第13話 瀧元の呼び出し
あの日から、もう四日、理帆から電話もなく、こちらからも掛けない。
今ならやり直せるかもと思うこともある。校長に詫びを入れて、辞職願いを取り下げる。そして、言われたとおりに転勤する。そうすれば、理帆との関係を今までどおりに続けられるだろう。京都に出るには不便な場所に引っ越すことになるが、理帆と会えなくなるわけでもない。
なぜ、こだわって、意地を張っているのだろう。寝ていても、何度も目が覚めてしまう。両親が離婚して、父に引き取られるとき、母と暮らしたいと言えなかった、その時の息苦しさが夢の中でぶり返してきて、目が覚めてしまう。父が新しい家族を引き合わせたときも、いやだと言えず、気持ちを押し殺して、新しい家族と毎日を過ごした。
今は、理帆が自分の前から消えてしまうことが起こってしまいそうで怖い。
しかし、校長に願い出て退職を取り消すなんて、自分はしたくないし、そんなことをやってはいけない。
卒業式まであと三日となった。
夜遅い時間に瀧元から久しぶりに電話があった。大事な話をしたいから、明日の夜、仕事が終わる頃に梅田で会おうという連絡だった。
どんな用事かと問うと、瀧元は、お前の一身一大事やないかと言って切った。
翌日は、早めに仕事を切り上げ、五時に学校を出て、車を駅近くの駐車場において、電車で梅田まで出て、待ち合わせの店に行った。
二十分ほど待って、瀧元がやってきた。
食事をしながら話そうというので、注文を終えてから瀧元の話を聞き出した。
「お前は、理帆さんを泣かせるようなことをして、アホなんか?」
「理帆がどう言ったのか?」
「仕事はどうするんや。理帆さんから、うちの千尋に連絡があった。俺に、広教が失職しそうだから、どうしたらいいか、相談に乗ってほしいと言うことやった」
「俺は電話を替わってもらって、理帆さんから直接、事情を聞いた」
「お前なあ、彼女に心配かけて、どうするねん。惚れてるんやろ?別れたくないやろ?」
「ああ」
「なにをしょんぼりしとるんや」
「お前の人生、お前が選択するもんやろ、違うか?」
広教は何も言えなかった。
「で、俺に考えがある。しっかり聞けよ。俺の母校にまだ恩師が勤めてるから、講師の口がないか、頼んでみるわ。母校がだめでも、先生は顔が広いから、どこかに働ける口があるはずや。ただし、東京になるけど、いいな」
「ああ、その方が、むしろいい」
瀧元は、今では大阪のことばに馴染んでいるが、元々は東京の中高一貫教育の私立学校の出身である。地学教師の需要は少ないだろうが、中学で理科を教えることも可能なら、働く口はあると言った。
「俺に任せとけ」
そう言って、瀧元はため息をついた。
「その代わり、理帆さんにちゃんと謝って、仲直りをしろよ」
「お前のことを心配して、俺に相談までしてきた、俺は胸が熱くなった」
広教は瀧元に頭を下げた。
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