第6話 よし君の死

 夏休みの最終日、よし君は駅のホームから転落して通過する電車にはねられ、亡くなった。

 二学期の始業式は全校集会となり、よし君の死が校長から伝えられた。体育館は重苦しい空気になり、気分が悪くなって退室する生徒が続いた。

 校長の話では、事故か事件か、つまり、自殺だったかどうかはわからないとのことだ。遺書もなく、家族の話では普段と変わった様子はなかったそうだ。家を出たあと、よし君は、中学校の時に住んでいた街まで行って、そこの駅のホームで事故に遭っている。なぜ、以前に住んでいた街を訪れたのかは不明だと言う。


 集会が終わり、職員室に戻ると、「こんなことがあると、学校の評判が下がる」と話す声が聞こえた。そんなことを気にする教師がいるのかと広教はあきれたが、言った教師の顔だけ確かめて、黙っていた。

 通夜に参列した地学研究部の部員は三人とも号泣して、気の張っていた広教も思わずもらい泣きをしてしまった。


三人をなだめて、帰したあと、一人で車を運転していると、淡路島の巡検を思い出した。涙があふれて、前が見えなくなった。あの時は芦田が来ていなかったので、よし君を助手席に座らせたのだった。今、その時の事を鮮やかに思い出す。

 横にはよし君がいる。うれしそうに掘り当てたアンモナイトの話をする。大学で勉強したい。そう話していたよし君が、なぜ、事故に遭ったのか?それとも、死を選んだのか?よし君の家庭に何か解決できない問題があったのか。あるいは、よし君は死に取りつかれてしまったのか。

 よし君、僕は、止めることも、何もできなかった。目の前が涙にあふれ、前が見えない、運転できない。


 車を路肩に停め、ハザードをつけて、一人で泣いた。声を上げて泣いた。どのくらいそうしていたのか、電話の音で我に返った。見ると、理帆からだった。

「まだ学校?仕事してる?」

「いや、車の中にいる。帰るところ」

「かけ直そうか」

「いや、停まってるから大丈夫」

「何かあった?」

「生徒の葬式の帰り」


 しばらく沈黙があった。

「事故?病気?」

「たぶん自殺」


 再び長い沈黙があった。

「あなた、自分を責めてるでしょ」

「生徒を救えなかったって思ってるでしょ」

「そんなこと、誰にもできないのよ。生徒が大事なら、すぐに、ちゃんと家に帰って」

そう言って電話は切れた。

広教はどっちが教師かわらないなと苦笑いがこみあげてきて、車を出した。


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