第189話 人生の転機!? その4

 俺は鈴音さん達に、先ほどのパンフレットは見られて不味いと思ったので、急いで隠す。


『ガラッ!』


「おばさん。ただいま~~」

「おやっ、珍しい……比叡君が、おばさんとお茶を飲んでいる」


「ただいま、戻りました!」

「お母様!!」


「……」


 鈴音さんも一緒に帰って来た様で有って、ワンテンポ遅れて居間に顔を出す。

 鈴音さんは真理江さんには挨拶をするが、俺は当然空気扱いにする!


「今晩は私が食事当番ですので、今から晩ご飯を作ります!」


「はい! 怪我には気をつけてくださいね。鈴音さん」


「はい。ありがとうございます。お母様!」


 鈴音さんは俺の方には顔も向けずに、真理江さんとだけ話して居間から出て行く。


「今晩は……比叡君。お手伝い出来ないよね…」


 稀子は俺を見ながら言う。

 鈴音さんと俺の食事当番の時は、2人での共同作業が多いが、今はそんな雰囲気では無い。


「なら……今日は私が手伝うか!」


 稀子はそう言って、居間から出て行った。

 俺も…、真理江さんとの話は終わったので自室に戻る。


 ……


 俺は晩ご飯までの時間……。先ほどのパンフレットを見て考える。


(鈴音さんを思えば、農業の道しか選択は無い)

(募集期間も今週の金曜日まで有って、日数的に言うと明日と明後日しか無い)


(このプランを鈴音さんに言えば、許してくれる可能性は大きい)

(思い切って、鈴音さんに言ってみるか…)


 勝手に進めても良いけど、俺達は一応、結婚を視野に入れた仲で有る。

 人生の大事な部分を相談せずに行ってしまったら、それはそれでまた、関係の不一致に成ってしまう。


(鈴音さんが応じるかは別にして、晩ご飯後に鈴音さんに言おう…)


 ……


 その日の晩ご飯も、鈴音さんは俺を無視して進んでいく。

 今晩のメインは肉じゃがで有ったが、変な味はしなかったし普通に美味しかった。

 真理江さんの所は基本盛り切りで有るから、実は料理に細工はしやすい!?

 けど……鈴音さんは、そんな事をする人では無かった。


 晩ご飯後。

 みんな居間で団らんの時間を過ごしている時、俺は思いきって鈴音さんに話し掛ける。


「あの……鈴音さん」


「……」


 けど、鈴音さんは俺の方には顔を向けずに、無視をする様に無言でテレビを見ていた。

 でも、俺はそのまま、鈴音さんに話し続ける。


「俺……あれから色々考えたのです!」

「鈴音さんの事や将来の事を……」


「……」


 鈴音さんは無言で立ち上がり、急に居間から出て行く。

 もちろん、俺はそれを追いかける。


「鈴音さん!」


「……」


 俺は鈴音さんを廊下で捕まえると……


「……何を考えたのですか…?」


 鈴音さんは俺に顔を向けるが、冷めた表情で言う!?


「勿論、将来の事ですよ。それしか無いです!」


「……比叡さんの将来は、サラリーマンでは無いのですか…?」


 鈴音さんは単調に言う。


「鈴音さん!」

「最初はそう考えていましたが、思い切って農業の方へ進もうと考えていまして」


「……一貫性が無い人ですね」

「……好きにしてください」


 鈴音さんはそう言って体の向きを変え、自分の部屋に戻ろうとすると……


りんちゃん!」


 居間から出て来た稀子が、鈴音さんを呼び止める。


「鈴ちゃんは、それで良いの!?」

「本当に比叡君に、愛想を尽きちゃったの??」


「稀子さん……」


「……」


 稀子が鈴音さんに話し掛けた事によって、真理江さんも居間から出て来た!?


(何だか、凄い事に成ってきたぞ!?)


 真理江さんや稀子が俺の味方をするために、部屋から出て来てくれたのだと思うが、鈴音さんはどうするのだろうか……

 俺は鈴音さんの反応を覗った……

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