文芸部の月末

ケイくんとナナさん或いは義鷹=gsgs

優秀作を目指して

 放課後、私こと森川鈴は文芸部と書かれた扉を開けて先に来て本を読んだり談笑していた何人かに挨拶をしてからいつもの席に着く、お気に入りの本を開いて他の皆を待っていると次々と入室してくる。私が部活に来たのは帰りのホームルームが終わって二分程だったので十分も経てば七人の部員と顧問の先生が揃う。部員が揃ったのを確認した顧問の浜崎夏海先生が「全員来たわね」と言い、小さく手を一つ叩いて注目を集めた。

「皆、今日も一日授業お疲れさま。部活始めましょうか」

 そう挨拶をすると部長の金山叶さんに「それじゃあ今日やることを発表してください」と振った。叶さんが立ち上がって手元に纏めてあった紙の束を掲げて話し始めた。

「今日は月末です。皆、これ書いてきましたか?今月のお題は三月という事で『別れ』でした。えっと、先月のお題『ヴァレンタイン』の優秀作は秋ちゃんの作品で、一年生が優秀作を取るのは初めてですね。私も含めて二年生も負けないように頑張ってください。他の一年生も無理のない範囲で頑張っていきましょうね。今月も誰が取るのか楽しみにしています。それでは読んでいく順番を決めようと思います」

 そう言って着席して籤の準備を始めた。文芸部では先生も含めて全員が月に一度、毎月のお題に沿った一万文字以上三万文字以内の短編を書いて、読み合って優秀作を決めると言うことをしている。優秀作に選ばれると学校だよりに載せて貰うことができる(勿論私たち生徒が載せたくないって言ったときは違う作品を載せている)。先月は一年生の川原秋さんが優秀作を取って学校だよりに載った。私は今残っている二年生では、唯一今まで一度も優秀作を取ったことがない。それでもこの部活を続けていられるのはここにいる七人の部員と先生の皆が一緒に頑張っていこうという空気を出してくれているお陰だ。


 籤の結果、私は四番目に読まれることになった。最初に読むのは前回、優秀作を取った秋さんの作品。彼女は毎月『四季奏欄』というお題に合った四季のイベントや風景を織り混ぜた恋人同士の姿を描いた物語集を書いていて、今回もその一つだった。ストーリーは卒業式の日に海外へ留学する彼氏と再会を誓いながら、お互いの夢を叶えるために別れてしまった恋人のお話だった。皆が読み終わると一人ずつ感想を秋さんに伝えて、全員が感想を言い終わったら次の人のお話を読み始める。そうして二人目、三人目が終わり、私の物語の番になった。私の創った物語はこれまでの三人のような現代を描いた物語とは違って、異世界の王女様が政略結婚の為に本当に好きになった人に別れを告げて他国へと嫁ぎに行くという物語だった。しばらくプリントを捲る音と、どんな感想を貰えるのか不安からうるさい心臓の音だけが聴こえていた。だんだんと紙の擦れる音が少なくなり、遂に全員がプリントを机に置いた。それを確認した叶さんは私より前に読まれた三人の時のように感想を言ってから他の人たちの感想を聞き始めた。


「それでは今日、そして今年度の文芸部の活動はこれで終わります。優秀作を取った寧々さんの作品も皆の作品も素晴らしかったと思います。来月の作品も楽しみにしてます。なお、来月は新年度なのでお題は毎年恒例の『出会い』です。新入生も楽しめるような作品を期待しています。」

 そう叶さんが言って今日の部活は終わった。皆から貰った私の作品に対する感想は思っていたよりも好評だった。それでもまだまだ直せる部分も多くあることに皆からの指摘で気付けた。結局今回も優秀作はとれなかったけれど、あと一年私にはチャンスがある。卒部する前までに一度は優秀作を取りたい、そのためにはここに居る皆の力が必要で、私も皆にできることをしたいと思っている。皆で競争しながらも楽しく頑張っているから今日まで続けられた。来月からはまた新しい仲間も増える、部員が増えて更に楽しくなる光景を思い浮かべてこれからも頑張ろう、と私は『出会い』のストーリーを考え始めたのだった。

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