第6話

 使いものにならない小豹には僕の影の中に入ってもらった。

 影の中に入れる事でHPを回復させる事が出来るらしい。

 約二時間で最大HPの一割が回復するらしいので、二十時間入れておけば、完全回復すると思っていいはずだ。


「スキルの使い方は色々分かりましたけど、僕、結局は野宿生活ですよね? レベルを上げる前に死んじゃいますよ。魔物を倒して食べないといけないんですか?」

『もぉー、ひでぶぅは……私はひでぶぅのお母さんでも学校の先生でもないんだよ! ちょっとは自分で考えなさい!』

「ウッヒョ~♪」


 思わず身体の下から上に向かって、ゾクゾクと登って行く、何とも言えない快感に声を出してしまった。

 ヤバイ。可愛い声だけでも、叱っている女神様と純白パンティーからのローアングルを想像してしまうと興奮してしまう。

 きっと人差し指をビシッと一本立てて、『覗いちゃ駄目!』と僕に向かって突き出して、プンプン怒っているぞ。


『うっひゃー⁉︎ ひでぶぅ、今、私のエッチな姿を想像しているでしょう⁉︎ 心が気持ち悪いなぁ~』

「心⁉︎ エッチな事なんて想像してませんよ! 真剣に考えている最中ですよ!」

『じゃあ、言って』

「えっーと……」


 ごめんなさい! 女神様の純白パンティーを無限フラッシュバックさせていました。

 でも、サバイバル能力とか料理スキルはないんです。正直お手上げです。

 僕一人だと、二日で死んじゃいます。


『ほら! やっぱり何も考えてない……まあ、ひでぶぅなら仕方ないか。古い機種が大量に残っているから、ひでぶぅに特別に貸してあげるね。じゃあ送るねぇ~♪』

「えっ、送る? わぁっ⁉︎ わぁっ⁉︎ 何ですか、コレ?」


 僕の頭上から光の球体に包まれた何かが、ゆっくりと落ちて来た。

 両手の手のひらを広げて、光る球体の下に持っていくと、ポォフンと手の中に落ちて来た。

 元いた世界でよく見かけるスマートフォンに似ているというよりも……スマートフォンだ。


神フォンⅩⅢカミフォンサァーティィーンだよ』

「カミフォンサァーティーン⁉︎」

『違う違う! カミフォンサァーティィーンだよ!』

「カミフォンサァーティィン?」

『違う違う! よく聴いてよ! カミフォンサァーティィーンだよ!』

「カミフォンサァーティィーン?」

『そうそう、その発音だよ。忘れちゃ駄目だよ』


 どうでもいいわ! 僕は女神様の発音テストは気にせずに、赤色長方形の神フォンのスイッチを探した。

 世界中のどこにもスマートフォンⅩⅢは、まだ発売されていない。

 という事は神様の方が本家になりそうだけど、ただ単にコロコロ新機種を出しているだけだろう。

 僕は適当に外周に付いている細長いボタンを押すと、神フォンを起動させた。


『あっ、勝手に起動している……まあいいや。その神フォンを使えば、武器や防具、食事やアイテムぐらいは街に行かなくても手に入るよ。もちろんお金を払わないと駄目だけどね』

「街に行かなくてもですか……でも、お金がないなら使えませんね」


 目の前に屋台のラーメン屋があっても、お金が無いなら食べられない。

 ドジっ子天然女神様は使えないスキルの次は、使えない道具を渡すつもりなのだろうか?


『フッフフフ。言ったでしょう。街に行かなくてもいいって。この神フォンの機能は、『カレンダー』『写真』『カメラ』『マップ地図』『時計』『天気予報』『メモ帳』『育成RPGゲーム』の八つだよ!』


 声だけでも女神様のドヤァ顔が目に浮かんでしまう。

 時計と天気予報とマップは地味に便利そうだけど、カメラと育成RPGゲームは、趣味や暇つぶしにしかなりそうにない。

 綺麗な写真を撮って、女神様に送れば、お金が貰えるのだろうか?

 

「それでどうやったら、お金が稼げて、食事が手に入るんですか? 写真を撮って、女神様に送ればいいですか?」

『写真を送る? うううん、違うよ。まずはカメラ機能で倒した魔物を撮ってみて。そのスマホに写真として収納する事が出来るから。もちろん服とか素材とかも収納できるよ』

「へぇー、アイテムボックスみたいな機能ですか……」


 試しに倒した小豹を『カメラ』を使って撮ってみた。

 カシャっと画面の撮影ボタンをタッチすると、目の前から小豹が消えてしまった。

 その次に画面の『写真』をタッチすると、撮ったばかりの小豹の写真だけが保存されていた。


『そうそう、それで第一段階終了だよ。撮った写真をタッチすれば、『取り出す』『換金』の二つが選べるから換金を選べば、育成RPGゲーム内の品物が買えるお金が手に入るよ。さあ、次はゲームをプレイしてみて』

「えっ、えっ、ちょっと待ってくださいよ⁉︎」


 ちょっと僕には説明のテンポが早過ぎる。

 今、小豹を換金して、謎の通貨『12エル』を手に入れたばかりだ。

 

『もぉー、鈍臭いなぁー。焼きそば一個買うにも75エルは必要なんだよ! ゲームを進めれば買える商品は増えるけど、お金がないと手には入らないんだからね!』

「全然お金が足りないじゃないですか!」

『そうだよ。だから急がないと駄目だよ。とりあえず、もう一匹倒した小豹がいるから歩きながら説明するよ』

 

 少なくとも小豹を七匹も倒さないと、焼きそばが食べられない。

 森の中に魔物の姿は見えないし、木の枝とか大量に集めれば売れないだろうか?

 そうしないときっと食べ物は手に入らない。


「……」


 それにしても……戦闘を見ていないと言っていたのに、何故もう一匹倒していると知っているのだろうか?

 もうハッキリと見ていたと白状しているようなものだ。

 もしかして、僕のピンチを楽しんでいるんじゃないのか?


 とりあえず、女神様のゲームの説明を聞きながら、森の中を歩きスマホで移動した。

 女神様の案内で倒した小豹の元に辿り着くと、カシャと写真撮影した。これで24エルだ。


『——まあ、こんな感じでゲーム内のお店を発展させていけば、お店の品揃えがグレードアップするの。私は面倒そうだからやりたくないけど、ひでぶぅはやらないと死ぬから頑張ってね。じゃあ』

「あっ……まあいいか。今のところ聞きたい事はないし」


 いつものように言いたい事だけ言うと、女神様は電話を切ってしまった。

 やっぱり最後のガチャンは自分で言っていたようだ。ツゥツゥツゥも聞こえなかった。

 おそらく、次に連絡が来るのはピンチ前か、レベルが10まで上がった時になる。

 

「とりあえず、一通り神フォンの機能を使ってみた後に、お金になりそうな物を探してみるか」


 時計を見ると、まだ午後三時だった。

 明日の天気は晴れ。最悪、野宿をするには天候は問題ない。

 マップを開いて現在地を拡大すると、複数の赤色の点滅がマップ上を移動していた。

 多分、ゲームと同じなら、魔物の位置を示していると思う。まずは確認かな。

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