ホームレス魔法少女クララ
とまと
依頼をするなら金をくれ
雨は好きよ。
汚れた街が、洗い流されてる感じがするじゃない。でもね、それは住む家があるならの話よ。まぁ、私の汚れが落ちるから良いんだけどね。
雨の音も好き。
空から落ちた雨が屋根に当たる音。そこから流れた雫が、溜まった水溜りに当たって跳ねる音。傘をポタポタと打つ音も良いわね。それらを聞いていると、なんだかウトウトとしてくるじゃない。屋根ないんだけどね。
私の名前は『
ちょっとビックリするでしょ? キラキラネームじゃないのよ。私の両親は苗字が印象悪いからって、名前は明るいイメージで付けたらしいの。どうしてセットで考えなかったのかしら、不思議。私の未来はお先真っ暗よ、現在進行形でね。
私のことはおいおい話の流れで語らせてもらうわ。だけど先に一つだけ、私は世界で唯一の魔法が使える女の子。どう? この先も読み進めようって気になったかしら。えっ? ありきたりな設定だからつまんないですって? 馬鹿言わないで、私はそこらの物語りに出てくる魔法使いとはちょっと違うのよ。魔法を使う為にあるモノが必要なの、それは魔力とかあやふやなエネルギーでも無く、長ったらしい詠唱でも無いわ。
それは『お金』よ。
資本主義バンザイね。全く私のお金はどこに行ってるのかしら? 神のみぞ知るよ。
まぁ、そんなこんなで私は家なき子。今は私が通う中学校の近くにある、河川敷の橋の下に住んでるわ。学校にもここから通ってる。定番のダンボールで作った立派な我が家。今回はガムテープも使ってこだわって作ったのよ。それもこの狂ったような雨で、川の濁流に飲まれてなくなっちゃったけどね。世知辛い世の中。
両親は何やってるのとか、食事はどうしてるのとか役所は保護しないのかなんて色々疑問が浮かんでると思うけど、今は答えない。
コレでも結構楽しくやってるの。時折来る依頼でなんとか生きてるしね。
ほら、そんなこと言ってたら、今日も依頼主が私の元へやってきたわ。丁重に持てなしてやろうじゃないの、家無いけど。
♦︎♦︎♦︎
「こんにちは。あなたがあの有名な魔法使い、クララさんですか?」
ほほぅ、第一関門は突破したじゃ無い。私のことを本名で呼んだら川に叩き落としてるところよ。呼び名が浸透してきた証拠ね。
「そうよ、私がクララ。この世で唯一の魔法が使える美少女よ」
それにしてもあんまりお金持って無さそうね……。歳は二十歳ってところかしら、スーツを着ているから社会人ではありそうね。
「その……、お願いがあって来ました」
「ちょっと待って。依頼の条件知らないの?」
「あっ、聞いています。依頼を話す時は食事をしながら、……ですよね?」
「合格。良い店知ってるから移動しましょう」
私は……、名前聞くの忘れてたわ。青年Aと共に、馴染みの定食屋についたとさ。
「おばちゃーん、いつものお願いね!」
引き戸を勢いよく開け、開口一番に注文する。私のいつもの行動におばちゃんが元気よく返事を返してくれた。
「あなた名前は?」
「あっ、私の名前は
「ふーん、なんか凄そうな名前ね、見た目ヘロヘロなのに。伊蔵はなにか食べないの?」
「今は食べる気分じゃなくて……」
「ダメよ、食べ物屋さんで注文しないなんてありえないわ。おばちゃん! 同じの二つね」
全く何を考えてるのかしら? 食べられる時に食べる、こんなの基本じゃない。やっぱり今日の依頼はハズレかしら。
「はいよお待ちっ! クララスペシャルご飯増し増しセット二つね!」
「わわわーっ! 流石おばちゃん、今日も料理が輝いてるわ!」
これよコレコレ! トンカツ唐揚げ餃子にハンバーグ、そっと別皿に添えられたナポリタンに、丼に盛られた真っ白いお米! 具がた〜っぷりの味噌汁も良い香りがしてるわ。コレで二日分はイケるわね!
「えっ? 何ですかこの量……」
「全部食べなかったら殺すわよ」
今、私は食事に集中したいの。余計なことで気分を害さないでね伊蔵君。
「ふぇや〜、食った食った。それで依頼って何?」
何よこの子、まだ三分の一も食べて無いじゃない。
「ゲホっゲホっ! すみません!」
はいはいお水ね、ゆっくり飲みなさい。タダほど美味いモノはないのよ。
「すみません。実は探して欲しいモノがありまして……」
「ゲッ、モノ探しかぁ〜。あんまりお金にならないのよね」
「ごめんなさい。お金はちゃんと払いますので、どうかお願いします!」
「あのね、お金払うのは当たり前なの。物事にはそれ相応の対価が必要って分かってる?」
コレだから最近の若者はダメなのよ。
「モノは?」
「実は会社の重要な書類を鞄ごと落としてしまって……。見つかりますか?」
「誰に言ってるのよ。あんたの目の前に居るのは魔法使いよ! 唯一無二、唯我独尊、ヒトトヨウ」
「ちょっと何言ってるか分からないです」
「オンリーワンってことよ、語呂も良いでしょ?」
「……はい」
何よ、ハッキリしない男ね。サッサと終わらせて、今夜の寝床探さなきゃ。
「手出して」
「はいっ?」
「良いから手を出しなさい! それとお金。モノ探しは一回一万円よ。五千円札二枚で頂戴」
はいはい、毎度あり〜。五千円はポッケに閉まってと。
「じゃ、その鞄を出来るだけ正確に思い描いて。私が場所を探るから」
うん、やっぱり男と手を繋ぐのは慣れないわね。まぁ仕方がないわ。さてさて、この五千円札を握りしめましてっと。じゃいっちょやってみますか!
『みんなで考えよー♪ お金は大事だよー♩ ウーウ♫ ウーウ、ウウウー♬』
「えっ??」
「はい、分かんない」
ふー、疲れた。デザート食べようかしら。
「えっ? 手に持ってたお金が消えた?! えっ? 分からない?!」
「あのね、魔法って言っても万能じゃないのよ。伊蔵の鞄、多分誰かが拾ってる。鞄の所有者がソッチに移ってるっぽいわね。おばちゃん杏仁豆腐三つ!」
「こっ、困ります! お金払ったんですからちゃんと探して下さい! アレが無いと困るんです、お願いします!」
チャリーーん。
「鞄とその所有者を探す場合、料金は倍の二万円になります。一万円札二枚でちょーだい」
「なっ、何て悪い顔する女の子なんだっ!?」
「何よ、私は別にやらなくても良いのよ。拾った人が警察に届けてる可能性もあるし、どうするの? あとはあなたが決めなさい」
うっま、杏仁豆腐うっま!
「……噂通りだな」
何ボソボソ言ってんのかしら? そうそう大人しくお金を出せば良いのよ。
「うん、素直でよろしい。じゃもう一回やってみるから待ってて」
さっきので、まだイメージは残ってるからっと。次はその鞄の所有者の名前ね……。
『プチュン……。左を押して下さい』
「さっきから何なんですか?? その歌ったり、変なこと言ったり!」
「気分よ気分。別に言わなくても良いんだけどね。大事でしょ雰囲気って?」
「……それで分かったんですか??」
納得してない顔ね。まぁ良いわ。
「もちろんよ。一万円分の仕事はしたわ」
「払ったのは三万円……」
「名前は
わっ! ビックリしたー、何よ急に立ち上がっちゃって。なんか凄い形相してるし……。
「そんなっ! ありえない。麗子が、麗子が生きてるなんて……」
おっとお金の匂いがプンプンするじゃない。
♦︎♦︎♦︎
一話どうだったかしら。えっ? 続きが気になるですって? 変わってるのねあなた。そう、だったらお金を払ってちょうだい。一円から上は上限無しよ。でもあなたと私じゃ住む世界が違うのよね。仕方ないわ、ハートや星でも許してあげる。コメントなんかも嬉しいわ。頑張って私、クララが返事書くから期待しててね。
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