第三話 救い
これは夢か?それとも死後の世界?夢にしちゃ少々リアルが過ぎるし、死後の世界で死にかける事はないだろうからこれも違う!
これはリ ア ル だ。
人生やり直したいなんて言ったからか!?ならもっとマシな世界に送ってくれよぉ!こんな場所じゃいつ死ぬかもわからない…。
「フフッ、急にどうしたの」
しまった、動揺が身体に出てた。
「い、いやぁ…何も」
「ところで名前を聞いてなかったわね?なんて言うの?」
「あ…ああ、坂崎 陸汰って言います…」
「そう…リクタ君…フフッ」
母親はクスクスと笑い始めた。何かおかしい事でも言っただろうか?
「あの…何か変な事言いましたか…?」
「ううん、ちょっと嬉しくなっちゃって」
「え?」
「立ち話もなんだから、まず座って?」
母親に促されて椅子に座る。母親はタンスから箱を取り出しテーブルに置き、向かい側の椅子に座る。
母親が箱を開くと、そこにはバッジの様なものが入っていた。
上等そうな銀細工が全体に施されており、中心部分には金細工で花弁が彫られていた。
これはとても高価で凄いものだ、と素人目でもすぐにわかるくらいに、華やかで鮮やかな細工だった。
「この花はノウゼンカズラ と言ってね、名誉や栄光を象徴しているの」
ノウゼンカズラ という花の事を俺は知っていた。
ここに来て初めてわかる名詞だった。
「すごい細工だ…」
「これは兵士だった夫が国王陛下から賜った勲章なの、とても名誉な事なのよ」
「国王陛下…と言うとチェインヴェルトの」
「ええ、ガレリア・チェインヴェルト 第7代チェインヴェルト王国国王…今では病に臥せっているけれど、若い時は本当にすごい覇気をお持ちになっていたの、皆彼が大好きだった…」
そう言うと母親は天井を見上げ、少しの間思案に暮れた後再び口を開いた。
「もう10年も昔の話になるわね、まだあの子も小さかった…、隣ノルダン帝国が急に侵略戦争を仕掛けて来たわ、私の夫もガレリア王に従い戦いに行った…」
「…」
これ以上は聞かなくともわかる、帰ってきたのは勲章だけ、夫は戦死したのだろう。
「でも、どうしてこれを僕に?」
「__似てたから」
彼女は小さく呟いた、上手く聞き取れなかったのでもう一度聞き返す。
「若い頃のあの人に似てたから…ただそれだけ、ゴメンなさいね、もう10年も前の事なのに、未だに引きずってて…」
瞼に涙を貯め、暗く俯く彼女に僕は何と声をかけていいかわからなかった。
僅かな時間、耳鳴りがするほど静かな"間"が空く。
「いや、良いんですよ…大切な人の死なんてそう簡単に忘れられるものじゃありませんから」
静寂に耐えきれず、一言慰めの言葉をかける、我ながら陳腐な言葉だった。
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