第58話 桜の見頃! その1

 時は過ぎて4月に入った……


 1日はアルバイトを休みにして貰って、保育士養成学校に入学願書を送付する。

 入学願書を送付すると同時に、選考試験に当たる、作文も一緒に送付する。

 選考結果は早ければ、5月のゴールデンウィーク以降に結果が郵送されるし、Webでも確認が取れる様だ。

 俺は合格を祈願しながら郵便局に向かって、入学願書の郵送手続きを行った。


 ☆


 全国の彼方此方で桜の開花宣言がされて、波津音市はずねしでも桜の見頃を迎えた。

 桜が見頃の日曜日の昼下がり。今日は自分のアパートで暖かい日差しを浴びながら、畳の上でゴロゴロしていると、Railアプリから通知から来る。稀子からだった。


『比叡君!』

『天気も良いし、お花見に行こう✿』

『今から、そっちに行くね!!』


 稀子は人の都合を一切聞かずに、決定事項で送ってくる。俺が外出していたらどうするのだ……

 この町に来て、親友達と言えば稀子や鈴音さんしか居ないが、(山本さんを親友とは言いにくい)せめて『どう?』の文末は付けて欲しい。


 しかし、折角誘ってくれたのだし、稀子と2人で出掛けるのは久しぶりだから、俺は出掛ける準備を始める……

 数分で稀子は俺のアパートにやって来る。稀子とお花見デートの始まりで有る。


 住宅街を歩く2人……


「稀子ちゃん」

「お花見だけど、何処に行くの?」

「小学校とか?」


「違うよ!」

「近くの小さい公園だけど、大きな桜の木が有るんだよ!」


「へぇ~」

「そうなんだ……。そう言えば、この町に来てから大分経つけど、余りこの町の事は知らないな…」


「比叡君は、アルバイト先と近くのスーパーの往復位だもんね!」


 稀子はそんな風に言うが……まぁ、間違ってはいない。

 少し郊外に行きたい時は、頼めば山本さんが車を直ぐに出してくれるし、今はアルバイトが中心だから、ファションも極端に意識しなくても良い。今の仕事は汚れ仕事だし、山本さんの家の往復も小綺麗にして行かなくても良い。

 毎日、アルバイト先まで徒歩で行っているから、休日に態々散歩をしたいとは思わなかった……


「あっ、比叡君!」

「折角、お花見するんだから、お菓子とかは買って行こうね!」


 稀子は子ども見たいな笑顔で言う。

 俺はお花見よりも、稀子の笑顔と言うを見ている方が好きだ。

 花見が出来る公園に行く前に寄り道をして、郊外を走る国道に出て、其処に有るコンビニで桜餅や花見団子、お茶類を買ってから公園に向かう。稀子は学園生なので俺が出す。

 公園に向かうまでの間は、稀子と喋りながら向かう。


「いや~~、沢山買っちゃった♪」


 コンビニのレジ袋には、桜餅や花見団子以外に、何故かホットスナックまで入っている。2人で食べきれるのか?


「こうして、稀子ちゃんと歩くのは久しぶりだね!」


「そうだね!」

「最近はりんちゃんと一緒か、山本さんとの行動が多いからね!」


「…そう言えば、今日は鈴音さんは?」


「鈴ちゃん?」

「鈴ちゃんは、山本さんのお手伝い!」

「山本さん。急なお仕事が入ったんだって!」


「へぇ~、そうなんだ」

「日曜日なのに大変だね…」


「でも、鈴ちゃんは喜んでいたよ!」

「山本さんの仕事姿が見られるって!!」


「鈴音さんもだね…」


「それで…山本さんのお母さんも仕事だし、私1人では暇だから、比叡君と遊ぼうと決めた訳!!」


 工場こうばのお手伝いが出来る様に成った鈴音さんだが、山本さんも賢くて、土曜日や日曜日は極力作業をしない様にして、鈴音さんに負担を掛けない様にしている。

 今日みたいな日は本当に珍しい。



(俺的には……お花見も良いが、稀子のつぼみを見てみたい…)


 思わずそう考えてしまうが、稀子は俺の家には遊びには来ない。

 引っ越しの翌日以降は、1度も遊びに来ていない。


 今日だって、玄関のインターホーンまでは鳴らしたが、稀子は其処からは入ってこなかった。

 鈴音さんは別にして、稀子が俺の家に来ないのは少々不満で有ったか、稀子は自分の貞操を守っているのかも知れない。

 それとも、俺の知らない部分で欲望が丸出しに成っている!?


「どうしたの? 比叡君!!」

「急に黙って…?」


「ちょっと、考え事?」

「どんな、桜だろうと思って…」


「あぁ、そうだね!」

「その辺を教えてなかったね!!」

「小さい公園だけど、真ん中に大きな桜の木が1本有って、ベンチ側に桜の木が数本有るんだよ!」

「ベンチに座って、真ん中の桜を見ながら、桜餅を食べると美味しいよ!」


 稀子は嬉しそうに言う。話の感じからして、去年も来ているのかな?


「稀子ちゃんは、去年もその公園に行ったの?」


「行ったよ!」

「去年は、鈴ちゃんと山本さんの3人で行った」


「去年は、3人で行ったんだ…」


「そう!」

「あの時は、まだみんな仲良しさんだったからね…」

「でも…今年は比叡君と一緒だ♪」


 俺はその言葉を聞いて嬉しくなる。

 稀子とは中々、関係が深くは成らないけど、稀子がそう言うのなら稀子の中では、俺の事を少しずつ意識はしてくれているのだろう……


「比叡君!」

「見えて来たよ! あの公園!!」

「大きい桜の木でしょ!!」


 視界に大きな桜の木が目に入る。

 成る程…立派な桜の木だ。

 少し辺鄙な所に有る所為か、人の賑わいも感じない。穴場の場所か?

 桜は満開の様で、ピンク色のが遠くからでも分かる。

 本当の稀子とお花見デートの始まりだ。

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