第115話 離散!? その1

 ……

 …

 ・


 時は少し流れて、あと1週間足らずで、鈴音さんや稀子が夏休みに入る直前の有る日の時。山本さんのお母さんから衝撃的な言葉を聞かされる!!


「えっ!?」

「山本鞄店を廃業にして、更に家と土地を売る!!」


 山本さんのお母さんが言うには、山本(孝明)さんが起こした事故で、被害者の賠償に関する民事裁判で、判決が下された時に支払う、賠償金額が大凡おおよそ判ったらしいのだ!

 その金額は、今までの貯蓄や分割支払いで払えない事では無いが、山本さんのお母さんは、山本鞄店の家屋・土地を売る事を決めてしまった!!


「丁度……真剣に家屋を売ろうと決めた時に、私の知り合いの方が、この話を持ちかけてきて、この家とお店を改装して、和風イタリアンレストランの経営を考えて居る人がいるの!」

「この家……間取りも大きいし、離れや工場こうばも有るでしょ!」


「お店や住居の1階部分は店内に改装して、工場こうばをキッチンに改装して、離れは取り壊して、スタッフの休憩所。資材置き場を新たに建てるそうよ」

「住居2階部分は、経営者の家族が住むらしいと聞いているわ!」

「不動産屋さんの仲介を通して、この家屋と土地を売るより、遙かに良い金額で買い取ってくれるらしいの」


 山本さんのお母さんは嬉しそうに言うが、本当にそれで良いのだろうか?

 しかし、賠償の事を真剣に考えると、それしか道が無いのかも知れない……


「鈴音さんや稀子さんには、本当に申し訳ないけど、夏休み中でこの下宿は終了しようと決めたの!」


 はっきりと言う、山本さんのお母さん。

 俺と鈴音さん。稀子もこう成る事は覚悟をしていたが…、余りにも時期が早すぎる!!


「おばさん……。俺がこんな事を言う権利は無いけど、せめて来年の3月まで、引き延ばす事は出来ないのですか!」

「夏休み中と言っても、約1ヶ月半で、下宿先が見付かる可能性は無いですよ!!」


 俺は、山本さんお母さんの説得を試みるが……


「青柳さんの言いたい事は凄く理解出来ます。私だって……本当はそうしたかった!」

「だけど…、和風イタリアンレストランを経営なされたい方は……、どうしても秋の中頃までには、オープンをさせたいらしいの!」


「税金の関係で…、冬までにオープンさせた方が、色々と優遇が有るみたいなの」

「だからこそ、相場より上乗せ金額で、この家屋と土地を買い上げると言うの!」


「賠償金額も……最悪の結末を考えて置かなければ成らないし、どのみち山本鞄店は再開出来ない……」

「この町の、これから小学生に成る子ども達は、山本鞄店では絶対にランドセルは買わないし、他所の町の子からの期待は出来ない……」


「元々、ランドセルの販売は、市の子ども達をターゲットにしていたから、大きな営業もかけていない」

「その前に、ランドセルを作る人が居ないから、ランドセルを仕入れ無ければ成らない。私1人で、ランドセルは製造出来ないからね」

「孝明が居れば話は別だけど、その孝明が大馬鹿をやったから……。これしか道が無いのさ……」


 山本さんのお母さんは諦め顔で言う。

 鈴音さんも稀子も、反対意見を特に言おうとはしなかった。無言で聞いて、無言で頷くだけで有った。


 鈴音さんや稀子には、これから始まる夏休みだが、その夏休みが終わる直前には、みんなが離ればなれに成ってしまう!!

 鈴音さんは実家から通える見たいだが、稀子の場合はどうするのだろう?

 実家に戻った稀子は本当に毎日、早朝のバスに乗って、半年間学園に通うのだろうか?

 俺は稀子の事を、山本さんのお母さんに質問する。


「おばさん……」

「稀子の下宿先が、見つからなかった場合はどうするのですか?」

「稀子の実家から学園に通うのは、非現実的だと俺は感じますが……」


「青柳さん、その辺は安心して下さい……」

「稀子さんの下宿先が確保出来なかった場合は、私が借りる予定で有るマンションに、新しい下宿先として稀子さんに提供します」


「はぁ、そう言う考えですか……」


 山本さんのお母さんは、次の住居を確保している見たいだ。

 最悪は、稀子の下宿先として提供も考えている。

 しかし……鈴音さんはその中には加わってなかった。鈴音さんの下宿先は探さないのだろうか?

 それに、鈴音さん両親の反応も気に成る。


 鈴音さんは、俺と恋人関係で有る事を両親に報告したが、両親でも特に父親は快く思っていないらしく、これを機会だと両親が感じ取れば、鈴音さんは実家に連れ戻されるだろう……

 山本さんお母さんからの、話の一区切りが付いた時に、俺は鈴音さんに話し掛ける。


「鈴音さんは、今後どうするのですか?」


 俺が鈴音さんに質問すると、暗い表情だった鈴音さんが、今にも泣きそうな表情に成ってしまう!!


「比叡さん……私の父が『家に戻って来なさい!』と、言われてしまいました」

「二学期からはバスや電車では無く、家から車を出すから、それ使って通園しろと……」


 やはりと言うべきか、鈴音さんの両親はこれを機会と感じ取り、実家に連れ戻す事を決めたようだ!

 娘を大事にする親なら、当たり前の行動だが、鈴音さんは実家には帰りたく無いはずで有る!!

 鈴音さんは、そのまま話し続けるので、俺や稀子。山本さんのお母さんは静かに、鈴音さんの言葉を聞いた……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る