第118話 離散!? その4

 俺は先ほどの行為を、本当に実現出来るかを、改めて山本さんのお母さんに聞いて見る。


「おばさん……」

「本当に、実現出来るのでしょうか?」

「鈴音さんの両親。特に父親が、とても許す気配は無いと感じますが……」


 特に考える素振りを見せず、山本さんのお母さんは返答をする。


「美作家は…、今でこそ立場は大きくなったけど、元々は私達と同じ分家なの!」

「鈴音さんの父親が、一代で事業を成功に収めて、本家面をする様には成ったけど本来はそうなの」


「……今の時代には、そぐわない言葉かも知れないけど……鈴音さんの父親は、美作家の婿むこ入りなの」


「本家? 分家!?」


(山本さんと美作(鈴音)さんの関係は、そんな関係だったの!?)

(そう言えば……山本(孝明)さんも親戚の集いとか言っていたし、鈴音さんも言って居たな…。そんなに規模が大きい親戚なんだ!!)


「それに……鈴音さんの父親がやっている事業は、鈴音さんの前で言いたくは無いけど、健全な事業とは言いにくいの!」

「鈴音さん自身も、お父さんの事業は詳しくは知らないでしょ!」


 山本さんのお母さんは、鈴音さんに話を振る。


「えっ、えぇ……」

「輸入業としか聞いておりません…」


「私も詳しくは知らないのだけど、発展途上国で安く作った、雑貨や食品を安く輸入して、それを国内の卸業者に販売して居るらしいけど、色々と問題が起きているのよ」

「例えば……人を低賃金で奴隷の様に扱うとか、輸入した雑貨や食品にも異物混入や不良品が多数有ったり、その影響で卸会社との取引も、最近は減り気味だとか……」


「この時代はライバル企業も多くて、大変だとは感じるけど、人の道を踏み外してまで、経営するのは宜しくないよね…」


 それを聞いた鈴音さんは、意気消沈してしまう……


「……初めて知りました。父がそんな非道い事をしているなんて」


「あっ、鈴音さん!?」

「これは人の伝手つてで聞いたのだから、本気にしちゃダメだよ///」


 すかさずフォローを入れる、山本さんのお母さん。


「……普段は優しい父ですが時々、電話口で怒りをぶつけている場面を見ています」

「お仕事だから、仕方無いかと感じていましたが、父は表と裏の顔を使い分けているのかも知れません……」


「私だって使いたくは無いけど、最後は本家に頼み込んで、鈴音さんの父親を押さえ込むさ!」

「孝明の事故の件で、本家にはかなり嫌われたが事情を話して、なんとか鈴音さんだけは助けるつもりさ!!」

「まぁ、本家と言っても、本家の力なんて殆ど無いが、本家自体も美作家は嫌っているからね!」


 山本さんのお母さんがそう言うと、鈴音さんが質問をする。


「お母様……本家の方々達に、私達の家族はそんなに嫌われていたのですか?」


「別に、涼子すずこ(鈴音の母)さんや、鈴音さんを嫌っている訳では無いさ」

「本家が嫌っているのは、婿で有る父親だけさ!」

「事業で成功をするまでは気さくな人だったのに、成功した途端に豹変しおった!」


「涼子さんも鈴音さん見たいに優しい人だから、何も言わないのだよね…」

「今思えば……肩書きを得るために、涼子さんに近づいたのかも知れないね……」


 俺や稀子の知らない事が、山本さんのお母さんから発せられる!?

 稀子は目をさせながら聞いているし……山本一家は孝明さんを含めて、どれだけ秘匿主義なのだ!?


「あぁ……ごっ、ごめんなさい///」

「鈴音さんの目の前で、お父さんの悪口を言ってしまって///」


 山本さんのお母さんは興奮していた所為か、本人目の前でかなりの事を言っていた。

 幾ら父親が悪い事をしているからと言って、子どもの目の前で言う事では無い……


「……お母様」

「私は大丈夫です……いえ、却って有難う御座います」

「父の本来の姿を教えてくれて、本当に有難う御座います」


「これで……私は、自由に生きていく事を決めました!」


「鈴音さん……」


 鈴音さんは、徹底的に父親に対抗する意思を持ってしまった。


(俺も両親とは仲が良いとは言いにくいが、鈴音さんの場合は分が悪いぞ!!)

(相手が悪すぎる!!)


 俺がそう考えていると、山本さんのお母さんが俺にいきなり質問をする。


「青柳さん…。何で屋号は山本鞄店なのに、ランドセルしか作らなく成ったか知っているかい?」


「えっ!?」

「もちろん、知らないです!!」


「なら、良い機会だ……」

「昔は革製品を持つのが、一種のステータスだったが、舶来文化が好きな国民は、海外ブランド製品を喜んで買って、それを買えない庶民達は、安価なナイロン製や輸入革製品を買う様に成った」

「この店でも財布やバッグを作って、販売していた時期が有ったのだよ」


「はぁ……」


「夫が代の時に将来性を考え、今までの革製品作りは全て止めて、ランドセル専業に鞍替えした」

「ランドセルの需要は年に1回しか無いが、安定した収入も得られるし、あの時の色は黒・赤の2色しか無いから、コストも安く抑えられて商売は順調だった…」


「今は難しいね……。大手商社やランドセルメーカーが多品種・多色を出してくれるから、私の様な個人店では年々、ランドセルが売れなく成って行った……」


「あの時の孝明は、暴走族バイクに明け暮れているし、夫も交通事故でいきなり亡くなってしまった…」

「本気で店を閉めようと考えた時に、鈴音さんを下宿させる話を、孝明が持ち掛けてきた」


「あの時は、びっくりしたよ…!」

「美作さんの鈴音さんを、下宿させたいなんて言い出したから……」

「見ての通り、夫を亡くしてからは孝明と2人暮らしだし、子どもも孝明以外に恵まれなかった…」

「部屋だけは無駄に余っていたから、私はそれを認める代わりに、1つの条件を付けた」


「何時でも良い。店は必ず継げと……」


「初めの内は文句を言っていたが…、有る日いきなり暴走族を解散させて、本当に店を継ぎ始めてしまった。恋愛の力は凄いね……」


「ごっ、ごめんなさいね。最後の方が余計だったわ///」

「ですから山本鞄店より、鈴音さんの将来を応援します!!」


「元々、孝明が鈴音さんに興味を示さなければ、とうの昔にこの店は閉店していた!」

「あの時、孝明が……鈴音さんの気持ちを汲み取ればと、今でも考えてしまうが、起きてしまった事は諦めるしかない」


「だから必ず、私達と青柳さんを、妹の住んでいる町に行かすさ!!」


 山本さんのお母さんは力強く言った。それは本気の目をしていた。

 本家の強さを俺は知らないが、この感じなら、本当に実現してしまうのでは無いかと俺は感じた……

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