■3//霊感商法にご用心(2)
霊感商法。それはいわゆる、「この壺には霊験あらたかなご利益があって~……」だとかそういうオカルトじみた虚飾でもって、なんでもないただのガラクタや小物を不当な値段で売りつける類の悪徳商法である。
……まあ、ヤスの母親みたいな「ホンモノ」の霊能者を目の当たりにした後だとあながちその全てが嘘八百だとも言い切れないのだが。とはいえ世間で横行している九割九分九厘は霊感などない単なる詐欺師によるものであろう。
「君の親父さんが、霊感商法に……」
美月の言葉を反芻しつつ、以前会った彼女の父親について思い出す。いかにもなお人好しの男で……思えば美月との出会いも、彼が不動産屋に売りつけられたとある幽霊屋敷が発端であった。
「確かにあの親父さんなら、納得ッス」
「いつかまた引っかかるたァ思ってたぜ」
「あんたたちね……まあ、その、実際引っかかってるから言い返せないけど……」
ぐぬぬ、と歯がゆそうな顔をする美月に、東郷は腕を組んだまま口を開いた。
「詳しく聞かせてもらおうか。なんだってまた、そんなことに? いくらあのお人好しの親父さんだって、この前あんな大失敗したばっかりなんだ。ちったぁ警戒してるはずだろ」
「そう、なんだけど……なんというか、あれから色々あって」
それから美月が話したあらましは、およそ以下の通りであった。
かつて呪われた物件を購入してしまったことをきっかけに様々な不幸に見舞われた美月と父親。しかし例の一件が解決して以降は、今までの不幸の反動とばかりに幸運が続いたのだという。
「お父さんの昔の会社の部下だった人たちが集まってくれてね、またお父さんと一緒に事業を始めたいって言ってくれたらしくて」
よほど人望があったのだろう。実際にかつての部下たちとともに美月の父親はもともと経営ノウハウのあった土建屋の事業を新たに立ち上げ――それからというもの、ツテにも恵まれてそこそこに順調に仕事をこなしていたらしい。
だが……その裏でひとつ、問題を抱えていたというのだ。
「事務所でね、変なことが起きるんだって、お父さんは言ってた」
「変なこと?」
聞き返す東郷に、美月は深刻な表情のまま頷いて、
「……
なんて、そんなことを言う。
あの家。彼女がそう表現するものといえばひとつしかない。彼女と父親がかつて住んでいた「死霊の館」と呼ばれるいわくつき物件――東郷たちもそこで様々な怪現象と、そしてこの世ならざるものの存在に触れることとなった。
だからこそ、東郷はその話を信じざるを得ない。実際に彼女がそう言うということは、それだけの確証があるということなのだ。
表情を険しくする東郷。すると横から、ヤスがのんきな声音で口を挟む。
「それで、霊感商法に引っかかっちゃったってワケッスか」
美月はそれに、肩を落としながら頷いた。
「ちょうど妙なことが起こってしばらくした頃に、お父さんがどこから見つけてきたのか売り込みの人を連れてきて……それでそいつから、除霊アイテムとか言って変な柄のお茶碗とかキーホルダーとかを買わされちゃったの」
「そりゃァずいぶんと鼻のきく詐欺師だぜ」
忌々しげに呟くコイカワ。詐欺グループの下っ端みたいな見た目だが、その実彼は詐欺の類はことさらに嫌っているのだ。
そんな舎弟たちの反応を見つつ、東郷は美月に質問する。
「その霊感商法を持ちかけてきた野郎の名前なり、会社名なりは分かるか?」
「ええと、確か――二宮。『
その名前を聞いて、ヤスが驚いたような声を上げた。
「二宮雲海って、今話題の除霊系動画配信者ッス!」
「動画配信だぁ?」
「知らないッスか、カシラ。遅れてる――あ、すいませんッス調子のったッス」
得意げに言うヤスを視線だけで黙らせつつ、東郷は舌打ちまじりに呟いた。
「動画配信くらい知ってるっての。ユー○ューブとか、そういうやつだろ。有名なのかそいつ?」
「除霊依頼を自分のチャンネルで募って、そこに行って自作の除霊アイテムを売りつけてるって噂で……めちゃめちゃに叩かれてるけど、まあまあ有名ではあるッス」
「……親父さんは、そいつの動画を見て依頼しちまったってわけか」
「多分……」
げんなりしながら頷くと、美月は神妙な面持ちで続けた。
「最初は、そんなに高い品物じゃなかったんだけど。だんだんそいつ、何万円もする除霊ハンカチとか、除霊歯ブラシとか明らかに嘘っぽいものを売りつけるようになってて……もちろん効果はなくて、変な現象は起こり続けてるんだけど、そいつは『まだ除霊力が足りてないから』とか言って余計にものを売りつけようとしてくるの」
「なるほどな……」
ヤスの母親のような「本物」も目の当たりにしている以上、霊能者を名乗る人間がすべて詐欺師だとは東郷も思わない。
だがその話を聞いた限りにおいては――恐らくはそいつは大部分の「偽物」に属する小悪党だろうと予想がついた。
であれば東郷のとる道は、ただ一つである。
「……話は分かった。だがまず、親父さんの事務所で起きているっていう怪現象とやらが気になるな。確認できるようなものはないか」
そんな東郷の問いかけに、美月は予め想定していた様子で頷くと鞄から一本のUSBメモリを取り出す。
「お父さんに言って、事務所の監視カメラの映像を持ってきたわ。……これを見てもらえば、信じてもらえると思う」
「分かった」
それからヤスが持ってきた再生用のノートパソコンを使い、東郷たちは問題の映像を再生。
そうして――ようやく冒頭へと至る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます