僕のラブコメを読んでほしい
くにすらのに
第1話
昼休み。僕は女子同士の会話に聴覚を集中させる。
「
「うーん。やっぱり紙の方がいいかな」
「でもでも、ネットにしかないおもしろ小説だってあるんだよ」
「それは気になるんだけどねえ。この紙の質感が忘れられなくて」
北河さんは手にした文庫本に頬ずりをする。
にやけ面で頬ずりする姿はちょっと変態っぽくて、普段の清楚な姿とギャップがあってそれがまた可愛い。
彼女が本好きなのは同じクラスになって数日でわかった。
教室の隅でいつも読書している地味な女の子。初めの印象はそんな感じだった。
そんな北河さんに声を掛けたのがお節介な僕の幼馴染だ。
いざ話をしてみるとその知識量から繰り出されるジョークは小気味良く、人見知りしがちだけど話してみるとおもしろいというポジションに上り詰めていた。
「僕、北河さんのこと好きかもしれない」
「わかった。協力する」
お節介な幼馴染こと
サバサバした性格で男女問わず人望がある美夕が協力してくれるのは非常に心強い。……と思ったのは最初だけだった。
「あんた、小説書きなさい。カケヨメっていうサイトなんていいんじゃない? 自分を主人公にして、北河さんに恋する気持ちを小説にするの。その小説にたどり着けば絶対にうまくいくわ」
「本気で言ってる? それ」
「本気も本気。超本気。だってあんたが直接告白なんて無理でしょ」
「うっ……」
さすがは僕の幼馴染。僕の弱点を理解した上で適切な攻略方法を示してくれた。
そんな風に感心したのも束の間、僕達はある問題に直面する。それが美夕と北河さんの昼休みの会話である。
「ほらほら。これとかおもしろそうじゃない? 高校生が書いてるらしいよ」
読書をするタイプではない美夕がスマホを片手に必死アピールしてくれる。
ただの小説ではなく北河さんへの想いを綴ったラブレターのようなものだと考えるとめちゃくちゃ恥ずかしい。
しかも個人的な内容なのになぜかそこそこの応援や評価をいただいてしまっている。調子に乗って書く予定のなかった続きを更新してしまっているからタチが悪い。僕と北河さんは小説の中ではキスまで済ませていた。
「河南さんがそこまで言うなら……でも紙じゃないとなあ」
「じゃあさじゃあさ、この小説が紙の本になったら読んでくれる?」
「うん。もちろん」
「ぶふぉっ! げほっ……げほ」
眩しい笑顔で遠回しに無茶ぶりをされて反射的に飲んでいたお茶を吹き出してしまった。果たして僕の想いが北河さんに届く日は来るのだろうか。
*****
「ふぅ。危なかった」
やっぱり自分の部屋は落ち着く。紙の本しか読まないキャラを貫くのがこんなにも大変なことになるなんて考えもしなかった。
「まさか私のイチオシweb小説を河南さんも読んでるなんて」
読んでいると胸が熱くなる。まるで自分が小説の中のヒロインになれるようなラブコメ。
間違えてタップしたのがきっかけで読み始めたのに、今では1番更新が楽しみになっている。
「いつか書籍化されるように、今日も応援コメントを送っちゃお」
数年後、私は作者さんとこのラブコメみたいな恋愛を経験することになる。
僕のラブコメを読んでほしい くにすらのに @knsrnn
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