第3話 豪華な教会
「カーニースだ!」
カーニースは特にこれといった特色のない小さな街だが、双子のいた村と違い家はレンガで出来ていて大通りには店が並び露店まである。
双子がはしゃぐには十分過ぎる理由だった。
「あの村本当に酷かったよね。寒いしお店はやたら品揃えと質の悪い雑貨屋が一つだけだったし」
「家だって数える程しかなかったしどれも木で出来ててボロボロだったよね」
エルとアールはペチャクチャとそんな事を喋りながら大通りへ向かおうとしたが、女性のことを思い出し揃って足を止め振り返った。
「何」
「一緒にお店見てまわりましょう!」
「お金ないから無理。もう夕方だし店も閉まるんじゃないの?」
言われて気づけば既に日は差し、ちらほらと片付けを始めている露店もある。
そもそも双子はお金を持っていないので店に行ったところで買える物は何もない。
「ていうか、お金ないから宿にも泊まれない!」
「どうしよう!」
「……教会行ったら? あそこって確か行き場のない子供預かってなかったっけ」
慌てふためく双子に女性は面倒くさそうにしながらも教会までは案内してくれるのか、先を歩き出したので双子も慌てて後を追った。
「教会が預かるのって孤児だけじゃなかった?」
「一応僕達も孤児になる、かなあ?」
「年齢は? 教会にお世話になってる子を見たことあるけど皆小さかったよ。十五歳の僕達ってどうなんだろう」
教会に着くまで女性が何か話してくれることもなく、結局双子が思いついたのは『教会の仕事を手伝うのでしばらく泊めてください』だった。
街にある教会は見た目はよくある普通の教会だが、一番高い所に飾られている十字架は宝石でも入っているのか夕日を受け強く反射している。
そのまま少し待っていると中から一人の女性が出てきた。
「あら、我が教会に何か御用でしょうか」
修道女の服を着た女性は好感の持てそうな優しい笑顔を浮かべ、双子に近づきながら話しかけてきた。
「あ、あのっ! 僕達ちょっとワケあって帰る家とかお金とか何にもなくて……その、泊めてください! あっ、勿論タダでとか言いませんから! お金はありませんが雑用とか手伝いとか仕事あったら手伝いますから!」
「お願いします!」
エルが早口で、しかし焦りからか少し不思議なことを言いながらも頭を下げて頼む姿にアールもならって頭を下げる。
「まあ、何か大変なことがあったのね。中へいらっしゃい、教会は貴方達のような方を歓迎します」
修道女はそう言うと門を開け双子を中へと招き入れた。
一晩でも落ち着ける場所ができて双子は喜びながら中に入ろうとして、ここまで連れて来てくれた女性にお礼を言おうと振り向くとそこには誰もいなかった。
「あ、あれ。あの人は?」
「いつの間に……どこかに行っちゃったのかな」
「どうかされましたか?」
「い、いえ。何でもないです……」
「……ちゃんとしたお礼、言えなかったし出来なかったね……助けてくれたのに」
「……というか……名前、聞くの忘れてたし僕達名乗っていないような……」
「……あ」
「あの人も今日はこの街に泊まる感じだったし、明日の朝教会の人に事情話して探しに行こうか」
「うん、そうしよう」
ひそひそ話しながら歩いていると修道女はふと思い出したように足を止め振り向いた。
「そういえばまだ名前をうかがっておりませんでしたね。私はアリスといいます」
「あ、僕はエルと言います。こっちは弟のアール」
「エルさんアールさんですね。お二人は本当にそっくりですね、双子ですか?」
「はいそうです。周りからも見分けがつかなくてよく間違えられていました」
エルとアリスで話を続ける中、アールはキョロキョロと周りの様子を見ていた。
廊下は新しくできたのかあまり劣化した感じがなく、ギシギシといった音が一切しない。壁に等間隔で掛けられている灯りも器は銀で作られており美しい装飾がされている。
「(見た目からはそう見えなかったけどかなり格のある教会なのかな。そういえば十字架はかなり豪華だったよなぁ)」
「アール、大丈夫?」
「え? あ」
エルに声をかけられ我に返ると、エルとアリスは部屋の前で止まっており、アールは気づかずそのまま数歩先へと歩いていた。
「ご、ごめん」
「お気になさらず。それではこちらでまずは旅の汚れをお流しください」
「え、お風呂あるんですか!?」
「はい。我が教会では清潔であることを心がけておりますので。それに、こんなに見事な金髪が泥で汚れているのは非常にもったいないですし、どうぞゆっくりしてください。その間に着替えとお食事の用意をさせていただきますので」
そう言うとアリスは双子に一度深く頭を下げるとそのままどこかへ行ってしまった。
少しポカンとしていた双子だが、久しぶりのお風呂にいそいそと中へと入っていく。
「うわぁ……本当にちゃんとしたお風呂だ」
「結構いい石鹸だよこれ、しかもシャワーまで! あ、でも流石に魔石設置型じゃなくて魔力感知型か」
風呂場は教会の内装と同じくらい豪華だった。
浴槽は真っ白な陶器で出来ており、外側には教会らしく天使がラッパを吹いている絵が描かれている。
シャワーは魔石設置型。
これは魔石に魔力を貯めて必要な時に貯めた分まで自由に使えるものだが、このシャワーは魔力感知型。使いたい者が魔力を込めないと湯水は出ないので、魔法の素質がないものには全く意味がない。
幸い双子には日用品を扱うには困らないほどの魔力があり、シャワーを出すとまず真っ先に両手を洗い出した。
しばらく夢中でゴシゴシと擦っていたが、何となく顔を上げるとお互いに目が合い洗う手を止めた。
「……アールも?」
「エルも?」
二人で少し笑うと、もう一度丁寧に手を洗ってから頭を洗いはじめた。
「ようやく落ち着けたのかな」
「多分。でもここ本当に豪華だよね、教会じゃないみたい」
「分かる。アリスさんも話し方とか何か修道女っぽくないしさ。なりたてなのかな」
そんな事を話しながら風呂から出るとアリスが言っていたように双子の着替えが置かれていた。
ご丁寧に両方とも同じ白のシャツと緑のズボン。
てっきり聖歌隊みたいな服を用意されているのかと思っていた双子はその服を手に取り、生地が絹で出来ているのに気づきどこまで豪華なんだと軽く目眩を覚えた。
用意された服に着替え、次は何処へ向かえばいいのか困っていると丁度アリスが現れ食事の用意が出来たと食堂へ案内された。
食堂は長方形のこれまたでかいテーブルに、双子の分と思われるパンとスープがちょこんと置かれている。
「あれ、他の人とか子供はいないんですか?」
「皆さん既に食事は終えられています。お二方の事は明日紹介しましょう、今日はお疲れでしょうし」
「あ、ありがとうございます! いきなり来てお風呂に入れてもらってこんな豪華なご飯までいただいて……」
用意された食事はパンとスープだけだが、パンは柔らかくバターとほのかな甘みがかすかにただよい、スープも野菜や豆がたっぷりと入っており出来立てなのかホカホカと湯気が立っている。
「お気になさらず。私達の仕事を手伝ってくださるのですから当然の事です」
「はい! 一生懸命頑張ります!」
「僕も頑張ります!」
双子はアリスに礼を言うと席につき早速パンとスープを食べ始めた。
パンもスープも見た目通りの美味しさで、双子はがっつかないよう静かに一口一口噛みしめるようにゆっくりと味わいながら食べていく。
そのうち温かいお風呂と食事に満たされたのか双子は食べている途中から強烈な眠気に襲われた。
「エル……すごく、眠い……」
「うん……僕も……アリス、さん……」
「疲れが出たのでしょう。部屋までお運びしますのでどうぞ安心してお眠りになられてください」
アリスの言葉を最後に双子の意識は完全に落ちた。
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