第4話

 俺が机に広げたノート、その4人だけの美少女名簿のページを真剣な眼差しで見つめる有菜。裏表紙のルール一覧ではなくこちらが気になる様子。


 次のページには俺の名前がぽつりと書いてあるだけ。他のページは破かれたりはしているものの、基本的に白紙のままで使われていない。


 このノートに書かれている人達は俺を含めて全員、同じ学校の人間。

 リストアップされた美少女達は2年生が三名、3年生が一名という構成だ。


「一年生は書かれてないね」


「確かに……」


 有菜に言われて、美少女名簿の人達を上から順番に思い出していく。

 4人とも髪の色が違うので思い出しやすい。間違うことはないだろう。

 

 一人目の夏樹里穂なつきりほ、夏樹さんはショートボブの黒髪清楚系美少女。今ちょっと危なそう。


 二人目の三条木葉さんじょうこのは、三条さんは女子陸上部のエースで赤髪スポーティーのスレンダー美少女。男よりもバトンを選びそうな印象。


 三人目の来栖時雨くるすしぐれ、来栖先輩さんは一つ上の先輩でクールで謎めくミステリアス美少女。髪色は紫で図書室で一度話したことしかない。


 四人目の先咲有菜さきざきありな、有菜は俺の幼馴染で詳細不要の美少女。


 何故、有菜は最後に書かれているのか。

 この順番にも何か意味があるのだろうか。

 そしてこういう場合、手がかりの糸口になりえるものはといえば…………。


「────、で誰が書いたか判らないかなぁ?」


「うん……俺は何となく丸文字っぽく見えるな」


「じゃあ、犯人は女の子?」


 確かにその説は大いにある。むしろそちらの方が可能性としては高いかもしれない。

 夏樹さんと付き合っている室斑は、かなりのイケメンでサッカー部のエース。

 惚れた腫れたの中心人物だ。仲を引き裂きたい輩は多くいるだろう。


「ありえる話だと思う。むしろ男子より可能性はあるはず」


「そっか……。あとは2年生の可能性も濃厚だよね。4人の内3人がそうだし」


「ああ、俺もそう思う」


 俺たちは顎に手をやり探偵と助手ごっこに興じていると、不意に声を掛けられた。



「────あの! これって噂のNTRネトラレノートですか!?」


 声を掛けられた隣を見る。

 背が小さく、小動物を思わせる女の子がそこにはいた。

 青みがかった髪を肩まで伸ばし、右側だけワンポイントの編み込み。

 髪と同じ色の瞳は大きくて、庇護欲がそそられるような垂れ目。


 とても可愛い子だ。それも有菜と同じ制服を着ている。


 誰なんだろう。同じ学校のこんなに可愛い美少女なのに、俺があまりピンとこないということは1年の後輩だろうか。


 それに何故、この子がノートの存在を知っているのか。もしかして割と有名な代物なのか。


「えっと……ごめん、まず誰かな」



「私、一年A組の青野凛あおのりんっていいます。吉野先輩と先咲先輩、ですよね!」


「「うん」」


 俺と有菜はハモって頷くが、どこか有菜だけ彼女を警戒しているような目をしている。

 流石に、百合展開の寝取られはないだろ。ここは耳打ちといこう。


(百合展開はな────って、痛てて……)


 なぜか足を机の下で踏ん付けられる。冗談じゃないか。

 一方、目の前の青野さんは嬉しそうな顔を浮かべて小ジャンプ。



「すっごい! そのノートといい、私が会いたかったが揃いも揃って!」


「ん? 有菜と会いたかったの?」


「いえ! 私が会いたかったのは────です!」


 痛ててて。何でまだローファーを俺の足からどけてないんだ有菜。

 そろそろ、赤くなっちゃうって。

 この子はアレだな。ちょっとストレート過ぎる性格のようだ。可愛い女の子だし、何はともあれ嬉しいけどさ。


 鼻の下が伸びている俺の右足を未だふみふみしながら、満面の笑みで青野さんに質問する有菜。


 なんだろう、すごく嫌な予感がする。


「へー! 凛ちゃんっていうんだ、勇緒がどうかしたの?」



「はい! 私、吉野先輩……ううん、あっちじゃイサ、『isaomanいさおまん』と……

 ────、してて」

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