稀子編

第46話 仕事始め

 今日は火曜日!

 昨日の間に、無事に行政手続きは済ませられたので、今日からは仕事始め(アルバイト)で有る。


 朝食は自分の家で食べる事にしたので、今日はレトルトのご飯と即席味噌汁で済ませる。

 昼食は企業向け仕出し弁当を注文するつもりだし、夕食で有る晩ご飯は、山本さんの家で稀子達と取る。1ヶ月分の食費は2万円だが、ビール等の酒代も含ませて貰ったので有る意味、妥当な値段だと俺は思う……


 仕事先には、午前8時に来て欲しいと社長に言われたので、8時丁度出なく10分前を目安に会社に着くようにする。

 俺の家からは10分位で仕事先に到着するので、7時半位まではアパートでのんびりする。


 テレビのニュースを見ていると、Rail(SNS)から通知が来る。

 通知を見ると稀子からだった。


『比叡君! おはよう!!』

『今日からお仕事だね!』

『私も勉強頑張るから、比叡君もお仕事頑張ってね♪』


『今日の晩ご飯の時間に、お仕事の感想聞かせてね!』


 と書かれていて、うさぎキャラクターの『ファイト』のスタンプも直ぐに押される。


(よく考えたら…、稀子のRailを知っているのに、全然使っていなかったな?)

(前回、稀子と分かれた翌日に稀子に電話連絡をしたが、その後の連絡は山本さんばかりに成ってしまった。稀子からのRailは初めてかも知れない)


(山本さんとの連絡は基本電話かメールだし、鈴音さんの連絡先は、稀子が俺のスマートフォンで鈴音さんに掛けたのが、そのまま残っているから、鈴音さんとは正式な交換をしていないし、鈴音さんも聞いてこない…)


(間接的には知っているけど、お互いの連絡先は交換した方が良いよな?)

(稀子達は俺を家族の1員として見てくれているし、俺も山本さんや稀子、鈴音さんとはもっと仲を深めたい……)


 連絡先の交換は今日の晩ご飯時に行うとして、今は稀子に返事を返さなくては成らない。


(山本さんだったらビジネス用語で問題ないけど、彼女に近い稀子だからな…)

(……どう返信しよう)


 出勤時間が目の前に迫っているから、余り考えてはいられない。


(今回はシンプルで行こう!)


 俺はそう思って、返信を入力していく……


『稀子。おはよう!』

『ありがとう! 頑張るよ!!』


 入力し終えたのを送信する。

 スタンプは押さない。スタンプを押す機会がいまいち判らないからだ。

 俺が送信すると直ぐに既読マークが付いて、1分もしない内に稀子から返信が来る。


 子うさぎのキャラクターが『頑張って~』と言っているスタンプが押される。


(稀子はうさぎが好きなのか?)

(あっ、そろそろ時間だ!)


 俺は急いで準備をして仕事先に向かった。

 初日から遅刻をしてしまったら、印象も下がるし山本さんにも迷惑が掛る。

 俺は少し小走りでアルバイト先に向かった。


 ……


 仕事場に着いたは良いが、何処に向かえば良いのだろうか?

 一昨日は山本さんに連れられて、いきなり工場に入っていったが、町工場でも事務所は有るはずだ。

 工場に入っても着替える場所も無いはずだし、書類等も書けない。

 俺はそう考えて工場付近を見渡すと、別の建屋が有るのに気付く。


(感じ的に事務所っぽいのが有るぞ!)


 俺はその建屋に近付くと『長居ながい鉄工所』と書かれた木製の看板が掲げられていた。

 俺は挨拶をしながら事務所の扉を開く。


『おはようございます!』


 そう言いながら、事務所に入るが事務所には誰も居ない……


(あれ…?)

(誰も居ないぞ?)


 8時に来いと言った割りには誰も居ない?

 どうなっているのだ!?


 俺は一度事務所を出て、屋外のトイレを清掃している初老の女性が居たので、俺は声を掛ける。


「おはようございます」


「えっ!?」

「あぁ、おはようございます……」


 その女性は見知らぬ人が声を掛けて来たので、当然不思議がる。


「あっ、あの……今日からアルバイトで働かせて貰う、青柳と申しますが……」


「はい…?」


 その女性は、アルバイトが来るのを知らないのだろうか?


「事務所に誰も居なかったので……」


「社長なら工場だし……、奥さんはまだ家だと思うよ」


 初老の女性はそう答える。


「えっと……どうすれば…」


 俺がどうしようかと迷っていると、工場の開いているシャッターから社長が出て来る。


「おぅ! 時間通りだな!!」


 社長は俺を見た瞬間、声を掛けてくる。


「あっ、おはようございます!」


「今日からよろしく頼むな!」

「着いてきて!!」


 社長はそう言いながら、事務所の方に向かっていくので俺も付いて行く。

 社長は足早で行くので、さっきの初老の女性にはお礼も言えなかった。後で言えば良いか?

 こうして、俺の新しい仕事は、いよいよ始まろうとしていた……

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