第212話 妙案 その1

「おばさん…」

「早く、その妙案を教えて!!」

「それで、みんなが仲良く暮らせるのだよね!!」


 稀子は内容を早く聞きたくて、真理江さんに催促をしている。


「稀子さんも知りたがって居るようですし、早速お話をします」

「此が実行出来れば……孝明は、青柳さんや鈴音さんに今後一切、危害が加える事は無い筈です……」


 勿体ない振りながら言う真理江さん…。どんな妙案だろう……

 鈴音さんは既に知っているから落ち着いて居るが、稀子は『早く教えて!!』の表情をしていた……

 俺も気に成る。俺と鈴音さんが幸せに成るための妙案が……


「では、発表します…」

「先ほど、色々と刑事さんから覗った所……孝明は殺人未遂より、銃刀法違反で起訴される流れに成るそうです」


「これでまた、孝明は刑務所で暮らす事に成りそうですが、長い刑期には成りません…」

「恐らく、半年前後で出所する可能性が高いようです」


(俺と鈴音さんのタイムリミットは、此処から半年間という訳か)

(その間に俺が1人前に成って……は無理だよな)


 農業の世界は正直言って厳しい。

 作物を育てる機会は実質年に1回しか無いから、工業製品や食品類の様な、短い期間での反復練習が出来ない。


 その年で成功しても、翌年は気候の変化等で失敗する話を職業訓練中に聞いた。

 そうなると、折角掴んだ機会を逃して、逃亡する事に成るのか!?


「問題は出所後です…。今の住処は完全に孝明に知られています」

「そこで私は考えました。孝明を青柳さんや鈴音さん、稀子さんに近づけない方法を!」


(次の言葉で出て来るか!)

(山本さんを排除する言葉が……)


「出所直後に孝明の身柄を拘束して、そのまま島流しにします!」


「島流し!?」


 俺は思わず声を上げてしまう!!

 何時の時代だよ!! そんな事、本当に実現出来るの!!


「青柳さんが驚くのも無理が有りませんよね…。私達、本家や分家の本当の詳細は教えてはいませんから……」


「ねぇ、おばさん…」

「山本さんを何処かの島に送っても、今回の様に目を盗んで脱走するのでは無い?」

「島と言っても、生活物資を運んだり、人の往来は必ず有る。島流しにしただけでは完璧では無いよな……」


(今日の稀子は、やけに冴えているな!)

(実家のカレーを作って食べて、頭の回転が良くなったのか??)


「中々、良い所を突きますわね。稀子さん!!」

「人々が住んでいる島に流せばそう成るでしょうが、孝明を流す場所は本家が所有する、私有地の無人島です!」


(私有地の無人島…)

(本家はそんな物まで持っているのか。凄いな……)


「私有地ですので、本家や親族以外の往来は有りませんし、脱走も出来ない様にボート等も島に停泊はさせません!」

「孝明には小さな島で、最低限の物資と人員で余生を過ごして貰います……」


 なんとまぁ、スケールの大きい話だ!!

 本家が私有地の無人島を保有していて、その島で山本さんを幽閉させる。

 こんな事が現実に行えるなんて、本当に世の中は判らん!!


「けど、おばさん…。山本さんは絶対に反対するよね!」

「暴れたりして、徹底的に反抗する筈だよ……」


 稀子は的確に質問していく。

 今日の稀子は本当にどうしたのだ?


「そう成るでしょうね…。でも……仕方有りません」

「最後は力ずくで実行するしか無い筈です……薬を使ってでも……」


「……孝明は本家の顔を、2回も泥を塗ったのです」

「母親としても心苦しい者は有りますが、ここまで迷惑を掛けてしまっては、こうでもしないとが付きません…」


 真理江さんは俯きながら言う。

 自分の息子を島流しさせるのは、心の奥底では反対なんだろう。

 さっきのやけ食いは、其処から来ているのかも知れない……

 けど……それを提案したのは誰だろう? まさか、鈴音さん!?


(山本さんを島流しにすれば、簡単には戻っては来られないが、何処に流すのだろうか?)

(本土に近い離島とかだと、あの人の事だ。泳いで来る可能性も大きいぞ!)

(あの執念は……人間本来以上の力を引き出すに決まっている!!)


「真理江さん…」

「ちなみに、山本さんを何処の地域に在る島に流すのですか?」

「本土に近い場所だと、泳いで逃げるに決まっています!」


「青柳さん。それは大丈夫ですよ!」

「幾ら孝明でも、絶対に無理です!!」


 自信満々に言う真理江さん。

 山本さんは、何処の離島に流されるのだろうか…?

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