第111話 副総長 敏行 その1

『バキィ~~』


 相手の拳が、俺の頬に炸裂する!!

 俺はその衝撃に耐えられず、体を後ろに向けて倒れ込む!!


「うぁ~~~」


「きゃ~~~!!」


 俺は男にいきなり殴られて、それを見た鈴音さんも悲鳴を上げる!!


「お前が…、お前が……逃げずに素直に捕まっていれば、あの方はこんな事に成らずに済んだ!」

「自ら俺が、今から貴様にお仕置きをしてやる!!」


 男は再度、俺に向けて拳を振りかぶるが……!!

 鈴音さんは、俺を殴ろうとしているその男の腕を掴む!?


「止めて下さい!!」

「比叡さんは、悪く有りません!!」


 鈴音さんは男の腕を掴んで、俺を殴らせない様にするが……


「邪魔だ~~。離せ!!」


「きゃっ!!」


 男は、鈴音さんが掴んでいた右腕を払いのける!

 その衝撃で、鈴音さんは後ろ向きに倒れかける!!


「イタタ……」


 鈴音さんは倒れずに尻餅をついたが、大丈夫だろうか……

 尻餅をついた鈴音さんに、男は声を掛ける。


「ケッ!!」

「どうせ……実刑判決が下ったのを、お前ら笑いに来たのだろう?」

「このゴミカップルが……この女。意外に顔しているでは無いか?」


「なぁ、あんた。そんな柔男捨てて、俺と楽しまんか?」

「俺の方があんな奴より、よっぽど相応しいぞ!」


 男は、尻餅を付いている鈴音さんに近づく。


「それ以上近づくと、もっと大声出しますよ!!」


 鈴音さんは、その男に対して威嚇をする。


「顔の割に威勢が良いな。……総長好みの女だな!」

「……まさかと思うが、総長の女か?」


「えっ!?」

「あっ、あの…、孝明さんのお知り合いの方ですか?」


「ふぁ!?」

「何で、テメー……、総長の名前を知っているのだ!?」


 すると鈴音さんは、無言で起き上がりながらスカートをはたく。

 見た感じ……怪我はしていない様だ。良かった!!

 鈴音さんは、その男を少し睨み付けながら言う。


「…相手に名を聞く前に、自分から名乗るのが普通では有りませんか…?」

「小さな子どもでも、そうしますよ!」


(凄いぞ! 鈴音さん!!)

(DQN相手に、真面まともに対峙して、更に相手を挑発している!!)

(鈴音さん……。普段は天使だけど、怒らせば般若に成る人!??)


「ケッ!」

「気の強い女だ…!!」

「まぁ…、良い。俺の名は敏行だ。元朱海蝲蛄、副総長だ!」


「……やはり、孝明さん知り合いでしたか…」


 鈴音さんが冷静な口調で呟くと、玄関の扉が勢いよく開く!


『バーーン!』


「今、りんちゃんの悲鳴が聞こえたけどなに!?」


 稀子が鈴音さんの悲鳴に気が付いて、玄関から出て来た。


「うぁ!」

「なに、この状況!!」


 稀子の目線から見れば、DQNと鈴音さんが対峙している場面に成るからするだろう!!


「……比叡君も頬が赤いけど、どうしたの?」


 敏行DQNが思いっきり殴って来たから、俺の左頬は腫れ上がっていた。

 歯は折れてないが、殴られた時に口の中は切れてしまった……


「くっ!!」


 状況が不利だと感じた敏行は、走って逃げだそうとするが、鈴音さんが声を掛ける。


「待って下さい!」

「私は、孝明さんと関係が有った者です!!」


 鈴音さんがそう言うと、逃げようとした敏行は立ち止まるが……


「はっ、あんた見たいな小娘が、総長の関係者!?」

「笑っちゃうね~~。んっっ……!!」


「もしかして……総長の隠し子!?」

「それで…、総長は自棄に成っていたのか!!」


 敏行は何やら1人で呟いて、勝手に納得し始めている。


「私は……孝明さんの元恋人です!!」


「うぁ~~~??」


 鈴音さんの言葉を聞いた敏行は、凄く驚いた表情をする。


「こんな子供ガキ見たいな女と総長が付き合っていた!?」

本気まじで……なぁ、冗談だろ!?」

「硬派の総長が……子供ガキを女にしていた!?」


「その言葉は、人を馬鹿にしすぎですが……そうです!」

「孝明さんが事故を起こす当日までは、孝明さんと付き合っていました!」


 敏行は俺達の側に戻って来て、鈴音さんの名前を聞く。


「あんた、名前は……?」


「美作鈴音です!」


 すると敏行は不思議な表情をし始めた……


「お前は何て言う…?」


 敏行は俺の名前も聞いてきた。


「青柳比叡だ…」


「……」


 敏行は、何やら考え事を始める……

 俺と鈴音さん。状況が理解出来てない稀子の3人で、静かに見守っていると……


「鈴音さんだっけ…?」


「はい…!」


「何で……総長と別れたの?」


「孝明さんが、自分勝手過ぎたからです!」

「人の意見も受け入れずに、自分に都合が悪くなると、人を脅すやり方に愛想が尽きたからです!」


「……そうか!」

「俺達は……総長の女問題に、こんな事をしていたんだ?」


 敏行は冷静な口調で言う。


「…鈴音さんの横に居た、その男が今の彼氏か?」


「はい!」

「そうです。比叡さんは私の彼氏です!!」


「!!!」


(えっ…、鈴音さん。堂々と俺を彼氏宣言したぞ!!)

(さっきまで、俺を見捨てようとした行動は何?)


(どっちの言葉が、鈴音さんの本音!?)


 鈴音さんの考えている事が理解出来なかった……

 山本さんを擁護するような発言をすれば、俺を人前で彼氏宣言する。


 鈴音さんの中では、山本さんを思う気持ちは残って居るのだが、表面上では俺の事を彼氏として認識している。

 鈴音さんが心の底から優しい女性なのか、男には皆甘い女性なのかは、俺には解らなかった……

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