第12話
リンダにしごかれるコルトを置いてきた3人は教会の建物内にいた。
一度この近辺についてハウリルが説明しておきたいらしい。
教会の一室を借りてテーブルの上に地図を広げ、3人は周りを囲うように立った。
「ここが現在地、アウレポトラの街です。そして南門を出ると目の前に森が広がっています、みなさんにはそこで魔物の捜索と討伐を行っていただきます」
地図で示した森は広大だった。
まっすぐ突っ切っても南端に行くのに数日掛かるだろう。
「討伐対象に指定はあるのか?」
「ありません。それと小型でも損壊を気にする必要はありません。討伐した後はその場に放置して頂いて構いませんが、帰還の際に必ず回収してください。それと間違っても他人の戦果を横取りしてはいけませんよ?」
「しねーよ。話を続けろ」
「では、先ずは半日で帰ってこれる距離での索敵をお願いいたします。奥に行くほど強くなる傾向はありますが、好戦的なものが街の付近にまで来ることもあります。まだあなた達は不慣れですので、街からあまり離れないでください」
「はいよっ」
「ここまでで何か質問はありますか?」
アンリは首を横に振った。
「俺はある、なんで南下しねぇんだ?」
「奥に行くほど強いと言いましたよ」
「そうじゃねぇ、拠点自体を南に移さねぇのかって話だ。新たに作ってもいい」
「あぁ、そっちですか。それについては、数百年単位の話になりますが、何度か南部を一気に制圧して海沿いに砦を建造したことがあったそうです。ですがしばらく後に破壊されました」
「なんでだ」
「人型の魔族の襲撃です。それまでは魔物のみでしたが、砦を築くと人型が飛んできて上空からあっという間に超火力で破壊しつくされたのです。そういうことが何度かあってからは、南部ギリギリに砦を築かなくなったのです」
「……その魔族はそのまま攻めたのか?」
「いえっ、破壊のみで毎回撤退したようです」
「面白ぇな。それだけの力があっても攻め込まねぇのか」
「面白いは無いでしょう、弄ばれている感じが非常に腹立たしい。…そういうことが何度もあったので、近場に拠点を作ってそこから人を派遣するほうが良いということで現在まで来ています」
他に質問は?の問に否定を返すと、アンリの武器を受け取ったのち、さっそく三人で森に出ることになった。
だがハウリルが門の中で手を振っている。
「お前は行かないのか?」
「わたしはこれでも司教です。あなた達だけにかまけていられるほど暇ではないのです」
ということで、ルーカスとアンリの二人は南部の森に入っていた。
万が一何かあった場合のための救難信号用の発煙筒も渡されているが、正直ルーカスには不要なものだ。
早々にアンリに投げ渡した。
アンリも素直に受け取り、それを腰のポーチに入れる。
「基本的にはお前の経験積みだろ、お前が進路を決めろ」
「……分かった」
以前の反発心がすっかりどこかに行ってしまい、少し調子が狂ってしまう。
あったことを考えれば仕方ないのかもしれないが、ルーカスはそれをどうにかする気はない。
なにかあればコルトがうるさいだろうから、命くらいは守ってやるかくらいの気分だ。
アンリに好きにさせると、付近を観察しながらドンドン森の奥に進んでいく。
まだ遠いが前方に魔力の気配があるので、まぁ悪くない進路だ。
しばらくそのまま進んでいくと、急にアンリが立ち止まった。
「どうした」
「……なぁ、お前。村で武器に魔力込めてただろ、あれどうやるんだ?」
「あぁ?んなもん、普通に魔力通すだけだろ」
「それは試した。でも一瞬水をまとうだけで、固定も出来ない」
ルーカスは村での対応をまずった事に気がついた。
キョウゾクは元々体が魔力を扱うように出来ていないため、魔族とは違い強制的にいずれかの属性に強制変換されてしまうらしい。
髪色に属性が現れるのもそのせいだと聞いている。
なのでルーカスのように無属性、魔力そのものを武器にまとわせることは不可能だ。
とっさの事で属性変換することを忘れていた。
だが、固定に関しては心当たりがある。
「持ち手が木だったろ、木は魔力が素通りしやすいから武器の素材には向かないって聞いたぞ」
非力なくせにわざわざ鎧で補助してまで重い金属武器ばっか使ってるから聞いてみれば、そういう返答だった。
金属によっても性質は様々で、全部が全部向いているわけではないらしいが……。
「今のはオーガの骨使ってるとか言ってなかったか?固定はできんだろ」
元々魔力を持ってる魔物を素材にしているなら問題はないはずだ。
それを聞いてアンリはさっそく武器に魔力を通している。
すると武器全体が水をまとい、渦を巻き始めた。そのまま霧散する気配もない。
熟練すると武器を体の延長として捉えられるようになり、武器から属性魔法を飛ばすことも出来るようになるらしい。
正直普通に魔法を飛ばすのと何が変わるのか分からなかったが、やつら的には点と面の違いが出ると言っていた。
面でやりたいならデカイ点でいいじゃねぇかと言ったら、そんな魔力は無いと言われてしまった。
「まっ、そっから先はお前の努力次第だ」
「……分かった。ありがとう」
アンリがお礼を言った。
全身に鳥肌がたった。
こんな事は100年、いやっ200年ぶりだ。
子供の頃にイタズラでバグワームの幼虫を議場の椅子全てに仕込んで怒られたとき以来だ。
あのときのお袋の怒りっぷりは凄まじかった。
今はさすがにそのくらいの善悪はつく。
……嫌なことを思い出してしまった。
「おっ…おう……」
その後の魔物討伐は順調だった。
小型の獣や小鬼ばかりだったが、経験を積むには丁度いい相手だろう。
はじめのうちは初見の相手に少々手間取っていたが、2匹3匹と相手をしている間に慣れてきたらしい。だんだん討伐速度が上がっている。
ルーカスはしゃがんでほぼ何もしていない、見ているだけだ、時々狙ってくるアホを両断したりはしているが。
アンリは複数相手でも、まだ慣れずに多少怪しいところはあるが判断力は悪くない。
村でもコルトではなく、ルーカスのほうを狙ってきた。
あの場の赤子を殺すという目的であれば、最初に排除すべき一番邪魔な敵はルーカスだ。
ただ村人がついてこれなかったのと、ルーカスとの実力差がありすぎてどうにもならなかっただけだ。
結局はどう転ぼうが負ける気はなかったのだが……。
そんなことを考えているとアンリが10匹目の魔物を討伐したようだ。
息を切らしているところをみると体力と魔力の限界が近いのだろう、終わりにしようと声をかけた。
「…まだ…やれる!」
「いやっやれねぇよ、カツカツじゃねぇか」
「こんな雑魚じゃなくて、もっと強いやつを狩れるようにならないといけないんだよ!」
「おう、じゃあそのまま死ね」
「はぁ!?」
さっさと斧を取り上げて、討伐した魔物をまとめて縛り上げると、アンリも諦めたのか手伝い始めた。
正直もっと険悪な空気を出してくると思っていたので予想外だ。
あの場ではどうみても自分たちは怪しすぎて、というより、半分くらいは当たっているので何も言えない。
ココの倉庫内での爆破をやったのはまぁルーカスなのだが、死体の偽造であってココは多分死んでない。
ひょいっと飛んで適当な獣を捕まえて、魔力で無理やり人型に作り変えたあとは内部破裂でボンッだ。
そのあと赤子共々ラグゼルに送り届けたあとは、全部押し付けてきたのでまぁ生きてんじゃねぇかなぁくらいの認識だ。
本当はコルトには種明かしをするつもりだったのだが、その前にハウリルが合流してしまったので言ってない。
コルトに嘘がつけるとは思えない、ココが生きてると知れば絶対に態度に出る、確信がある。
そのうち言う機会あるだろと気楽に構えている。
そんなことを考えているうちに魔物を運ぶ準備が整った。
アンリが無言で斧を返せと手を出してきたので、少し迷ったが返してやる。
魔物の運搬はさすがに数が多いので何往復かすることになった、そのため終わる頃にはすっかり日が落ちていた。
次からは運搬用に荷車を借りたい。
南門の内側で戦果記録の焼印を魔物に入れてもらい、集積所に運びこむと換金所に案内される。
換金所では笑顔のハウリルが待っていた。
隣には死んだ目をしたコルトもいる。
大分しごかれたのか、心ここにあらずの状態だ。
「おかえりなさい、なかなか良い戦果ではないですか」
「コイツが思ったよりも動けたんだよ」
「アンリさん、新しい斧はどうですか?」
「…使いやすかったです。体に馴染むというか……」
言葉が出てこないのか言い淀んでいるが、とにかく悪くなかったようだ。
ついでにコルトのほうも一応聞いてみると、単発で止まっている的であればそこそこ当たるようにはなったらしい。
正直期待していなかったので、半日で成果がでるのは驚いた。
成果と言えば、無茶をしようとしたやつがいる。
「コイツ無理しようとしたから止めたぞ」
「おやっ、意外と気がききますね」
「あぁん!?」
アンリが静かになったと思えば、違うやつがうるさくなった。
突然話題に出されたアンリがビクッとなるが、すぐに復帰してハウリルに詰め寄った。
「司教さま、強くなりたいです、壁の悪魔をぶっ殺せるくらい。魔物も皆殺せるくらい、強くなりたい!」
「アンリさん、焦りすぎるのもよくありませんよ」
「でも私が強ければココも悪魔に売らなかったかもしれないし、みんなも大戦でしななかったかもしれない」
「………」
「こんな雑魚じゃなくて、もっと強いやつを殺せるようになりたい。人型の魔物も殺せるようになれば、きっと壁の悪魔も殺せる。そうすれば、村のみんなも犠牲にならなくて済むようになる!」
なかなか大きく出たなと思う。
正直人型魔物代表のルーカスとしては、舐めんじゃねぇよ以前に何言ってんだコイツ?感のほうが強いが。
まぁだが、嫌いじゃない。
強いやつに立ち向かえるやつも強いやつだ、だから嫌いじゃない。
「一足飛びに強くなる方法なんてありません。まずは出来ることを1つ1つ増やしていくしかないのです」
「それじゃあ遅いです。気付いたときになんとか出来る力がないと!」
「そう言われましても……」
「面白いから俺が付き合ってやるよ」
疲れで呆けているコルトの肩を肘置きにして寄りかかり、そう提案する。
自分でも口元がニヤけているのが分かった。
「雑魚相手より格上相手にしたほうが経験的な意味じゃ早いだろ」
「何を言ってるんです」
「なにって、俺は強い。コイツは弱い。強い俺が殺しにかかれば、こいつも体で覚えるだろ」
「危険過ぎます!看過出来ません、殺しにかかる!?なにかあればどうするのです、取り返しがつきませんよ!それに教官役などここには大勢います!」
「お前より弱いやつが俺より強いとは思えねぇな。それにモノの例えで殺しはしねぇよ、本気になる必要なんてねぇだろ」
言外に雑魚って煽ってみれば乗ってきたようだ。
目がギラギラしている。
悪くない。どっかの腰抜けより、よっぽどこっちに時間を割いたほうが実りがある。
「強い討伐員が増えるのは教会に都合が良いんだろ?」
いつだったかルーカスが言われたことをニヤニヤしながら言い返してやると、覚えていたのか悔しそうな顔をした。
他にやり方があるなどとほざいているが、そのやり方を提案出来ないうえに、アンリのほうは完全にやる気だ。
この調子なら明日にでも模擬戦だろう。
ハウリルの思うように事が運ばないのは気分が良い、ざまぁみろ!
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