第30話 稀子からのお願い その1
遂に金曜日の朝を迎えてしまった。
今日の15時には、山本さんと鈴音さんが稀子を迎えに来る。
昨夜は、水族館と遊園地デートの疲れも有った所為か、家に帰ってからは簡単な家事を済ませてから、順番にお風呂に入って、そのまま直ぐに2人共寝てしまった……
数日だが稀子と共にしたが、未だにキスの1つも出来てないし、体の重ね合いなんて夢のまた夢だ!
唯一有った体の重ね合いは朝、俺が起こされる時に稀子が布団の上に乗ってきた位で有る。
稀子もその行為が恥ずかしいと感じたのだろう……。その後は、俺の体を揺すって起こす方法に変わった。
今日も朝8時に稀子に起こされるが、これが稀子に起こされる最後の朝で有る。
稀子が学園生で無ければ、強引な方法も取れるかも知れないが、それをしたら山本さんに○処分されるだろう……
稀子が作ってくれた朝食も食べ終わり、朝の家事も分担して済ませる。
家事を済ませた後は、俺と稀子はソファーに座って
「稀子ちゃん」
「んっ、比叡君どうしたの?」
「今日はどうする…?」
「今日?」
「何か有ったけ?」
稀子は天井を見上げながら考える。
「あっ、そう言った訳じゃ無いけど、何かしたい事とか無い?」
「したい事…?」
「う~ん。周辺には見る物は無いらしいし、山本さん達が来るから遠い所にも行けないし……何も無いね!」
稀子はきっぱりそう言う。
俺も昨日の遊び疲れが抜けきっていないので、山本さん達が迎えに来る時間まで、は家で過ごす事に成った。
テレビは一応付けてあるが、お互いスマートフォンを触っている。
俺はネットの纏めサイトを見ているが、稀子は何をしているのだろう?
鈴音さん達と連絡でも取っているのだろうか?
「ねぇ、稀子ちゃん?」
「んっ」
俺がそう言うと、稀子はスマートフォンを持ったまま振り向く。
「山本さんや鈴音さんとは、連絡を取り合っているの?」
「私からは取ってないよ!」
「向こうからは来るけど」
「あっ、そうか…」
「どうして、そんな事を聞くの比叡君?」
「心配しているかなと思って」
すると稀子は触っていたスマートフォンの手を止める。
「私が望んだ事だから大丈夫だよ!」
「ねぇ、比叡君……。今日でお別れだけど……どうしようか?」
「どっ、どうしようかとは……?」
「比叡君も男なんでしょ!」
「私を女の子として見ているのだよね…?」
「まっ、まぁ…」
そうすると、稀子は俺の方に体を近づけてくる。
俺を上目遣いで見ながら話し掛けてくる。
「ほら、チャンスタイムだよ♪」
「比叡君ってさ、私より年上なのに全然来る気配無いもん」
「……」
「稀子ちゃん……。いや、稀子。俺は稀子の事が好きだよ!」
「ありがと……んっ…」
俺はやっと……稀子の唇を奪う。
稀子の唇はとても柔らかかったけど、少し朝ご飯の味がした。
そのまま俺は、稀子の胸部に目掛けて手を出そうとするが、ゆっくりと稀子の手で制される。
「ごめん……。今日ここまで…」
「この先は、ちょっと……」
稀子は静かに言う…。この前程では無いが、稀子は少し怯えていた顔をしていた。
「あはは///」
「キスは良いんだけど、それ以上されると、お互いが止まらなくなりそうで…」
困った顔をしながら、から笑いをする稀子。
「俺も稀子ちゃんと少しだけだけど、繋がれて嬉しかったよ!」
俺はそう言うが、稀子は少し冷めた表情で言ってくる。
「……比叡君は、山本さんに似ているなと思ったけど、少し違ったみたいかも?」
「えっ!?」
「山本さんは押しが強すぎる時も有るけど、基本はぐぃぐぃ押す人!」
「きっと……これが山本さんだった場合は、私の制止を振り切って、強引に事を進めていたと思う」
「でも、比叡君は私の制止を受け入れてくれた…」
「比叡君は山本さん見たいに優しいけど、押しが弱いし決断力も弱そう…」
「私は比叡君の事を、今までの事を含めて、凄く感謝~~しているけど……比叡君を1人の男の子としては微妙なんだ…」
「……」
「あっ、別に……だから、嫌いとかじゃ無いよ。比叡君の事は好きだよ!」
「でも…その好きは、私の中では鈴ちゃんと同じ位なの!!」
「稀子ちゃん…」
俺はどの様に返事をすれば良いのか解らなかった。
ここが運命の分かれ道と分りきっているのに、最善の道を見つけ出せない……
今までの人生が全てそうだった……。学園での親友選び。学園後の進路を選ぶのに、安易な気持ちで選択してしまったこと。
偶然に学童保育の指導員に就けたが、そこからの努力を怠ったこと……全てがそうだ。
自分は常に楽な楽な方向に逃げようとしている。
だから、こんな人生に成ってしまった!
「比叡君……私も、比叡君のこと、もっと好きに成りたいとは思うの!」
「だから……、私のお願いを聞いてくれないかな?」
「お願い……それは、どんなお願い?」
俺は稀子のお願いを聞くしか道がなそうだと感じた。
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