大烏~カラスと娘と旅する世界
かんひこ
カラス父娘、救われる
第1話 出会い〔前〕
――貴女は特別な子……
声が聞こえる。
――貴女に眠る力はきっと誰かを助ける事でしょうね……
優しい声だ。暖かく包み込むような、心の底から安心できるような、そんな声だ。
――惜しむらくは、もう貴女の成長を見守れないこと……
頬に温かい何かが落ちる。泣いているのだろうか。
――願わくば、貴女が幸福でありますように……
暗がりで表情はうかがえないが、きっと泣いているのだろう。
――嗚呼神様。まだ、まだもう少しだけこの世に留まらせてください。せめてこの子を心優しき人が拾い上げるその時まで……
泣かないで……泣かないで……。
――ごめんなさいアルブレヒト……。貴方の愛した村を守れなくて……。
悲しげな声が響く。私を抱く腕や指から熱が奪われる。
――エーリカ……荒れた大地に咲く、可愛い私達の花……たくましく、生きるのよ……
その瞬間、辺りに柔らかな光が現れた。
――見つけたぞ!
○
なにかが焼けたような臭いが立ち込める。辺りには焼け落ちた家の跡と思われる残骸と、既に炭化してしまった人の死体。そして、つい数時間前に山賊退治の依頼を受けた二十三名の冒険者たちが、そこにはあった。そのなかに、黒い外套とフードを被った青年――オスカーの姿もあった。
「ひっでぇ有り様だな、グスタフ」
そう、隣に居る友人に声をかけながら、シュバルツと名付けた自分の黒い馬から降り、集落跡地を見渡す。
「ああ、こりゃあひでぇな。山賊でも普通家全部燃やすか?」
グスタフと呼ばれた青年はそう言いながらオスカーに歩み寄る。時折垂直に伸びた大きく長い耳がピコピコと動く。いわゆる獣人と呼ばれる存在だ。彼は、ウサギの特徴を持つ
「普通の山賊ならここまで徹底的にはやらんなぁ。どこぞの軍隊か、傭兵の略奪か、はたまた魔王軍の残党ならあり得ない訳じゃがな」
「だが、この周辺ではこれと言った戦争も紛争も起きて無いし、近くに傭兵の拠点も魔王軍の残党の目撃談も無い……」
そう言いつつ、装備を整える二人。グスタフは斧と槍を合体させたような造形のハルバードを持ち、オスカーは腰に剣と火打ち石の代わりに火の魔石を取り付けた短銃と、それの弾や火薬の入ったポーチをベルトに掛け、他の冒険者たちが集まっている方へ歩き出す。そのときだった。
「待て、オスカー」
グスタフがオスカーを止める。
「…なにか聞こえたのか?」
グスタフの聴力は人間の物よりも何倍も優れている事をオスカーは知っている。今回も恐らく何かを聞き付けたのだろう。
「これは……赤ん坊の泣き声? 距離はそんなに遠くない。耳を澄ませてみろ、お前にも聞こえるはずだ」
そう言われたオスカーは耳を澄ませる。
――聞こえた。本当に微かで、意識しないと聞こえないような、そんな小さな声だが、常人にも聞こえないわけではない。
「どうするオスカー。行くか?」
他の冒険者達の多くはまだ、最低限の準備しか出来ていない上、その多くは新米冒険者だ。中にはその教官役の古参冒険者も居るが、彼らは新米に指導しなくてはならない。
オスカー達も二十歳になったばかりの若手ではあるが、冒険者稼業を始めたのは十歳を越えた辺りだ。歴だけで言えば充分中堅だろう。その上、つい数か月前までは戦場にいた。冒険者に成り立ての同年代の若者よりは役に立つ。
「行こう。どのみち俺達以外にまともに戦えそうなのは居ない」
オスカーは一度辺りを見渡してそう言うと、名の知れた古参で顔見知りの冒険者の一人にかけよって、
「新米達が準備してる間にちょっくら周りを見てくる」
と伝えた。古くからの顔見知りの冒険者なのでオスカー達の事を彼はよく知っている。オスカーの進言を聞いて彼も、
「うむ、偵察頼んだぞ。何かあったらすぐ
と、あっさり許可をした。オスカー達はその場を離れて音の出所を探したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます