第89話 朱海蝲蛄 【山本・稀子】 その8

 ……


 一段落が付いた時には、午前11時半を過ぎていた。

 敏行から、電話連絡は来ないが、まだ見つけられ無いのか?

 僕は敏行に電話を掛ける。幾ら何でも遅すぎるからだ!

 しばらくのコール音の後、敏行が電話に出る。


「あっ、総長! お疲れ様です!」


 敏行は、朱海蝲蛄時代を思い出したのか、役に成りきっていた。


「僕だ…。状況はどうだ…?」


「各駅に5人ずつ廻したが、まだ何も連絡は来ていないです…」


「各駅に5人…。お前を含めて11人か…」

「ずいぶん、少ないな…」


「あぁ、他の奴らは音信不通か『足を洗った!』と言って、協力してくれない!」

「中には『そんな馬鹿げた事はもう止めろ』という奴も居た!!」


「仕方無いか…。チームを完全解散して、2年以上経って居るからな…」


 一時いっときは、50人以上の大所帯だった朱海蝲蛄だが、時の流れは恐ろしい物だ。


「…もうその時間だと、彼奴あいつらは電車に乗っている筈だ…」

「駅周辺の捜索は最低限の人数にして、沿線の捜索に切り替えてくれ!」


「分かりました! 総長!!」


「頼んだぞ……」


『ピッ』


「敏行は、相変わらずの指示待ちだな…」

「言った事は必ずやるから優秀だが、自ら考えては動かない…」

「俺が指示の変更をしなければ、ずっと馬鹿見たいに駅周辺を捜索していたな…」


 ため息をつくと……、同時に腹が減っているのに気付いた。

 昼食を取るために台所に向かうが、唯一居た馬鹿女(稀子)を叩き出したため、昼食を用意してくれる人は誰も居ない。


「飯作らせてから、追い出せば良かったな…」

「鈴音よりかは不味いが、一応食える物作るからな」


 キッチンの戸棚を開けて調べる。この辺にカップ麺が有るはずだ。


(大盛り焼きそばか…。これで良いや)

(食わないよりかはマシだ…)


 今日の昼食は、カップ焼きそばだ。

 カップ焼きそば嫌いでは無いが、単調な味で途中に飽きてくる。

 自分で作るは幾らでも食えるのに不思議だ……

 僕は早く敏行から連絡が来ないかと、待ちわびながら昼食を取った……


 ……


 家を追い出された直後の稀子……


「エグっ、エグっ、―――」

「今日の山本さんは、何処かが変だよ~!」


 私は泣きながらバス停に向かっている。

 山本さんが朝『散歩!』と言って、出掛けるまでは普通だったのに……


りんちゃんに連絡入れた方が良いかな……」


 今の山本さんは絶対におかしい!

 山本さんの暴走を私では、止める事が出来ない!!

 鈴ちゃんと山本さんを近づけたくは無かったが、私は嫌な予感がする……


「親友達と遊びに行って居るのも有るし、私は鈴ちゃんに非道い事をしたからな…」


 山本さんと関係を深めるために、私は鈴ちゃんを捨てた。

 鈴ちゃんと山本さんが口論をして、大喧嘩状態に成った時に、私は鈴ちゃんに『橋渡し役』に名乗り出た。


 鈴ちゃんも私を親友だと思って居てくれたので、私は鈴ちゃんから山本さんへのメッセージを預かった……。でも、私はそれを山本さんには伝えなかった。

 山本さんに向かう鈴ちゃんを止めた比叡君も、鈴ちゃんの事を親友で無く、異性として止めたと思う。比叡君は鈴音さんに褒められると直ぐにデレデレするからだ!

 私も比叡君より山本さんの方が好きだし、鈴ちゃんと山本さんの関係が悪化すれば悪化する程、私と山本さんと結ばれる確率が高く成ると信じていた。


「でも…、ここで鈴ちゃんに知らせなければ…」


 バス停に着いた私は思いきって、バスが来るまでの間に、鈴ちゃんに電話を掛けるが……


『おかけに成った番号は、―――』


 鈴ちゃんの電話が通じない。どうして!?


「遊園地に行くとか行っていたから、ロッカーに預けている?」


 私はしばらく時間を置いてから、再び鈴ちゃんに電話を掛けたが、鈴ちゃんの電話に繋がる事は無かった……


「……こう成ったら、比叡君に掛けるか?」

「でも……比叡君出るかな?」

「あんな非道い事しちゃったし…」


 比叡君も、私が山本さんをゲットするために縁を切ってしまった。

 山本さんと比べれば頼りが無いし、腕力も無さそう……。取り柄は優しいだけ。

 私の言葉で時々、不満顔に成る時が有ったし、私の天秤に掛けて、山本さんの方が傾いたので比叡君とは縁を切った!


「一応、掛けて見るか……。着信拒否を解除してと…」


 しかし、比叡君の電話番号に掛けても、鈴ちゃんと同じ状態に成る!?


「えっ!?」

「どういう事!?」

「何が起きているの!?」


 鈴ちゃんも比叡君も電話が繋がらないし、山本さんも様子がおかしい。

 山本さんのお母さんは家には居ないし、携帯電話も持っていない。


「私はどうすれば良いの!!」


 今、山本さんの家に戻ったら、私は絶対に非道い事をされる。

 大人しく、実家に戻った方が良い。


「私が鈴ちゃんの橋渡し役を、きちんとしていれば……」


 そう後悔するが、時間は戻らない……。バス停にバスが到着する。

 私は、今までした後悔と、今後の不安を感じながらバスに乗り込んだ……

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