第6話
さきほど魔狼に襲われた場所まで戻ると、アンリが2匹目を運ぶところだった。
「お疲れさん」
「お疲れじゃない!……ってそれ、もう繁殖してたか」
アンリはルーカスの腕の中の死んだ子狼を受け取ると、袋の中に乱雑に入れた。
「早めに駆除出来て良かった。デカいのも数が多かったけど、子供を産んでたんじゃそのうち狩りの練習に村が襲われただろうからな」
口をきつく縛り背中に背負うと、運べ!という感じで地面に転がったままの魔狼を指さす。
コルトは小さそうなほうを選んで持ち上げるが、すぐにルーカスが奪ってしまった。
問答無用な感じが役立たずと言われているようで嫌な感じだが、実際運ぼうと思ったら二人の何倍も時間がかかるのは分かる。
分かるからこそ納得いかなかった、少しくらい期待してくれてもいいのではないだろうか。
少し鍛えることを考えたほうがいいかもしれない。
「とりあえずこの近辺にはもういないと思う、一人で作業してても襲われる気配がなかったからな。明日はまた街にいくぞ」
「……うん」
「どうしたコルト、元気無いな」
隣の存在について改めて考えてしまって元気がないだけです。
とは口が裂けても言えないので、今回も曖昧に笑って誤魔化す事にした。
のだが、元凶が口を挟んできた。
「こいつとさっき喧嘩した」
「ケンカァ!?なんでケンカなんかしたんだよ!」
「危ないからもっと注意深くなれよって説教した」
「それはなんというか、コイツが正しいんじゃないか、コルト…」
間違ってないけど、その言い方ではコルトが一方的に悪いように聞こえるのではないだろうか。
実際アンリは優しい声で気を付けるんだぞなんて言っている。
今まであんまり会話に入ってこなかったくせに、なんでこういう時だけ入ってくるんだこの男は。
「よしっ!魔狼は全部殺して、巣も駆除出来た!これで安心して出産を迎えられる!助かったよ二人とも、カラシはムカつくけど仕事はキッチリやってくれるな!」
「瀑布の底まで感謝しろ」
村に戻ると真っ先にココが出迎え、アンリも笑顔で倒した魔狼を見せた。
「無事で良かった!駆除出来たのね!」
「言ったろ!コイツめっちゃ強いって!実際気付いたら終わってて死体を縛るだけだったよ。子供も仕留めてもらったから、これでしばらくは安心出来るぞ」
「ありがとう、二人とも!本当に助かったわ!やっぱり少しでも不安を抱えたままは嫌だもの。ノーランも頼りになるけど、力持ちってだけじゃやっぱり魔物相手には戦えないしね。いざとなったら、私が戦おうかと思ってたわ」
「それは止めろ!絶対ダメ!」
キャッキャッと騒ぐ二人にこちらも嬉しくなってニコニコと聞いていると、ルーカスに呼ばれる。
「赤子を見てもいいか確認取っておけ」
「必要?」
「当たり前だ。それと俺は少し南のほうを見てくる、村から出るなよ」
「まだ何かいるの?」
「分かる範囲にはいない。どのくらい北上してるかの確認だ。1時間で戻る」
「……分かった」
軽く手をあげ村から出ていくルーカスを確認し、楽しそうに喋っている二人に声をかけた。
子供が生まれるまで滞在してもいいか確認すると、是非にと言われ、魔族の常識はやっぱりあてにならないなと思った。
それから村の中で何か手伝えることはないか聞くと、村から少し離れたところで製材をやっているらしく、そこで出た端材を薪用の長さに切って欲しいと言われた。
──ちなみにルーカスは森の中で拾い食いしたものが中って出掛けたことになっている。
──他に理由が思いつかなかった。
畑の手伝いとか面白そうだなと思っていたが、まさかの林業でびっくりだ。
ここ3日じゃ分からなかった。
でもアンリの斧が武器な事を考えると納得だ。
「材木って結構売れんだよ。こっから先は村が無いからうちで独占出来るのもあって、村の大事な収入源なんだぜ」
「そういわれると確かにこの村って結構木のものが充実してるよね、加工もここでやってるの?」
「村で使う分はなんとか作ってるけど、さすがに売れるようなものはなぁ。一応簡単に処理したり薪作ったりしてるけど、そのまま売る事が多いな」
森の中に少し入ったところの製材所に着くと村人達が丸太を運んだり、枝を切って整えたりしていた。
足元の木くずに気を付けながら、端材が積まれた場所に案内され、適当に枝を渡された。
「丸太は無理だろうから枝を切ってくれ。これはこれでめんどくさくてな。大体このくらいの長さに揃えてくれればいい」
「これも村で使うの?」
「そうだな。でも売る分もあるぞ」
コルトはふんふんとうなずくとさっそく手元の枝に鉈を振り降ろした。
なかなか上手く切れなかったが、振り降ろせと言われてそれからは少し楽になった。
アンリは少し離れたところの薪割台で手慣れた動きで薪を量産していた。
そのまましばらく無言で作業していると、ノーランがやってきた。
小さく挨拶をすると、向こうも挨拶を返してくれた。
「ここにいたか、魔狼を駆除したんだってな」
「あぁ、早く終わって助かったよ」
「悪いな、駆除してくれて助かった」
「いえっ、無事に終わって良かったです。僕は何もしてないけど……」
全部ルーカスがやった。
「そうなのか?そういやもう一人はどうした」
「腹下して森の中だってさ」
「大丈夫なのかそれは、あとで薬草を分けてやるから煎じて飲ませろ。ところで、明日また教会に行くのか?」
「そのつもりだ」
「そうか。ならついでで悪いんだが、俺の木材も売ってきてくれないか?それでその、売った金で買ってきて欲しいものがあるんだが……」
「ココにでもなんか買ってやるのか?」
「………そんな…感じだ……」
少し恥ずかしそうにしているノーランにしょうがねぇなぁとアンリはによによしながら承諾する。
なにが良いのか聞くと、よく分からないから任せると言われた。
そのくらいは考えておいて欲しいものだが、ココと親しいアンリもパッと思いつかないのか考え込んでいる。
明日現地で考えようと提案するとそれもそうだとなった。
ノーランは畑のほうで仕事があるらしくそっちに戻ると言って去ったので、再び二人で薪作りに専念する。
小一時間ほどで薪の山を作り上げると、手伝ったお礼ということでいくらか薪をもらった。
今晩さっそく使おう。
そのあと借家まで戻ると、何故か屋根の上にルーカスがいて、下では子供たちが集まって騒いでいた。
「何してんだ、お前ら」
「あっ!アンリ!」
「聞いてよアンリ!」
子供たちがわらわらと集まってくる。
ルーカスは降りてくる気がないようだ。
「兄ちゃんたちが魔狼倒したんだろ!それでな!俺たちも剣を教えてもらおうと思ったんだ!」
「そしたらお兄ちゃん屋根の上に逃げたの!」
「凄いんだぜ!ぴょーん!って!」
しきりに飛んでるのは真似をしているのだろう。
「教えてやったっていいじゃないか!」
アンリが屋根の上に向かって叫ぶ。
「なんで俺がガキの面倒みなきゃいけないんだよ」
「ガキのお守りは得意なんだろ?」
「………」
面倒なことを覚えてやがると顔に書かれた。
「俺は我流なんだよ、人に教えられねぇよ」
確かルーカスはコルトの護衛を引き受けたときに、怪しまれないようにするためということで剣が支給された。
魔族は優れた肉体と豊富な魔力にモノを言わせたごり押しが主体のため、多少はさまになるように教えてもらったらしいが、元の自力が高いため最初からある程度まともに使えていたらしい。
つまり、肉体的にかなり劣るこちらの人間にものを教えるには、本人の能力が高すぎるため教師役にはあまり向かない。
そんなことは知らないアンリと子供たちはしつこく迫っているが、事情を説明するわけにもいかない。
なので、妥協案をだしてみる。
「ルーカス、君が先生には向いてないのは知ってるけどさ、打ち込まれ役なら出来るんじゃない?」
「何言ってんだ!?」
「だって君避けるの得意じゃない」
「そういう問題じゃねぇよ!?」
そういう問題じゃないのは分かっているが別にいいではないか。
どっちみち魔狼も駆除した今は村に滞在中は暇だろう、決めたのはコルトだが。
とここで村の滞在延長が認められたことを思い出す。
それを告げると、ルーカスは膝をつきそのまま滑らかに屋根から落ちてきた。
さっそく子供たちが駆け寄り、歓声をあげて喜んだ。
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