第170話 新年を迎える その5

 真理江さんと俺が、焼き鳥を食べている中、鈴音さんは静かに、おでんの大根に箸を入れて食べ始める。


「……味は少し濃いめですけど、美味しいです」

「お店屋さんの味ですね……」


 表情は少し暗かったが、微笑みながら俺と、真理江さんに向けて言う。


「それは、良かった!」

「当たり前だけど、初めて入った店だからね!!」


 真理江さんは酒が回ってきた影響か、少し話し方が違う様な気もするが、気にはしないで置こう。


「そんなに美味しいなら、俺も大根を……と言いたいけど、後1つしか有りませんね」


 おでんを二人前頼んだのだから、大根も二つしか入っていない。玉子も同様で有る。

 この屋台のおでんは、単品での注文は出来ない感じで有った。

 単品注文が出来なければ、おでん屋では無いが、店の名前が分からない。

 店の入り口には『ビール・おでん・お酒・焼き鳥』と、商品名しか書かれてなかった。


「こんにゃくを食べるか!」


 大根は真理江さんも好物なので、此処は遠慮をして、こんにゃくを食べる。

 大根が美味しければ、こんにゃくもきっと、味が染みているはずだ。

 こんにゃくは串に刺されているので、串ごとかぶり付く。


「……うん!」

「こんにゃくも美味しいです!!」

「適度に味が染みてます!!」


 俺が真理江さんや鈴音さんに、味の感想を言っていると……


「いや~~、時間掛かっちゃった~~♪」


 レジ袋を持った、稀子が戻って来た。

 鈴音さんの表情はいつも通りでは無いが、これ位回復していれば、稀子は気付かないだろう。


「唐揚げ屋さんが凄く並んでいてね、揚げたてをゲット出来たのは良かったけど、大分待たされちゃった~~♪」


 稀子は笑顔で、たこ焼きと唐揚げの入ったレジ袋を置く。

 大した食欲だ……


「あっ!」

「おでんと焼き鳥も有る!!」


「玉子貰い~~♪」


 稀子は席に座る前に、おでんの玉子を小鉢に乗せる。俺も密かに狙って居たのに……

 普通は断わってから、持って行く物だが、稀子らしいと言うべきか……


「これ、みんなも食べて良いからね~~♪」


 稀子はテーブル上に、たこ焼きの入ったパックと唐揚げを広げる。

 こう言った店は、他店の飲食物の持ち込みを認めてないと思うが……

 俺は周囲を見てみると、先ほどの男性スタッフが、その様子を遠巻きで眺めていた。苦情を言いに来ないから良いのか?


「すっかり、豪勢に成ってしまいましたね!」


 真理江さんは陽気な声で言う。

 大分……酒が回っている様だ。


「最近の屋台は、唐揚げも売っているんですね~♪」


 鈴音さんも嬉しそうに、唐揚げを箸で掴んでいる。

 お腹が減っていないと言った割には、良く食べている!?


「今、唐揚げが大ブームなんだよ!!」

「この神社内でも、3件も店が出ていたよ!!」


「それは凄いな…。たこ焼き屋並のレベルだな」


 俺はそう呟きながら、たこ焼きを箸で掴んだ。

 本当はこんなに食べるつもりは無かったが、真理江さんが注文した分とワンカップ。稀子が買って来た、たこ焼き等で、再度お腹が一杯に成ってしまった!


 けど……鈴音さんも機嫌も直って、真理江さんも陽気だし、稀子は何時も通りだし、一応丸く収まって良かったと、俺は思った……


 ☆


 本当にお腹が一杯に成った、真理江さん達は家に戻って、お正月ののんびりした時間を過ごす。

 普段の、この時間ならお茶の時間だが、今日はお腹が一杯なので、お茶はお茶でも緑茶を飲みながら、居間でゆっくりと全員が過ごしている。

 後の正月予定は特に無さそうだから、のんびりと家で過ごす正月も悪くないと思う。


「ねぇ、お茶の後はカルタでもする?」


 稀子はえらく、古風的な事を言う。


「稀子さん……流石に、この家には無いでしょう」

「ですよね、お母様…」


 鈴音さんは、真理江さんに聞いているが……


「この家には無くても、妹の家に行けば有るかも…」


「そうなの! じゃあ、私取ってくるよ!!」


 稀子はカルタを、やる気満々である!


「いや、いや、稀子」

「……俺達、カルタを楽しむ年代では無いだろう?」


「でもさ、お正月だし、みんなで遊ばなくてわ!」


「稀子さんの…、このポジティブさには本当に感心します…」


 鈴音さんは、少し呆れながらお茶を飲む。

 俺はこの場で、共感する様に鈴音さんに言う。


「だね。鈴音さん!」


「そうですね! 比叡さん!!♪」


「また、2人がイチャつきだした~~。ほんと、熱いね~~♪」


「お互いが好きだもんね、鈴音さん!」


「はい! そうです、比叡さん!!」


 稀子は茶化す様に言うが、俺と鈴音さんは笑顔で応戦する。

 こんな感じで……お正月の三が日は、真理江さん達とのんびり過ごした……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る