第7話

翌日、再びネーテルまでやってきた3人は、魔狼とついでに木材も一緒に精算してもらえることになったため、教会のイスに座って待っていた。

入口入ってすぐの大部屋にイスが大量に並べられ、向かって右の壁はカウンターが並んでおり、そこで討伐員は報酬を受け取ったりしている。

左奥はさらに通路が続いており、礼拝堂や誰でも使える食堂に魔物の解体などの作業場があるらしい。

上層階は教会運営関係者のみが立ち入り可能で居住区などがあるそうだ。

今日も盛況なようで、かなり混んでいる。

ルーカスは嫌がってさっさと出ていくのかと思ったが、予想に反して大人しくコルトたちから少し離れた場所に座っている。

アンリも意外そうにしていたが、人の往来が多いので追究はしなかった。

しばらくするとアンリとルーカスがカウンターに呼ばれた。

いってらっしゃいと見送り、再び大人しく座っていると、先日話しかけてきた男、ハウリルがやってきた。


「こんにちは」

「こんにちは。本日は中まで入っていただけたようで嬉しいです」


隣を進めてみるが大丈夫だと断られてしまった。


「魔狼の完全討伐ありがとうございます」

「それはルーカスに言ってください。僕は何もしてません」

「そのつもりですが、あなたもお仲間でしょう?」


仲間と言えば仲間だが、ホントに何もしていないのにお礼を言われるのは心が痛い。


「討伐には1週間は掛かると思っていました。巣穴の捜索に時間が掛かると思ったのです。まさか1日で終えられるとは」

「アンリが予め巣穴の場所を探っててくれたので…」


嘘は言ってない。

言ってはいないがあまり突っ込まないで欲しい。ボロが出てしまうのではないかと焦ってしまう。

実際は知ってるアンリをおいて、ルーカスの種族特性を使いましたなんて絶対に言えない。

早く二人には戻ってきて欲しいと願い、その願いは通じた。


「なんか用か?」


精算を終えたルーカスがうさん臭いものを見る目でハウリルを見ている。

さらに何かを言おうと口を開いたが、アンリが押しのけてハウリルに話しかけた。


「司教さま!覚えていただいたのですか!?」

「魔狼を一度に5匹も持ってきた下級の方を早々には忘れませんよ。あなた方にはこの度の魔狼の完全討伐のお礼を申し上げます、ありがとうございます」

「いえっ、そんな!」


腰からまげ深く礼をするハウリルにアンリはかなり焦っている。

それだけ地位の高い人物なのだろうか、確かに周りより装飾の凝った服を着ているが。


「ついでのお願いと言ってはなんですが、今後の参考に討伐時の様子を教えていただけないでしょうか?巣穴の早期発見など、とても役に立ちますから」


無理である。

とても魔族のごり押しですとは言えない。アンリも見ていないので答えられない。

固まってしまった二人にハウリルが首を傾げた。


「悪いな、このあと買い物があるんだ。村の嬢ちゃんが近々子供産むんだよ。吟味する時間はいくらあっても足りないだろ」

「なんと、それは大事ですね!ふむ、ではわたしも村に参りましょう、そこでなら時間を気にせずお話出来るでしょう」


突然の申し出に再度固まってしまった。

先に復帰したのはルーカスの来んなよという声に反応したアンリだ。


「お、お、お、お前!!ちょっと黙ってろ!!ああああああ、し、司教さま!それは祝福をいただけるという事でしょうか!?」

「もちろんです。子供が産まれると分かって言ったのに、祝福もせずに帰ってしまってはわたしが罰せられますよ」

「あ、ありがとうございます!!」


小さくガッツポーズを決めたアンリはよっしゃー!と一人で小さく騒いでいる。

どうやら祝福というのはとても重要な事らしい。


「あの、そんな急にこの場で決めてしまって大丈夫ですか?」

「問題ありません。もともとわたしは各地を周っているので、いつ抜け出してもここの運営に支障は出ませんよ」


ニコニコと答えるハウリルにこれ以上の言葉が見つからなかった。

さすがに教会関係者と接近し過ぎなのは分かる、チラッとルーカスを伺うが無表情だ。

アンリがとても喜んでいるし、ここで拒絶するような態度を取っては怪しまれる可能性が高い。

諦めて馬車を出すときに合流する約束をすると、浮かれ気味のアンリとともに教会を出た。


「何買おっかなぁ」


ルンルンでスキップしかねないアンリと出店を物色してみるが、先ずはどんなものが良いのか決めたほうが良いと思う。

子供ためのものを買うか、ココの好きなものを買うか。

その方向性を決めるだけでも大分変わる。


「そうだなぁ……。やっぱりココの好きなものかな」

「ココさんは何が好きなの?」

「食い物ならやっぱり甘いものだろ、めったに食べられないし。モノならそうだなぁ、ココは家具の装飾用に刺繍を作るのが好きだから糸かな」

「帰ってすぐ渡すなら食べ物でも良いと思うけど、産まれてから渡すならモノじゃないかな」

「なら糸だな!」


糸であれば1つ1つはそこまで高くないので、良いものを買おうと出店ではなく広場の外の店に行くことになった。

少し高級そうな手芸店に入り、アンリと共に珍しさにキョロキョロとしてしまい、店員にジロっと見られてしまった。

ちょっと恥ずかしい。

ルーカスのほうは堂々としており、鍛えられた体幹で姿勢も良く顔も文句がないため、女性の店員の顔がちょっと赤い。

そして自ら店員に近づくといくつか会話し、その後カウンターの上に色とりどりの糸が並べられた。

謎に頼りになる男である。


「何色がいいかな」

「そうだなぁ、ココもノーランも風だから緑がいいかなぁ」

「なるほど!一応ノーランからの贈り物ってていだしね」


こちらの人間は己のもつ魔力属性で髪の色が変化し、さらに魔力量で発色が変わる。

ココもノーランも濃さに違いはあるが風属性のため緑だ。

ちなみに魔族のルーカスは今は火属性という設定なので普段は赤髪に固定しているが、本来は全属性扱える上に魔力による肉体の影響もないので、気分で髪色を色々変えていたらしい。

ちなみに、人前だと火属性縛りなうえに、使える魔力上限も極端に少なくしないといけないので、とても窮屈だと嘆いている。


「これなんてどうだ!色もいいし、太さも均一で凄い綺麗だ」


アンリが手に取った糸を受け取り、コルトも見てみると確かに発色が良くうっすらと光沢もあり高級感があった。

職人の技術も凄いが、聞けば魔物の毛を純粋な魔力の水のみで綺麗に洗い上げて作った糸らしい。

手間が掛かっている分値段も高く、予算ではそれしか買えそうにないが、これだけの糸であれば単体でも十分な美しさが出るだろう。

二人は贈り物用に綺麗に包装してもらうとうきうきしながら店を出た。

馬車に戻ると近くの教会の者にハウリルを呼んで欲しいというと、少しうさん臭そうな目で見られはしたが呼びに行ってくれた。

ほどなくしてハウリルが旅装に身を包んでやってくる。

長い杖も持っていた、武器だろうか…。


「重装備ですね」

「終わったらそのまま次に行こうかと思いまして」

「お一人でですか?」

「ルーカスさんの試験官をしたことをお忘れですか?これでも自分の身を守れるくらいには強いですよ」


不適に笑うハウリルは確かになかなか様になっている。

馬車の準備が出来たというので向かうと、暗くなる前に早く出ようと急かすアンリがすでに御者台に座っていた。

アンリの横、いつもコルトが座っていたところをハウリルに譲り、コルトはルーカスと共に後ろの荷台に乗り込むと、馬車は待ってましたと言わんばかりに急発進した。

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