織田信長、東京を歩く。

僕はある一つの大きな決心をした、



織田信長と街に出る決心を。




織田信長が家に来てからもう1ヶ月がたった。


彼は今までずっと僕の部屋で生活していたのだが、それももう限界の様だった。


『暇じゃ〜』という回数が日に日に増えていき、最近になっては『外に出る!』と言い出す様になってしまったのだ。


このままだと彼は僕が目を離した隙に勝手に外出してしまう恐れがある。


だからどうにかして彼が目立たない様にして外出する方法を考える必要があった。


僕はまず、彼の外見を変える事にした。


大きめの帽子で彼のちょんまげを隠し、彼の来ていた着物を普通の服に着替えさせた。


そしてマスクをさせてその印象的な髭を隠す。


これで外見は問題ないだろう。


後は彼が外で目立つ様な行動をしなければいいだけだ。



「というわけで、くれぐれも頼みますよ」


「うむ、任せておくがよい!」


明らかにいつもよりテンションが高いが、本当に大丈夫だろうか、この人。


「目立つ様な行動をしたらすぐ帰宅ですからね」


「分かっておるって〜」



こうしてやや不安が残る中、僕と信長様は初めて外に出た。


京都はあまり昔と変わっていないし1番栄えている場所を見たいという彼の希望によって、僕たちは東京に行く事にした。


そして、東京の街並みが見えてくると、


「おお…」


と彼は声を漏らした。


「流石に日本の首都だけあって栄えておるな」



僕たちは食べ物を買ったりお土産を買ったりしながら東京の街をぶらぶらした。



「それにしてもたくさん人がおるの〜」


「東京ですからね」


現代人である僕から見ても、この東京の人の数は尋常ではない様に思うのだから戦国時代から来た彼からしたら尚更のことなのだろう。



「東京はどうですか?」


「そうじゃな、人もたくさんいて面白そうな店もいっぱいあって、街もにぎわっておる。じゃからワシは好きじゃぞ」


「なるほど」


「うむ。やはり日本の中心はこうでなくてはな」





「じゃがワシがいた時代と1番違うのは、人々が自由に生きているという点じゃな」


「自由に、ですか?」


「ああ。前も言ったがワシの時代では生まれた時からすでにその者がやることは決まっていた。そして人々は一生をそのことをして過ごす。じゃがこの時代は違う。子供から老人までが様々なことをして過ごしている。この東京でも遊びに来ている者もお

れば仕事をしに来ている者もおる。それらは自らの意思でやっていることじゃ。そんな風に自由に過ごすことができるのは良いことではないか?」


「そうですね」




自らの意思で、か。


僕らが当たり前の様にしていることも、戦国時代の人からしたら凄いことなのかもしれない。






「次はスカイツリーとやらに行ってみるか!」


「スカイツリーですか?」


「うむ。上から東京の街並みを一望してみようぞ」


「分かりました」


僕たちは東京スカイツリーに登って、東京の街を眺めた。



「上から見ると東京が栄えているのがよく分かるな」


「そうですね」


スカイツリーから東京の街並みを見ると、どこまでも建物が立ち並んでいた。


それはまさに東京の繁栄を象徴しているようだった。


「これが今の日本か」


「はい」



「戦国の世からだいぶ変わったんじゃな」



そう言う彼の顔には、嬉しそうな、そしてどこか寂しそうな表情が浮かんでいた。



「ワシもこの時代に生まれていたら、また別の面白い人生を歩んでいたんじゃろうな」


「そうですね」


もし自分が別の時代に生まれていたら。


タイムループをするとそういうことをより一層考えるようになるかもしれない。




「何はともかく、この時代でも日本は繁栄が続いているようでなによりじゃ」


彼は嬉しそうに言った。



「それにしてもこのマスクというものは息苦しいな。あとこの帽子も窮屈じゃ」


そう言って彼はマスクと帽子を取った。


これで彼の髭とちょんまげを隠すものがなった。


「あ。」


「あ。」


少しして彼も気づいた。


彼がマスクと帽子を取った後すぐに、あたりがざわつき始めた。


無理もないだろう。


彼のその顔は肖像の織田信長そのものなのだから。


「ねえ、あれって織田信長じゃない?」


「え、何、そっくりさん?」


あちこちでこんな感じの会話がなされている。


まずい、と思って僕は彼にまたマスクと帽子を被らせ、急いでその場を後にした。



そして時間もちょうどよかったので、僕たちはそのまま帰宅した。

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