第6話 婚約者

「まずは、こちらをお渡しします」

 そう言って、腕時計を渡されました。

「これが、魔道具?」

「今回の、1万魔力と交換です」

「公平な取引ではないのでは?」

「金額では賄えない、差があります」

 アナログナグな時計。魔道具は外観あまり関係ないです。収納の魔道具というだけで、それなりの金額がするはずです。

「仁君の魔力、美味しいの!」

 なつさんが、嬉しそうにいます。

「美味しい?」

「そう、今まで食べたご飯よりも、美味しいの!」

「魔力って、味がするの?」

「兄上様達の魔力は、無味無臭だったよ。他の人は、吸収した事無いから知らない」

「そうですか・・・」

 兄妹だけと聞いて、少し安心してしまいました。なぜでしょう?

「錬金術も。凄く使いやすいのよ、とにかく、凄いの!」

 なつさんは、興奮して力説します。

「魔力の為なら、結婚しても良いと?」

「それくらいの、魅力はあるの。むしろ、逃しては駄目な優良な人材なの。私の、体一つで確保できるなら、喜んで身をささげます!」

 ちょっとだけ、思い出して照れてしまいます。

「損はさせませんよ?」

「損得の問題ではありません。僕の、心の問題です」

「私が、お嫁さんになるのは、駄目?」

「良いか悪いかで言えば、良いです。ただ、自分に自身が無いだけです」

「むーーー、どうしたら、自信持てる?」

「どんな敵でも倒せる、強大な力かな?この世界の魔物に関して、僕はデータでした知りません。怖いのです、実戦が・・・」

「だから、弾薬?」

「それも、一つです」

「魔法のほうが、良くないの?」

「僕のスキルの問題です。弾薬、銃なら威力を上手く使えそうです」

「どいうこと?」

「僕の特殊スキルは、加速魔法です。それをつかう為の手段です」

「魔力回復は?」

「それだけでは、武器になりません」

「魔法で、弾丸作れるよ」

「弾丸だけでは、攻撃できません」

 魔力を、圧縮して物資に出来る事は、実例があるので知っています。今の魔力量では、1mmの丸い弾が出来るだけです。もっと魔力があれば、それなりのものを作れるはずです。

「なら、契約する」

「契約?」

「私が、仁君を強くする。怖いぐらい強くするから、守って欲しい」

「守る?」

「私も、色々と怖い。強くなりたい、ならないといけない」

 そう言うなつさんには、強い意志を感じました。

「どうやって、僕を強くするの?」

「魔力を増やします。私の、魔力吸収で、仁君の魔力量増えたよね?」

「確かに、増えました」

 これは既に知られている情報です。隠す必要はありません。

「同じ事繰り返して、魔力を増やします」

「全部吸い取るの?」

「吸い取ります」

 うっとりとした表情が、少し怖いです。

「気絶を、何度もするのは辛いのですが・・・」

 もっとも、なつさんに気絶されられたときは、そこまでひどくは無かったです。

「それは、我慢してください。私も、色々と我慢します」

「ん?」

 何を、我慢するのでしょう?

「後、家からスキルオーブを一つ貰いました。これで、仁君用のスキルを作ります」

「それこそ、金額的に恐ろしいのですが?」

「子供は、小さなことを気にしては駄目だと、あき兄上様が入っていました」

「流石に、気にします」

「仁君の私なら、これくらい稼げるようになります」

 スキルオーブの値段分となると、魔力をどれだけ吸収されるのか不安でもあります。

「色々と、不安だけど、良い話だとは思います」

「ですよね?」

 こちらが、乗り気なのを察して嬉しそうです。

「末永くなれるよう、努力はします」

「当然です」

 なつさんが、立ち上がり隣に来ます。

「早速、吸収するですよ」

「なぜ横に?」

「気絶したら、受け止めてあげます」

「え?」

「では、早速マジックドレイン!」

 そして、魔力を吸われました。あっという間に、ゼロになり気絶します。これ、今日の魔力吸収、最初は加減されていたみたいですね。僕の魔力が増えたのと同じくらい、彼女の吸収できる量も増えているみたいです。


「にゅふふふふ」

 仁君の魔力は凄いです。濃厚で、みっちりと力が溢れています。魔力回復のスキルの影響で、変質している可能性があります。

 家族会議で、いきなり結婚まで話が進んだのには驚きでした。兄上様達が、認めるとは思っていなかったので、びっくりです。

 私が、死なない為と考えた結果みたいです。この世界、色々と過酷です。

 私には、前世の記憶が無いので、プレイヤーとして生きる上でかなりマイナスだそうです。

 山野家の人間として、最前線に出る必要が、私にはあります。今この時、仁君に出会えたのは幸運です。逃がしませんよ。恋とか、愛とかは、正直分りません。でも、この子のこと、私は嫌いじゃないです。


 意識が戻り、目をあけようとしても、怖くてそれが出来ません。

 にゅふふふふという、変な笑い声が聞こえます。

 それと、頭の下に、やわらかい感触があります。気を失った時間が、わずかのはずですが、その間に膝枕状態にされています。早業ですよ、これ?

「せっかくなので、サービスです」

「サービスですか?」

「ですよ」

 確認すると、魔力は2万に届いています。

「今日は、ここまで荷します。明日は迷宮訓練です」

「そうでしたね、魔道具ありがとうございます」

「使い方は、腕にはめればわかります」

「ありがとう、山野さん」

「むー。名前で呼ぶべし」

「いきなりそれは、色々な人から、反感を買いそうで、怖いのですが?」

 僕は、僕病ものですからね、不要な敵を作りたくありません、

「それでも、名前で呼んで」

「では、なつ様とお呼びします」

「むっ」

「ヤマノ重工のお嬢様に取り入る一般人ですよ、僕は」

「それなら、しかたなし。なつ様で我慢する」

 嫌がるかと思ったけど、元々そう呼ぶ人多いみたいなので、受け入れられてしまいました。自分が言ったことだから、仕方ないです。


「では、なつ様、今後もよろしく」

「こちらこそ、末永くよろしくね」

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