第234話 鈴音さんと共に暮らす生活 その1

 翌日……


 稀子の家で朝食を頂いた後は、俺と鈴音さんは幸村さんではなく、稀子に新しい住処を案内して貰う。

 幸村さんは自分の仕事が有るし、稀子の家で今一番暇を持て余しているのは、稀子だけで有る。

 稀子も農作業を手伝うが、主戦力扱いにはされてなく、農家娘の割には自由が有った。


 ……


 俺達の新しい住処は、昔ながらの平屋建て日本家屋で有るが、悪い部分は好意で修繕してくれたらしい。

 幸村さん、知り合いの空き家を、俺と鈴音さんに貸し出してくれた。

 賃貸契約に成るが、家賃も地方だけ有って恐ろしい程安かった!?

 それプラス、知人割引がかなり利いているのだろう……


 住処案内の後、稀子も自分の荷物が来る関係で、案内した後は家に戻って行く。

 事前に掃除もしてくれたと言っていたが、築年数が経っている所為か、何処からか埃が入ってそれが目に付いた。


「鈴音さん。荷物が来るまで掃除でもしていますか?」


「……ですね。格安ですから仕方有りませんが、冬が大変そうですね」


 見掛けは言うよりも、断熱性に関しては期待出来ない作りで有った。

 窓の締まりも悪くて、ガタが有る証拠で有った。

 これが要因で起こる隙間風が冬には厄介に成るが、文句を言える立場では無い。


 鈴音さんはの表情をしながら、掃除をする準備を始める。

 ホウキやバケツ、雑巾類は物置部屋に入っている。

 家は平屋建てだが、作業場にも成る土間どまも有って、雨の日等も出荷調製が出来るように成っているし、農機具を仕舞う専用の納屋も有って、くわすき、一輪車、スコップ等の農機具も自由に使って良い事に成っている。

 この家から、俺が幸村さんから借りた農地には、徒歩3分位の所に有る。


 掃除を始めてから1時間位経った所で、家電製品積んだトラックがやって来る。

 この家で使う白物家電やテレビで有る。今日から直ぐに使える様に事前に購入しておいた。

 2人で相談しながら白物家電やテレビを置いて、しばらくすると今度は、昨日の引っ越しトラックがやって来て、俺と鈴音さんの私物を降ろす。

 そう言った事をしている内に、時刻はあっという間にお昼の時間に成っていた。


「鈴音さん。もう、お昼ですね」


「そうですね! と言いたいのですが、食べる物が有りませんね……」


 家電製品の準備等はしたが、肝心の食べ物や調味料類はまだこれからで有った。

 昼前に、昼食がてら買い出しに行くつもりで有ったが、そんな余裕は全然無かった。


「比叡さん。どうしましょうね…」

「この地区のお店屋さん。パンとかの食べ物は扱って無さそうですし」


 鈴音さんは困った表情で言う。

 この地区に有る唯一のお店屋さんは、雑貨屋さんと地区交流センターだけで有る。


 雑貨屋さんは雑貨の他、豆腐や油揚げ、数種類の調味料やお菓子を売っているが、パンや弁当類は置いてない。

 地区交流センターも、地元野菜や漬物等の加工品を売っているが、弁当類は売っていない筈だ。


 更に困った問題は1つ有って、俺は普通免許を持っているが車をまだ持っていない。

 真理江さんの家で居候をして居た時、真理江さんの家は駐車場が無かったし、また通勤も自転車で行けたので、自動車を保有する必要性は無かった。

 車の購入資金は有るが、車を買うのはこれからで有る。


 その間はバスを使うか、稀子家の車を借りる事になる。

 ちなみに、ペーパードライバーで有るが、鈴音さん稀子共に普通免許は取得している。

 鈴音さんは将来に備えて、稀子は就職で必要なためで有る。


 山間の地域で、車が無いのは死活問題で有る。

 直ぐ近くまで路線バスは来ているが、都市部の様に十数分間隔で出ている訳では無いので、急を要する時は本当に困るし、此処から一番近いスーパーまでも、車で30分近く掛かる。


「……里に降りる2つ先集落に、定食屋が有ったけど車が無いしな…。参りましたね、鈴音さん」


 稀子の家には、軽トラと乗用車が1台ずつ有るが、急に言って貸してくれる保証は無い。


「夕方まで我慢しますか…。比叡さん」

「今はキリをとにかく早く着けて、バスで町に買物行きましょう!!」


 稀子の地区はど田舎だと思うが……地域の足で重要視されている御陰で、バスは1~2時間間隔で運行されていた。

 早朝からもバスは運行されており、地区を出る最終便こそは夕方で終わるが、こちらに到着するバスについては、夕方以降も有って利便性は有る様だ。

 俺と鈴音さんは空腹を我慢して、私物の荷ほどきを再開しようとした時……


「鈴ちゃん。比叡君、居る~~?」


 玄関の方から、稀子の声が聞こえた。


「稀子が手伝いに来たのか?」


 俺は玄関の扉を開けると……


「比叡君!」

「お昼まだでしょ!!」


「家に有った物だけど、カップ麺とおにぎりも持って来たよ!!」


 何と、稀子が俺と鈴音さんのために昼食を準備してくれた!!

 稀子はこの辺の気が利く!!


「助かったよ。稀子!」

「思ったより作業で時間を取られて、困っていた所なんだよ」


「だと、思った!」

「この辺りは、お腹が満足出来る食べ物は売っていないし、町に出る話も聞いて無いから、何も食べずに居るのでは無いかと……」


「本当。感謝するよ。稀子!!」


「鈴音さん!」

「稀子が昼食を持って来てくれました!!」


 稀子が気を利かして昼食を持って来てくれた御陰で、腹ぺこで作業をする必要性は無く成った!!

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