第35話 四大貴族とエグムント

 一週間ぶりに開かれた不定期報告会。


「随分と男前な面になっているな」


 会って一番にヴィルモントが言うぐらい、クラウスの顔は酷かった。右のこめかみにはガーゼが貼られ、唇には切れた跡があり中々痛々しい顔になっている。

 しかし、相変わらずヴィルモントの表情は楽しそうである。


「どこぞの馬鹿息子のおかげでな」


 そう言ってクラウスは先に座っていたローラントの方へ首根っこを掴んでいた人物を投げ渡した。


「ち、父上っ助けて下さい! どうかあの無礼者に厳罰をっ!」


 投げられたエグムントはクラウスと違い目立った傷はないが、ローラントの足に縋りつき必死に訴えている。


「ああ、今回はちゃんと生きた状態で連れて来たのか」

「父上……?」

「ふむ、喉のところに少し火傷があるがこれぐらいなら特に問題ないな」


 大事な息子を傷つけられ黙っている筈がないと思っていたのに、ローラントはドルドラと穏やかに会話を交わしていることにエグムントは信じられないといった顔になった。


「何だ魔法を使ったのか? お前が」

「止むを得ずだ忌々しい」

「よし、話せ」


 嬉しそうに顔を輝かせるヴィルモントに心底嫌そうな顔をするクラウスだが、嫌がれば嫌がる程喜んで屁理屈にも近い正論で正当性を主張してくるので早々に諦めた。


「普通にそいつに拉致されて魔法拘束具を使われたから魔法で潰した。それだけだ」

「それで? お前程の者をエグムントが一人で拉致できんだろう、協力者がいる筈だ。目的は? ただの逆恨みならわざわざ魔法具を使う必要はない、あえてそれを使った理由は?」

「……お前は本当に嫌なとこばかり突いてくるな」

「そう褒めるな、何も出んぞ。今日の食事にチーズを増やしてやるぐらいだ」

「いらん」


 チーズの増加を断りながらクラウスが説明するに、エグムントはヘンドリックと手を組んでいたらしい。

 ヘンドリックが四大貴族に戻った際にローラントを引き摺り下ろし、エグムントをつかせる作戦だったと。

 魔法具を使った理由はヘンドリックがクラウスとクライスを間違え、その間違った情報がそのままエグムントへ伝わったのが原因だった。


「随分と荒いな。一人から聞いた情報のみで動いた上に、ヘンドリックと連絡が取れなくなった時点で疑えばよいものをそのまま独断で強行するとは。そもそもそんなやり方でドルドラはともかく私が納得するとでも思ったか」

「思ったからやったんじゃないのか」

「おい、聞こえているぞ」

「何だ、盗み聞きとは趣味が悪い」

「普通に聞こえている距離だ、それに頭の中を盗み読みする奴よりマシだ」


 ドルドラが割り込んできたことで会話が途絶えたのを丁度いいとクラウスとヴィルモントは席に着き、その様子をエグムントは呆然と眺めていた。


「父上……何故? 大事な跡取り息子が酷い目に合ったのに何故そんなに穏やかでいるのですか」

「穏やかな性格だからだろう」


 エグムントの問いにドルドラが答える。


「何せ目の前で親と妹が殺されているのを見ておきながら、怒ることなく犯人と雑談し食事までする奴だからな。俺だったら犯人を生きたまま八つ裂きにしている」

「ああ懐かしいな、思えばアレが私の食への目覚めだったな」


 その時の事を思い出しているのかうっとりとするローラントにエグムントは腰を抜かしたのかズリズリと後ろへ下がっていく。

 その様子を見たクラウスは疑問をそのまま口にした。


「エグムントに食人の事は言っていないのか?」

「この子には素質がないからな。吸血鬼や鬼以上に忌避されているものを実子だからと話はしない。いくら老いてもこの素質を見極める目は衰えていないよ」

「そ、そんな……母上が亡くなった時、泣いていたのは……あれは嘘だったのですか」

「嘘じゃないさ。ただでさえ病になると肉の質が落ちるというのに、病が原因で亡くなっては何一つ食べられなくなってしまう。何処も食べられず埋葬するしかないというのは本当に……勿体なくて、悔しくて泣いたよ」

「ひっ」


 逃げようとしているのか距離を取ろうとするが壁にぶつかりそれ以上離れなくなると、エグムントはガタガタと震えだした。


「ま、まさか私を食べる気ですか? 私は父上の実の息子ですよ…….」

「だからだよ。妻の血を分けたお前ならもしかしたら肉質は似ているかもしれない……それを思うと楽しみだ」

「そんな……イヤだ、誰か、誰か助けてくれ……」

「ヴィルモント、この場で捌いても構わないか」

「クラウスがいるんだ、止めてやれ。場所は貸してやるからこの食事が終わった後にしろ」

「よし、それなら俺も手伝おう。ヴィルモントは血にしか興味がないし、ローラント一人では大変だろう」

「助かるよ」

「その代わり頭は貰うぞ」

「分かっている。勿論場所を提供してもらうヴィルモントの為にも血は一滴も落とさないように気をつけないとな」


 淡々と進められていく己の今後にエグムントは「イヤだ」と呟きただ涙を流すことしかできずにいる。


「少し煩いな。先にシメておくぐらいはいいだろう」

「シメるだけならな」


 ドルドラがクラウスの了解を得てからは静かになり、報告会もいつも通りに進んでいった。


「ちなみに今回のメニューは何だ?」

「見れば分かるだろう、ピザだ。トッピングは各自でやれ、後は魔道具で待たずと焼ける」

「……ヴィルモント、前言を撤回する。チーズを多めに貰うぞ」

「ああ構わん。チーズだけでも十種類近く集めたから存分に堪能するがいい」

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