第五話 嘗ては王の剣

縄を解こうと抵抗してみるも、ビクともしない。


「畜生…ッ」


すると奥の扉が開き、一人の男が姿を見せた。


「お目覚めのようだな、東洋人」


西洋軍人の様な装いをした男が冷たく吐き捨てた。肩からマスケット銃を提げ、腰には古風な刀剣を差している。


「何故…こんな事をする」


坂崎はすっかり怯えて震える身体を鞭打ち、なんとか言葉を紡いだ。

男はその言葉を聞くと冷笑を浮かべ、口を開く。


「それは貴様らが反乱分子だからだ、物を知らん東洋の人畜に教えてやろう、私はこの国のチェインヴェルト王国政府軍、"王のヴァイス・シュベールト"のノア・アーダム少尉である」


傲岸な態度で名乗ったノア少尉は腰に提げた刀剣を抜き、椅子に縛られた坂崎の前へ立った。


「ノア少尉!あの母娘は無事なんですかァ!?」


「私に質問をするな!」


刀剣の柄で頭を殴られる。


「グゥッ」


鈍い音が部屋中に響いた。頭部へかかる衝撃に耐えられずに意識が飛びそうになる。


「オイオイ気絶してくれるなよ、君が使い物にならなくなれば、あの二人を同じ目に合わせなければならなくなる」


「あの二人は…無事なのか…?」


「こんな状況でも他人の心配が出来るとはな。部下に命令して政府軍の陣に送らせたよ。これから慰み物として使われるだろうな」


この連中は娘だけでなく母親まで慰み者にしたのか、血も涙もない連中への怒りが心の底からこみあげて来る


「この…」


「ン?なんだ聞こえん」


少尉は耳を口元へ近付ける。


「……!」


「なんだなんだ、聞こえん」


更に口元まで近付いた耳を噛み千切る、少尉は金切り声をあげ床に転がりもがき苦しむ。


「ふぉのふぇすふぇどうっていっふぇんふぁッ!!!(この下衆外道って言ってんだ!)」


「ギィヤァァァァッ!!貴、貴様ァァ!?」


耳を根本から食い千切られ激昂した少尉は、坂崎を斬り殺そうと襲いかかる。


抵抗が出来ない、ここで俺は死んでしまうのか。

死の恐怖が間近に迫り、全身に冷たい汗が流れる。


「クソ…!ひと思いにやれや!馬鹿野郎!」


「言われなくとも殺ってくれるわ、死ねぇぇ」


切りかかるアーダム少尉の背後から、破裂音が鳴り響く、あまりに大きな音だったので、二人は硬直し音の鳴った方に注視した。


「ヒューゲル、貴様」


ヒューゲルと呼ばれたその男の手にはフリントロック式の拳銃が握られていた、先程の破裂音は彼が発したのだろう。


アーダム少尉と同じく軍服姿の、腰まで伸びた金髪を無造作に結び、一瞬女と見間違うほどの端正な顔立ちをした人物だった。

軍服越しにでもわかるほどの屈強な身体をしており、かなり鍛えている事が素人目でもわかる。


「この程度の尋問すらマトモにこなせんのかアーダム、名家の出が聞いて呆れる」


アーダム少尉は何も言えなかった。


「して、そこの東洋人」


ヒューゲルは坂崎に声をかけた、人の心を感じさせない機械的な声色だった。


「なんだよ…」


「アーダムの耳を食いちぎるとは流石野蛮な東洋人と言った所か?まぁそんな事はどうでもいい、私達はある少年を捜しにここまできた、肩までの綺麗な銀髪に蒼い目の少年だ、知っているなら教えろ」


どうしてこんな下衆の集団に協力しなきゃならないんだ、坂崎は唾を吐き捨てヒューゲルに言ってやった。


「知ってても教えるわけがねぇだろ、まずはこの家の妻子を解放してやれ、そしたら話くらいは聞いてやるよ」


「お前は致命的な勘違いをしている」


椅子の腕置きに固定された手目掛けてナイフが振り下ろされ、一瞬のうちに右手の親指が根本から切断される。


―熱い。そう感じた次の瞬間には、経験した事の無い壮絶な痛みが走った。


「う…うァぁぁッ!」


「私は"お願い"しているわけでも"尋問"してるわけでもない、もう一度聞くぞ、少年を知っているか?行為は既に"拷問"へと昇華された」
















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