第2話 不死日記

 琵琶法師は語りました。

 祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。

 格調高き前文とは落差があり過ぎますが、出る杭は打たれる、ということばもございます。

 あまり目立たない方がよいのです。

 過度な立身出世などは身を亡ぼす元です。

 特に不老不死の者にとっては。

 わたくしはあまり長く一つ所にとどまらず、十年か二十年に一度は人間関係を断ち切って、住処を変えて生きてきました。

 ふと思い立って始めたわたくしのこのブログが注目されたらどういたしましょう。

 清少納言は不老不死で、現代もまだ生きている。

 マスコミの方々がわたくしを取材したりするのでしょうか。

 不老不死の謎を解き明かすため、解剖されてしまうかもしれません。怖いわ。

 そういう危地に陥ったら、姿をくらますことといたしましょう。

 隠れるのは、わたくしの得意技でございます。

 ともあれ、今はこれを書き続けます。

 発表する前から怯えていては面白くありません。

 そう言えば、まだタイトルをつけておりませんでした。

 いまさら「枕草子」とは言えません。

 とりあえず「不死日記」としておきましょう。

 我ながらセンスがありませんね。

 まぁよいです。

「枕草子」というタイトルもわたくしがつけたものではありませぬ。「枕冊子」とか「清少納言記」とか呼ばれたこともございます。わたくしが宮中を去った後、歴史の中で「枕草子」として定着したものでございます。

 どなたかがこのブログによいタイトルをつけてくださるとよいのですが。

 わたくしはさきほど注目されることを怖れました。

 しかし無視されるのも気分のよいものではありません。

 適度に注目されて、読んでくださる方がそれなりにいてくださると幸いです。

 清少納言を騙るおかしな者がふざけて書いているブログ。

 そう思われるのが一番よいのかもしれません。

 いや、どうだろう。

 わたくしは今ここにいて、生きているのです。

 そう力いっぱい叫びたい気もいたします。

 心とは、自分でもコントロールできぬもの。

 他人に認められたいという欲望は消えることがありません。

 マスコミの方々に取材されるのは困ります。

 でもわたくしが存在していることを、誰かに知ってもらいたいのです。

 千年生きていてもそう思うのです。

 わたくしは世捨て人にはなれませぬ。

 今もさるお方の養子にしていただいて、とある名前を持って生きています。

 その名前はもちろん秘密です。

 ひ・み・つ・です。

 シークレットでございます。

 わたくしは今、女子大生の身なりをして生きております。

 女子大生の身分を実際に持っているのです。

 年齢は二十歳、ということになっております。

 どこの大学とか、何を学んでいるとか、詳細はここには書けません。

 今の名前を特定されて、インターネットにさらされると困りますから。

 追及しないでくださいませ。

 しかし女子大生で、二十歳であるというのは、いいものでございます。

 学生生活、いとをかし。

 恋愛ごっこもできますし、お酒を飲むこともできます。

 実はわたくし、酒豪でございます。

 ビールもワインもウイスキーも焼酎も飲みますが、やはり一番好きなのは日本酒でございます。特に純米吟醸は堪えられませぬ。

 妙なる水。

 一晩かけて一升瓶を空け、心地よい酩酊を得る。

 いとをかし、いとをかし。

 近年は地酒ブームだそうで、美味しいお酒が増えております。

 すばらしい。

 お酒屋さんで買ってきて、お家で飲むのも悪くありませんが、私はやはり居酒屋や料亭で殿方や女友達と語り合いながら飲むのが好きです。

 皆さまわたくしをうわばみだとか底なしだとか言ってからかわれます。わたくしはいっこう気にしません。楽しくからかわれているのは悪いものではありませぬ。

 からまれたり、好きでもない殿方から口説かれたりするのは困りものです。

 そんなときは適当にお酒代を置いて、そっと消えます。

 飲み会でいつの間にか姿をくらますのもわたくしの得意技でございます。消えたり隠れたり逃げたりするのが得意なのです。

 だからこそ千年の時を生き永らえてこられたのかもしれません。

 さすがのわたくしも首を斬られたり解剖されたりしたら、死んでしまうと思います。それでも生きていたら怖いわ。

 ああ、今「不死日記」よりもマシなタイトルを思いつきました。

「清の千年物語」というのはいかがでしょう。このブログは物語ではなく、随筆の類でございますが、千年随筆よりは千年物語の方が語感がよろしい。

 では、タイトルは「清の千年物語」といたします。

 内容は、わたくしが思いつくことを徒然に書き綴ることといたします。

 話が行ったり来たりすることになると思います。わたくしは構成をしっかりと考えてから書くタイプではありません。実際に書いてみないと、どのようなものになるのかわからないのです。その辺はどうかご容赦いただきたいと存じます。

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