第224話 夢が実現する時…… その1

 数年後……


 鈴音さんと稀子が無事に大学を卒業した数日後……

 春を感じる午前中。真理江さんの家に、1台の引っ越しトラックがやって来る。


『こんにちは~~』

『熊の引っ越し便で~す!!』


 今日、俺と鈴音さん、稀子と共に真理江さんの家から出る。

 向かう場所は……稀子の実家が有る町で有る。

 俺と鈴音さんは就農に成るが、稀子は俺達との関係を続けたいらしく、地元での就職を決め、無事に採用が決まったため実家に戻る事に成った。


 引っ越し前日の夜に、真理江さん妹夫婦の家で壮行そうこう会を開いてくれて、九尾で最後の夜を楽しんだ……

 妹夫婦は鈴音さんと、特に稀子がこの町を去る事を、妹夫婦の男性が惜しんでいたが、真理江さんが上手に制してくれた!


 引っ越し会社のスタッフがトラックに荷物を積み込んでいるが、運び出す荷物は元々少ないので1時間も掛らない内に、荷物の積み込みは終わる。

 俺達は自前の白物家電は無いし家具類も無い。そのため、引っ越しと言う程の荷物は無かった。


 荷物を積んだ、引っ越しトラックは明日の午前中に、稀子の実家が有る町に到着する予定である。

 稀子の実家で稀子の荷物を降ろして、その後、俺と鈴音さんの新しい住処で荷物を降ろす。

 真理江さんを含めた全員で、引っ越しトラックを見送った後……


「遂に、この時が来てしまいました……」

「やっぱり……お母様を1人にするのは……」


 鈴音さんがこの期に及んで、未練たらしく言う!

 優しい鈴音さんが俺は好きだが俺にも、もっと優しくして欲しい!!


「大丈夫ですよ! 鈴音さん!!」

「私には妹夫婦も居ますし、職場の仲間も居ますから!!」

「安心して、羽ばたいてください!!!」


「……お母様」

「はい…。比叡さんと羽ばたいて行きます!」


 真理江さんに就農の見通しを伝えた後、真理江さんは自ら就職活動を行い、地元の直売所パート社員として就職が決まった。

 真理江さんは元々、山本鞄店時代に販売を担当していたので、直売所の販売担当に採用された。

 直売所の社員構成も、真理江さん年代の人が多いらしいので、楽しく働いているという。


りんちゃん、比叡君!」

「じゃあ、そろそろ、駅に向かおうか?」


 鈴音さんが、真理江さんとの別れの言葉を終えた直後に、稀子はそう言う。

 俺達の移動手段は公共交通機関だから、時間に余裕を持った行動は良いのだが……


「まだ……大丈夫ですよ」

「特急の発車時刻まで、2時間以上も有ります!!」


 鈴音さんは稀子に向けて言う。

 真理江さんの家から最寄り駅までは、バスで約30分位だ。

 俺達と真理江さんはバス停で別れを告げる。


 けど、その駅は地方線のため、本線の駅まで出なければ成らない。

 時間的に言えば十分余裕だが、稀子は少しでも早く故郷に戻りたいのだろう。


 逆を言えば鈴音さんはそれだけ、真理江さんと離れたくないの意思表示で有る。

 真理江さんは最後の最後まで、鈴音さんに対して第二のお母さんを演じた。

 山本(孝明)さんと縁を切ってしまった真理江さんにとっては、鈴音さんが実の娘の様に見えたのだろう……


 俺としても、真理江さんには何も恩を返す事無く、真理江さんの元から離れてしまう。

 これが本来だったら、俺の両親が真理江さんの元に出向いて、頭の1つと謝礼を渡すのが礼儀で有るが、俺はこの段階まで来ても、両親に相談や報告を一切しなかった。

 それに両親からも何も連絡は無かった…。俺も山本さんでは無いが、絶縁されたのだろうか!?


 鈴音さんのお母さん。凉子さんには全ての事を報告済みで有り、またそれに対する了解も貰っている。明後日には、俺達の新しい住処に遊びに来てくれる。

 俺の就農をする報告に対して、凉子さんは凄く喜んでくれて、また同時に鈴音さんの将来も決まった事から、安堵の表情を浮かべていた。


 鈴音さんが嫁として、美作家から離れる事も反対は一切せず『鈴音の人生だし、私も本家からの支援を貰ったけど、無理をして美作家を守る必要は無いわ』と言ってくれた。

 鈴音さんが嫁に行く事により、美作家は途絶える形に成ってしまうが、もしかしたら何かの拍子に青柳家が、その形を引き継ぐかも知れない……


 山本さんに関しては……何と、南取島で彼女が出来たらしい!?

 滞在施設で働いている女性と関係が深くなったそうだ。

 女性の容姿はこちらからは不明だが、山本さんから好意を伝えたそうだ。


 山本さんは常に監視されていて、全ての行動が筒抜けだから、人の恋路まで知られてしまう!!

 女性の本当な純粋の心に惹かれて…、恋人関係に成った定時報告に記載されていた。


 その報告書は鈴音さんから見せて貰った。

 山本さんも中々やるな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る