■7//ヤクザVSヤクザ(2)

 そこから車を走らせて、件のラブホテル跡まで到着したのは昼過ぎ頃だった。

 近隣で待機していたヤスとコイカワと合流すると、車の中で改めて状況を聞き出す。


「カシラに言われて見張ってたら……一時間前くらいですかね、二十人くらいの月無組の連中が中に入っていきました」


「金堂はいたか?」


「ああ、あの趣味の悪いパンチパーマの……いましたぜ、よォく覚えてます」


 趣味の悪いパンチパーマはコイカワも同じだったが、ひとまず突っ込まずに東郷は話を続けた。


「そうか。……ん、だが待てよ、妙だな。一時間前くらいだって?」


「えェ、そうですが……」


「だとしたらあいつら、わざわざ一旦事務所までとんぼ返りしてからまたこっちに戻ったってわけか? なんだってそんなことを」


 例の美月の写真の背景は、明らかに廃墟のような場所だった。だとすればここで撮影した後に、連中は一度事務所まで戻ったことになる。

 その動線の奇妙さが頭に引っかかったが――東郷はそれ以上は追及せず、思考を戻す。


「……まあいい。ともあれ金堂もいるってんなら好都合だ。まだ話し合いの余地があるかもしれん」


 そんな東郷の言葉に、ヤスが驚いた顔をする。


「話し合いって、マジッスか? カチコミじゃないんスか?」


「いちいちカチコミ掛けてたら、収まるもんも収まらねえよ。そりゃ最終手段だ」


 呆れまじりにそう返すと、東郷は眼光を鋭くして続ける。


「こっちからは向こうに何も仕掛けちゃいねぇんだ、何の手違いでこんなことになったのかを……ちゃんと把握する必要がある」


「向こうが、素直に話し合いに応じるでしょうか」


 リュウジの言葉に、「さあな」と東郷。


「人質まで取ってやがるんだ、そのつもりはねぇかもな。……ま、いざとなったらお前らも乗り込んできてくれ。リュウジ、お前の判断でいい」


 そう言って東郷が取り出したのは、盗聴用の小型マイク。それを通して状況がリュウジたちにも逐一伝わるというわけだ。


「了解しました。ですが、くれぐれもお気をつけて」


 そんなリュウジの言葉を背に車を出ると、東郷はホテルの玄関口へと近付いていく。

 昨日あんな事件があったばかりだというのに、警官の姿は見当たらない。規制線は張られているが――それだけだった。

 その状況にいささか奇妙なものを感じつつも中を覗き込むと、そこには月無組の組員と思しきスーツ姿の男が二人立っていた。


「てめぇ、経極組の東郷っ……」


「あー、待ってくれ。俺ぁカチコミしにきたわけじゃねえんだ、ほら。何も持ってねえだろ」


 そう言って両手を上げて見せる彼に、見張りをしていた二人の組員は顔を見合わせる。


「……確か、経極の白虎っつったら白鞘が目印だったよな。なら……」


 何やらこそこそ話し合った後、彼らは警戒心を崩さないまま頷いた。


「確かに武器はなさそうだがよ――じゃあ、何しに来たってんだよ、あぁ?」


「話し合いだ。おたくらが何か、とんでもねえ勘違いしてそうなんでな。だから組長んとこまで案内してくれねえか」


「……あぁ? マジで言ってんのか、てめぇ。ふざけ――」


 とそこで、彼が持っていた無線機に何か通信が入ったらしい。イヤホンに手を当てて、見張りのヤクザは驚いた顔で頷いていた。


「は、はぁ、分かりました……。……おい東郷、ついて来い。組長が、お前を通せとご命令だ」


「そいつぁ話が早くて助かる」


 ぶっきらぼうに言う組員の後を追って、東郷は再びホテルの奥へと進んでいった。


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