知らないけど、もしも違うならば、そのクエストをやってもいいかもしれない。
まあ、その前にまずは神フォンのお店レベルを上げて、強力な武器や防具を手に入れよう。
友達の代わりはいくらでもいるけど、自分の命は一つしかない。大切にしないといけない。
武器や防具は大事だ。しっかりと僕だけでも装備しないとな。
【ピロリン♪ 条件を達成しました。
初級地魔法『
詠唱呪文は『突き抜けろ、地の
消費MP=10。魔法攻撃力=知性×三倍】
「よし! やっと習得出来た。どれどれ……突き抜けろ、地の咆哮? いやいや! パァネェテェレとキュゥキュルルゥは、明らかに違う呪文でしょう!」
五時間ほどで習得できた新しい魔法の詠唱呪文は、ちょっと納得できなかった。
アクアマンドレイクは草人族で、プチトレントはトレント族だ。
同じ植物系の魔物だから、似たような魔法になるのは仕方ない。
でも、全然発音が違う。僕の耳でも、英語と中国語ぐらいは聞き分けられると思う。
「あっー、でも、アクアは北側の海岸地帯に住んでいたから違うのか?」
この異世界の地図で判断すると、アクアマンドレイクは中国辺りに住んでいて、プチトレントはオーストラリア辺りに住んでいる事になる。
そう考えると、今いるこの大陸は魔物の種族だけでなく、人の種族も違う可能性がある。
僕が最初にいた街は東洋人系の顔の人が多かったけど、こっちは西洋人が多いかもしれない。
つまりは巨乳金髪美女が生息していると期待してもいいという訳だ。
これは敵情視察も兼ねて、小さな村を神フォンで見つけて、調査しなくてはいけなくなった。
「ふぅ~、忙しくなりそうだぜ」
でも、僕も馬鹿じゃない。
低レベルで敵情視察しようものなら、ポモナ村強制リンチ祭りと、同じ目に遭ってしまう。
しばらくは修業を頑張って、強くなるしかないのだ。
♦︎
コンコン♪ コンコン♪
「んっ、んんっ……誰だよ、朝から……?」
時刻は午前七時を少し過ぎたばかりだった。家の扉をしつこく叩く音で目が覚めてしまった。
確かアルアの魔法の個人レッスンは朝九時からの約束だった。
もう教えたくて、教えてたくて、我慢できないなら仕方ないけど、そういうのは夜中に来るべきだ。
まあ、朝でもいいけど……。
「ふぁ~ぁ、ちょっと待っててね」
僕はゆっくりとベッドから起きると、軽く髪型や服装をチェックしてから、家の扉を開けた。
そこには期待した人物はいなかった。
代わりに黒髪お下げの割烹着女が立っていた。
「お、おはようございます」
「ああ、おはよう。朝早くからどうしたんだい?」
悪いけど、僕にも我慢できない事がある。
男として、初めて付き合う女性は、遊びじゃなくて本気で選びたい。
つまりは日本語訳にすると、「さっさと消えてくれ」だ。
「昨日、トオルが引っ越して来たのに、私ったら、引っ越しそばも作らなかったから、朝から作ってみたんです。よかったら食べてください」
もう呼び捨てかよ。馴れ馴れしいなぁ~。
俺はお前の事を彼女とも、隣の家の幼なじみとも認めてないんだからな。
勝手に非公認の幼なじみになってんじゃねぇよ。
ハッキリ言えば、アクセサリー屋と冒険者ギルドの間に住みたかった。
なんで、ハズレ物件の食堂の隣なんかに住まないといけないんだよ。
お前なんか、ダミアじゃなくて、ダミアンなんだよ!
この悪魔の子め! さっさと俺の家から出て行けよ!
「ありがとう。いくらするの?」
もちろん、いつものように心の中で思うだけだ。そんな酷い事を言うはずがない。
笑顔で冷たいそばを受け取ると、神フォンを取り出して、とりあえず支払う意思だけは見せてみた。
「300エルでいいですよ。ざるそばにトロロをたっぷりとかけて、その上に納豆と大根おろし、刻みネギとワサビを添えて見ました」
「へぇー、美味しそうだね」
高えなぁ~! それに、お前の性格みたいなそばだな。
ドロドロ、ネバネバ、本当に言った材料以外は入れてないよな?
涎とか髪の毛とか入っていたらブッ殺すからな!
「もちろん、隠し味の愛情もたっぷり入れましたよ。きゃあっ♡」
「……」
何が、「きゃあっ♡」だ。全然隠せてねぇよ。ハァ、ハァ、朝から血圧上げさせやがって。
この女は絶対にヤバイ。普段の僕はここまで性格悪くはない。
でも、僕の中の僕が言っているのだ。
この女は絶対にストーカーになるタイプだと、関わってはいけない女だと。
「じゃあ、お昼にまた来ますね。何か食べたい物があれば、何でも作るので遠慮なく言ってくださいね」
「うん、考えておくよ」
「あとぉ~~~、昨日の夜、どうして来てくれなかったんですか? 私、布団の中で待ってたんだけどなぁ~。きゃあ、言っちゃった♡」
さっさと帰ればいいのに、上目遣いで両手の人差し指を絡ませてモジモジし始めた。
そのまま布団の中で永眠していればいいんだよ。
しかも、行くつもりも、イクつもりも、イカせるつもりもない。
いや、覚えたての地魔法なら、地獄に
いやいや、駄目だ! 冷静になるんだ。
いくら地味でムカつく田舎女だけど、女の子なのは間違いはない。
この町は女子率が高い。女の子には優しくしないと悪い噂が広まるぞ。
「あっははは、冗談でも女の子はそんな事言っちゃ駄目だよ」
「もうぉ~、冗談じゃないんだぞ♡」
チョン♡ とモジモジさせていた人差し指で、俺様の綺麗な胸板を突いてきた。
「あっ……」
思わず声が出てしまった。感じた訳ではない。
指先で僕を突く行為は絶対に許されない行為なのだ。
その瞬間、ブチッと僕の中の何かが切れてしまった。
僕はもう『ひでぶぅ』じゃない。
誰にも二度と、北斗式サンドバッグをやらせるつもりはない。
「〝突き抜けろ、地の咆哮〟」
小声で呪文を唱えると、大地から鋭く硬い岩の棘を、割烹着女の尻に向かって突き出した。
「えっ? ぎゃあああああっ⁉︎ はふぅ……」
ズキューン‼︎ 鋭い岩棘は割烹着を楽々貫通して、即死級の浣腸がダミアを貫いた。
ダミアはしばらく悶え苦しんだ後に、安らかにガクンと気絶した。
昨日、寝ていないらしいのでちょうどいい。
玄関前の岩棘に突き刺さった状態で、放置する事にした。
「これで二度と俺様に近づきたいとは思わないだろう」
この町では誰も死なない。
それは昨日、レクシーの剣で気絶させられたから経験済みだ。
このダミアもしばらくすれば、生き返るはずだ。
また僕に付き纏うようならば、もう一回突き刺してやる。
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