第198話 一時の休息!?

 その日の晩ご飯は当然、合格祝いモードに成ると思っていたが……、何時も通りの晩ご飯のメニューで有った。


 今晩の担当は稀子で有るが『お祝い料理は後日だよ♪』と言われた。

 絶対に合格出来るなら、その準備も考えるべきだが、俺の場合は俺自身でも落ちる事を意識していた。

 その日の晩ご飯は雰囲気的に祝賀モードでは有ったが、何だか物足りない感じで晩ご飯を終える。


 ☆


 みんなでの団らんの時間も終わり、俺は自室に戻って、しばらくするとドアをノックされる。

 ノックの仕方で直ぐに鈴音さんと分かったので、俺は返事をして鈴音さんに入って貰う。


 俺は直ぐにクッションを用意して、そこに鈴音さんに座って貰う。

 鈴音さんの表情は穏やかで有ったが…、稀子の様に笑顔が全面に出ている訳では無かった。

 鈴音さんは、少し微笑みながら話し始める。


「改めて、おめでとうございます。比叡さん」


「鈴音さん…。やっと合格出来ました…」


 このまま甘い時間でも、始まるかと思っていたが……


「私としても、一安心と言いたい所ですが……」


 鈴音さんは素直に、俺の合格を喜んではいない様だ?

 どうしてだ!?


「私としては正直言って、複雑な気分です…」

「比叡さんが農業の道に進む事が決まって、本来は祝福をするべきですが……」


 鈴音さんは申し訳なさそうに言う。

 言いたい気持ちは俺でも判る。


 農業が元々、将来の第2候補に入っていれば何も問題は無かったが、この道は真理江さんからの提案で、急遽決まった案で有った。

 鈴音さんが、心の奥底から喜べないのは嫌でも感じ取れる。


「鈴音さんの気持ちは理解出来ます!」

「だけど、俺にはこの道しか、選択肢が無かったのです……」


「……そうですね。比叡さん」

「この試験ですら不合格に成っていたら、私はもう、比叡さんを応援する気は無く成っていたと感じます…」


「合格したからこそ、この関係は続きますが…、私達の将来はどうなるのでしょうか?」


 鈴音さんは不安の眼差しで聞いてくる。

 話しの感じからして、素直に祝福の言葉を述べに来ただけでは無かった。

 俺は今考えているプランを鈴音さんに話す。


「大雑把に言えば…、職業訓練中は真理江さんの家にお世話になり続けて、訓練終了後は農業法人に勤める流れに成ると思います」

「其処で有る程度の軍資金を蓄えたら、真理江さんから自立して、鈴音さんとの同棲を考えていますが……」


「私と同棲ですか…?」

「いずれは、そう成りますね……」


 俺が『同棲』と言うキーワードを言ったのに、素直に喜ばない鈴音さん?

 俺の事が……心底好きでは無いのか!?


「今後の流れは大体分かりましたが、比叡さんは将来的には農家さんに成るのですか?」


 鈴音さんはそう聞いてきた!?

 農家の嫁は嫌なのだろうか!??


「……今の時点では、何も言えないです」

「俺は農業法人の人とは、まだ有った事が無いし、農業も表面上でしか理解していない」

「稀子の言葉通りだったら、鈴音さんの協力が無ければ農家(就農)には成れないと思う」


「後…、土地の問題や凉子(鈴音母)さんにも、何処かのタイミングで了解を貰いに行かないとね」

「恐らくびっくりするだろうけど、凉子さんが……」


「お母さんは恐らく反対しないと思います…。その辺は安心してください」

「お母さんが比叡さんを一番心配していたのは、比叡さんの経済力ですから」

「その問題はクリア出来ると思いますから……けど……」


 鈴音さんは言葉を言い淀む。


「鈴音さんは俺に就農はして欲しくないと…」


「いえ!」

「そうでは有りません!!」


「私は比叡さんに付いて行きますが、道が明後日の方向に向かってしまったので…」


 鈴音さんの中では俺が保育士をして、鈴音さんは事務系の仕事等をして俺との家庭を作る予定だったのだろう。


 俺が仮に就農をすれば、どうしても鈴音さんは農作業を手伝わなくては成らない。

 鈴音さんの中では自信が無いのだろう……

 これが稀子だったら、喜んで就農を進めてくると思うが。


「鈴音さん」

「俺は今の段階では、就農を考えては居ません!」

「あくまで訓練終了後は法人就職をして、其処でしっかりと基礎と応用を身に付けます!」


「稀子の様に体を動かす事が得意で無い事は、俺が理解しています」

「ですので……そんなに不安には成らないで下さい」


「……ごめんなさい。比叡さん」

「私も、比叡さんを不安にさせる発言をしてしまって……」


「俺だって……不安ですよ。鈴音さん!」

「本当に未知の世界に飛び込むのですから!!」


 俺はそう言いながら鈴音さんの元に近付く。


「あっ…」


 俺は鈴音さんを手繰り寄せて、鈴音さんとキスをする。

 こう言った時は男がリードしなくては!


「お互いが不安の時は、こうするのが一番良いのですよ///」


「……///」


 嫌がる素振りも見せずに、俺のキスをそのまま受け入れた鈴音さん。

 やっと此処で、1歩先に進めそうな感じがした……

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