第4話 理帆と初デート

 理帆と初めてのデートをすることになった。

模擬試験の監督やクラブ活動のない休日がなかなかなくて、出会いから一ヶ月後にようやく日があいた。それまで連絡は取っていたが、会うまでに間が空いてしまったので、広教は不安になった。


 阪急電車の三宮駅で待ち合わせをする。

京都から来る理帆は、京都線から十三で神戸線に乗り換えて、特急電車で一時間少々かかる。

広教は北口から三宮まで特急で一五分程度だ。

早めに行って遠くから来る理帆を待っていようとしたが、改札から出てすぐ、理帆と出会った。同じ特急電車に乗っていたようだ。

土曜の三宮は人出が多く、駅から出るのも混雑して歩きにくい。


「神戸は久しぶり」そういう理帆に、

「電車も混んでたでしょ」と言うと、

「きれいでおしゃれな人見たわ。女優さんかと思った」

「神戸線はたまにびっくりするほどきれいな女性が乗ってるな」

「ふーん」と相づちを打って、広教の顔を見る。

「京都も美人が多いけど、この阪神間は特に多い気がする」

「電車の中もおしゃれな人が多かったわ」

「阪急電車はちょっと独特やねん」

「目移りがするでしょ」

「こんな美人を前にそんなことしません」

「口がうまいのね」

「口で商売してるからな、いや教育か」


 北野に行きたいという理帆を連れて、フラワーロードから坂道を上っていく。

異人館やおしゃれな店を見て巡り、坂道に面したカフェで休憩した。

「外国人の観光客が多いわね。まあ京都も同じだけど」

そう言って、窓の外に視線を向けた。その横顔がはっとするほど美しくて広教は見とれてしまった。白い肌、うなじのほつれ毛、高い鼻筋に長いまつげ。

理帆の視線が広教の方に戻った瞬間、広教は目をそらした。


「この前会ったとき、クラブで踊ったでしょう」

「あの時、私の腰に手を回したの、覚えている?」

「よく覚えているよ、嫌だった?」

「うーん」考え込む。

「嫌な思いをさせたなら、謝る。申し訳ない」

「初めて会って、こんなことする人なのかなって」

「悪かった。ちょっと調子に乗って人との距離感がつかめなくなることがあって。多分、理帆さんと会えて舞い上がってたんだと思う」

「気に入ってくれたのはうれしかったけど、触られるのは苦手で」

広教は本気で弁明しだした。

「これからは軽率なことはしないから、信じてくれたらうれしいな」

「今まで身体に触りたがる人とはうまくいかなくて」

「すぐに別れてしまうの」


 なんだかとてつもなく悪いことをしてしまった気になってきた。

「ごめんなさい、調子に乗ることは二度としないから、いや、二度としないと言うのもなんだか」

歯切れが悪くなって、広教が暗い顔つきになったのを見て理帆は苦笑した。

「うん、わかってくれてうれしいわ」

「わたし、人となじめるまではすごく時間がかかるの」

「時間が、かかっても、、いいんじゃないか」

ゆっくりと宏一が言った。心の中にあることを素直に表現するとそうなった。


 理帆は急に表情を明るくして、

「ねえ、何でも話していい?」

「いいよ、聞くのが商売、いや教育の仕事だから」

「そうだよね、毎日、高校生の悩みや愚痴を聞いているんでしょう」

「その上、わたしの話まで聞かされたら、オーバーワークになるんじゃない?」

「理帆さんの話はワークじゃない、魂のマストアイテムやな』

「ちょっと何言ってるのかわかんない」

理帆の笑顔が広教の心をしっかりとつかんでしまった。


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