第190話 鈴音さんの意地

「鈴音さん……あなたはそれで、本当に良いのですか?」


 真理江さんが鈴音さんに話し掛ける。

 しかし、鈴音さんは不満げに言う。


「お母様や稀子さんには関係ない事です!」

「この問題は、二人の問題です!!」


 珍しく、真理江さんに噛み付きに行く鈴音さん……

 けど、真理江さんも素直には引き下がらない。


「鈴音さんにとってはそうかも知れないけど、この家に居る以上はこの家の問題です!」

「鈴音さんが、青柳さんを許しがたい部分も有るかも知れませんが、鈴音さんも何時までも意地を張る必要性は有りますか?」


「私は別に、意地を張っては居ません!」

「私の中で…、比叡さんに対する熱が冷めただけです……」


「じゃあ、りんちゃん」

「鈴ちゃんがそう言うなら、私は比叡君と、縒りを戻しても良いんだね!」


「鈴ちゃんが比叡君を本当に振るなら、私が今度こそ貰うよ!!」


「!!!」


 稀子の言葉で、凄く驚く鈴音さん。

 稀子は冗談で言っている訳で無く、本気で言っていた!


 すると……鈴音さんは急に顔を赤めて涙顔に成る!?


「どうして……お母様や稀子さんは、比叡さんを庇うのですか!//////」

「私が全て悪いのですか!//////」


 鈴音さんは……泣きながら言う。

 山本さんの時でも見せた事が無い表情……

 それだけ、俺が保育士に成るのを真剣に応援していた証だろう……


「そうでは有りませんよ。鈴音さん…」

「青柳さんは自分の限界に気付いて、仕方なく夢を諦めたのです…」


「私には、そんな感じに見えませんでした!」

「少しの壁にぶつかって、逃げ出した姿に私は見えました!!」


「鈴ちゃん…。比叡君は元々強い子では無いよ…」

「エッチだけは興味が有るけど、それ以外はてんでダメの比叡君」

「鈴ちゃんは過度に、比叡君を期待しすぎだよ…」


 稀子は鈴音さんに向けて言うが、稀子の中では、その様に俺は見られていた訳か!?


「逆に言うと泥沼に成る前に、諦めた比叡君を却って褒めなきゃ!」

「比叡君は私達の様に10代では無い!!」


「比叡君の場合は年を重ねる前に、比叡君が成れる道に進むべきだと、私は感じて居るよ!!」


(稀子がこんな事を言うなんて意外だ……)

(脳天気のお子ちゃまだとずっと見ていたが、今は稀子の方が大人の女性に見える)


「何だか、稀子さんらしくない言葉ですね…!」


 鈴音さんも、そう感じ取った様だ!?


「稀子さんが本気で比叡さんを好きでしたら、熨斗のしを付けて渡して上げます!」

「其処まで本気で好きでしたら……」


(鈴音さん……意地に成っているな!)

(どうして、素直に成れないのだ。鈴音さんの中で、何が引っ掛かって居るのだ!?)


「……鈴ちゃんがそう言うなら、本当に貰うけど……1つ聞かせて!」

「そんなに鈴ちゃんは、比叡君に保育士さんに成って貰いたかったの?」


「それは比叡君のためでは無く、鈴ちゃんの自己満足では無い?」


「……」


(今日の稀子はずいぶん攻めるし、言葉の切れも有るな)

(夢を追い掛ける人を好きに成るのだから、夢を諦めた人を冷めるのは、当たり前で有る!?)


(鈴音さんの自己満足か…。言われてみれば、そうかも知れないな)


「……かも知れませんね」


 鈴音さんも稀子の言葉で、我を取り戻した感じで有った。


「比叡さんは、稀子さんの言う通りの人です」

「だけど……私は比叡さんが保育士に為る姿に、期待を凄く持つ様に成ってしまいました」


「1回の試験でそれを簡単に諦めたのが、私の中では凄く許せなかったのかも知れません…」


(少し……何時も冷静に分析出来る、鈴音さんらしく成ってきた!)


 ここでやっと、鈴音さんは俺の方に振り向く。


「比叡さん…。私は比叡さんの事は今でも好きです」

「だけど……比叡さんが簡単に夢を諦めた事を許せませんでした」


「比叡さんが、まだ私に興味を持っているのでしたら、私は比叡さんと仲直りしたいです」


「鈴音さん!」

「俺だって……鈴音さんに相談もせずに、勝手に保育士を諦めた事と卑猥な発言をしてごめんなさい///」


 俺は鈴音さんに向かって、昨夜の事を謝る。


「卑猥…?」

「比叡君。鈴ちゃんにそんな事言ったんだ!」


 稀子がそんな事を言っているが鈴音さんは……


「……比叡さんも、私の事がまだ好きなようですね///」


 鈴音さんは此処で微笑む。

 これで、一応仲直りは出来たのかな?


「二人仲良くなって、めでたし、めでたしと言いたいけど、残念だったな~~」


 稀子は残念そうに言う!?

 本気で俺を狙っていたのか!?


「稀子さん。稀子さんも時期に春が来ますよ!」


 真理江さんは稀子に話し掛ける。


「春か~~!」

「大学内でもイケメンは居ないしな~~」

「私の所にも早く春が来い~~!」


 稀子は愚痴をこぼす様に呟いた。

 俺と鈴音さんは関係を修復出来て、今から俺の部屋で、今後の人生(農業)の話をする。

 これで鈴音さんが納得してくれれば、俺の進路は農業の方へ舵を切る事に成るだろう……

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