第39話 倍返しだいしゅきホールド
「ただいま〜、久しぶりの家」
「……おおう……ってその格好ッ!」
玄関で反応に困る挨拶。
しかし、もっと反応に困るのは彼女の服装だ。
有菜は時間ぴったりに家に来た。
グレーのキャミソールは身体に吸い付くようにぴっちりとしている。大きいバストを強調させ、おヘソがどこにあるかもわかってしまう。
来るまでに汗をかいたようで、そこだけ部分的に黒くなっている。凹凸感がモノトーンで表現されてしまっているのだ。
一応、途中まで着ていただろう白シャツは肩にかけて、下は赤いミニスカートを履いているが角度によっては中が見えそうだ。
もはやどこを見ていいか分からない。
「お外暑くていっぱい汗かいちゃった。というか、そこは『おかえり』じゃないの?」
「……そ、そうなんだ。いや俺達の家じゃねえし」
汗かく方だったかな。
でもわざとにしてはやり過ぎだし、相当暑かったんだろう。
「へぇ!? じゃあ家買ってくれる予定でもあるの?」
「あーもう! さっさと上行くぞ」
「うわっ、連れ込む気満々だぁ!」
「ちが! そんな服装で外にいられるのが心配なんだよ」
「はいはい! お邪魔しまーす」
有菜は靴を脱いで、そのまま階段の方へ向かっていく。懐かしの家、1Fのダイニングやリビングは見なくていいんだろうか。
なんて思っていると、一段目に足を乗せた瞬間。
「──いてて……脚つっちゃった。プール泳ぎ過ぎたかも」
「はっ?」
絶対嘘だ。
そもそもに片目のウインク付き、もうおんぶしてくれと言っているだけ。
「歩いてくるの大変だったなぁ。暑かったなぁ……手すりついてるし頑張って上がるしかないのかな」
「……わかったわかった。おんぶする」
と言った途端、彼女はぺろりと舌舐めずりをして妖艶な笑みを浮かべた。
両手を広げておんぶをせがんでくる。
足痛いんじゃなかったのかよ、せめて痛がるような仕草でもしないのか。
しかし、拒否権はないのも分かってる。
部屋に入る前なんだが、完全にその手のモードに入っている気がする、もうヤバい。
「は・や・く」
何も考えるな。
俺は抜いていないんだ。
今、真っ白にするのは頭だけでいい。
筋肉痛で体の節々が悲鳴を上げているが、それぐらい覚悟しよう。
2階までただおんぶするだけなんだ、と思っていたら……。
「────ふっ。あ゛、有菜おま」
「へへ〜! ロックしちゃった」
ミニスカートから出るしなやかな生脚を俺の腰で結ばれた。
首元も同じように腕でギュッと固定されてしまう。
柔らかい。そして熱い。たわわな2つのものは背中の形に合わせて形をぐにゃりと変えているだろう。
理性が吹っ飛びそうだ。
ただ、階段に登る前で良かった。
「やめ……ちょ、何してんだッ!」
「倍返しって言ったもん」
有菜が家に来る前、少し電話をした。
それは「アオと喫茶店で何をしていたか」か、というなんとも罪深い報告だったが、彼女は怒ることもなく、事実を淡々と聞いていた。
俺もただでは済まないと思って身構え、部屋で何かされるとは思っていたが予想を遥かに超えてきた。
つまり、この「倍返し」と言っているのはアオにされた後ろからのハグの倍返し。
だからこの後、アオにされたことというと……。
「あ……待て、一回降ろす」
「や〜だ。それとも正面からがいいの?」
耳元で蠱惑的なトーンで囁かれた。
ゾクリと背筋を震わせてしまう。
亜麻色の髪が首襟からシャツの中に少し入ってこそばゆい。
そのまま力が抜けてしまって、倒れそうになるが階段の手すりにつかまることで事なきを得た。
会話してはだめだ、無言で登り切るしかない。
「そうそう、手すりに摑まって頑張ってね」
一歩ずつ上がる。
いつ来るか分からない、攻撃──耳キスに備える。
こんなに踏みしめるように階段を上るのは人生で初めてだ。
「ねね、どんな倍返しか想像付いてる?」
何を言われても想像してはいけない。
大きくしてくれるなよ息子よ。
たとえ生脚が当たっていたとしても。
しかし、プールの一件で耐性がついてしまった幼馴染は…………。
「おやおや、なにこれ。ふーん。私も胸おっきくなったでしょ……ん〜? 勇緒ほどじゃないかな〜」
深呼吸を挟んで、また一段、二段と上っていく。
「反応ないと意地悪したくなっちゃう……ん〜。でもお部屋じゃないと倍返しにならないしなぁ〜」
頑なに言葉責めを上りきり、無視して自室の扉の前に着いた。
首をロックしていた手で有菜がドアノブを開けてくれ、そのまま中に入った。
「あんまり変わってないね、別に変えてくれて良かったのに……なんだか勇緒っぽい、ほんと不器用だよね」
「不器用? とりあえず降ろすぞ」
「駄目、ベッドがいい。不器用っていうのはなーんでもそのままにしたいって感じかな……だって私達も成長するのに」
「……マジで降ろすだけだからな。部屋を勝手にいじると怒るかなって思ってたんだよ」
有菜は更に俺の顔の横からぐるりと神妙な面持ちで部屋を見渡した。
「ふぅん。別に怒らないし……って何あのダンボールスペース。パソコン置いてるし」
「俺の城」
「あそこで凛ちゃんとゲームしてたの?」
「……まあうん」
気まずくなりながらもベッドについた俺は背中を向けた。
すると「ボスッ」という音と共に、有菜はベッドにお尻から落ちた。
「は〜、もう──事後報告にする」
腰のロック、美少女の生脚は外れた……と思ったが首に巻き付いていた両腕がまた俺の腰をぎゅっと引っ張り、シングルベッドに引きずり込まれた。
昨日の慣れないプールでヘトヘト。筋肉痛の中、階段をおんぶしながら上りきった俺は力が入らない。されるがまま。
今や仰向けで寝かされ、すぐ目の前には赤くなった有菜の顔がある。耳と首元にはさらりとした髪が当たってただでさえ刺激が強い。
「ちょ……っと。心の準備が……それに早い、と思う」
「凛ちゃんがして、私がダメってことは無いでしょ。そこから先は任せるから」
「ちょ、先って……」
「もう! いちいち確認しないで……! こっちも恥ずかしいんだって」
ベッドの上でお互い顔を真っ赤にしている。
本来はこういうリードは男の役目だろう。
俺が昔のトラウマと決別出来てないだけで……。
「ごめん」
「ううん、いいよ。でもちゃんと上書きしたいから……もう一回教えてよ……その、どんな風にされたか」
背徳的過ぎる倍返しの内容。
でも、散々彼女を待たせている俺は従うしかなく、タジタジかつ片言になりながらも教えた。
グレーのキャミソール、胸の谷間に出来たクッキリと出来ている汗染み。
女の子特有のシャンプーの甘い匂い。
全てが犯罪的にエロい。
すると有菜は垂れていた髪を耳にかけ、唇を俺の耳元まで近づけて、
「こ、こんなやつ……かな」
────ちゅ。
まずは等倍からスタートするようだ。
何倍返しになるか分かったもんじゃない。
「おい……ちょま」
静止しようとするが、既に頭はクラクラっときている。いつの間にか、顔よりも上の位置で両手とも恋人繋ぎ。
「意外にやれそう……かも。このまま舐めちゃうね」
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