大学受験
マグロの鎌
第1話
今日は二月一日、阿保大学の受験日である。この学校は偏差値が90ということと毎年生徒を2、3人しかとらないということで有名である。そんな大学に今から挑戦しようとする眼鏡をかけた少年が一人。彼は阿保大学の偏差値に惹かれこの大学を受験することに決めたのだ、この大学の求めている人材がどんなものかも知らずに。
「必ずこの日本一頭のいい大学に受かって、年収のいい大手企業に勤めるのだ。」
少年は大学を目の前にしても臆することはなかった。彼はこの大学に受かるために高校の三年間のすべての時間を勉強に費やし、受験直前での模試では偏差値93で全国一位という阿保大学に受かるには申し分ない数値を叩き出したのだ。そんな少年の隣にこの大学の募集要項をきちんと読んで受験に挑もうとしている冬なのにも関わらず半ズボンを履いた少年が一人。
「受験勉強全くしてないけど受かるのかなー。偏差値90ってどんぐらいすごいのかな?ハーバードぐらい?」
半ズボンの少年は大学を目の前に不安がっていた。なぜなら、阿保大学のキャンパスは少人数制の大学ということもあってそれほど広いスペースは必要なかった。そのため、少年の目の前にあるのはキャンパスというより、どこの住宅街にもあるような二階建てのアパートだった。彼は自分のイメージしていたものと違うキャンパスに戸惑っているのだ。そんな中、隣に眼鏡の少年を見つける。
「おまえもこの大学を受けるのかー?はははは、真面目そうなのに意外だなー、ははは。」
「なんだね君は?その半ズボンといい喋り方といい、あまり頭を良さそうに見えないが、本当にこの大学を受けるのかい?」
「ん?頭が良さそうに見えない?ちょっとおまえの言ってることわかんねーわ。まあ、お互い一緒に頑張ろうなー、はははは!」
そう言って半ズボンの少年はポッケに手を突っ込んでアパートの一階にある試験会場と書かれた部屋へノックもせず入って行った。その姿にはやはり知性は感じられなかった。
「あんなのでもこの大学を受けるとは、身の程知らずだな。」
半ズボンの少年を見送っていた、眼鏡の少年の隣には、新しく坊主の少年が立っていた。
「君は?」
「僕かい?僕は偏差値90、前回の模試で全国二位だった……」
「坂田くんか!」
「むむ!僕のことを知っているのかい?」
「もちろん、だって僕は偏差値93、前回の模試で一位だった……」
「川北くんか!」
「そうだよ。でも、まさか模試でずっと一位争いをしていた坂田くんとここで出会うとは思いもしなかったよ。」
「ああ、僕もだよ。まさか川北くんに会うなんて……。でも、今日は負けないよ。」
「そうだね、最終決戦だね坂田くん!さあ、行こう!」
そう言って彼らは足並みを揃えて、受験会場へ向かって行った。
五年後―
「はい、自分は偏差値90の阿保大学を卒業した川北哲郎です。」
初めての面接に臆することなく、少年はハリきってそう言った。少年としては自分の出身大学をアピールすることができ、最高のスタートを切れたと思っている。
「えっ、君阿保大学の卒業生なの?なんでそんな奴が面接まで上がってきてるんですか社長、書類の時点で落としといてくださいよ。」
「まあまあ、そう言わずに。君は五年前に阿保大学を受験したということであってるよね?」
「はい。その時に合格したたった二人の内の一人である、川北哲郎です。阿保大学は皆さんもご存知通り……」
「“本当の馬鹿“を集めている大学だね。」
半ズボンをはいた社長はそう言った。
大学受験 マグロの鎌 @MAGU16
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