不遇職? そんなものは存在しない!

ヘイ

その男、農家

「不遇職って何? 何やったって不遇なんてことねぇだろ。なら一回俺の職業説明してあげよっか?」

 

 ダンジョンの奥地、金髪の男が薄着で鍬を持って戦っていた。

 

「俺、農家よ? 冬儲かりまへんねん。だからダンジョンに潜ってるんですけど……。俺以上の戦闘向けじゃない職業っているかなぁ!?」

 

 武器は鍬。

 明らかに戦闘をする様なスタイルではない。防具もつけずに最前線へ身を繰り出す。

 

「みーんな、技能持ってるんでしょ? 羨ましいね! 俺、技能なんて一個も無いんだわ。でも必殺技考えたのよ」

 

 危険だと、彼の後ろにいた青年が止めようにも声が出ない。

 金髪の農家は鍬を中腰に構えて、巨大な竜の爪が迫る中、目を閉じていた。

 ぶつかる。

 

鍬十六くわとろブレェエエエエイクッ!!」

 

 鍬が竜の身体に突き刺さる。

 その数、十六連撃。

 

「イエスッ!」

 

 見た目は十六連撃でも実質は違う。更なる鍬の攻撃が竜の体に突き刺さった事だろう。

 

「鍬すげぇ……」

「だろ? この鍬はなゴッドシリーズと言ってな……」

「え? ゴッドシリーズ!?」

「お、知ってるのか。そう、勇者の剣に並ぶ最高位の道具だ。この鍬の名は……」

「ゴクリ……」

「『ただの鍬』だ」

「へ?」

「所謂、残念賞アイテムってやつかなぁ」

 

 ゴッドシリーズ。

 それはこの世界に何種類か存在する武具の頂点。材質は不明、人間がおおよそ加工できない様な物で造られているらしい。

 故に神の創り上げた最高の武具。

 

「マジで、俺もビックリしたね。こんな鍬を手に入れてもぶっちゃけ鍬としては何の効果もないのよ」

「は、はあ?」

「捨てても戻ってくるし……。燃やそうとしても燃えないし」

「それただの鍬じゃないです。呪いの鍬です」

「まあ、見てろよ」

 

 竜の死体に向けて彼が鍬を放り投げる。数秒してから彼が右掌を開くと、見事に鍬の持ち手が収まる。

 

「ゴッドシリーズ、ゲイボルクと同じ手元に戻ってくる機能だ!」

「鍬に!?」

「便利だぞ? 鍬が欲しい、でも動きたくないって時に手元に鍬が来る機能は」

「そう思うことはまず無いです」

「フッ。取り敢えず気ぃつけてね。俺はもうちょい奥まで行くから」

「あ、ちょっと待ってください! 名前を!」

「ん? 俺はフラットっつーの。さっさと戻って修道院で怪我治してもらってね」

 

 鍬を担いだ金髪の男、フラットはダンジョンの奥へと姿を眩ませてしまう。

 

「フッ、俺ってばカッコよすぎかよ……」

 

 ダンジョンの奥に進んだフラットは先程の自分の行動を振り返りほくそ笑んでいた。

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不遇職? そんなものは存在しない! ヘイ @Hei767

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