第12話 家庭環境

「片瀬・・・家の人が心配するんじゃねーの?」


俺がそう言うと

片瀬は寂しそうに言った


「しないよ」


その一言に

何か重いものを感じた


「なんで?

娘が荷物まとめて男の家に行ったら心配するだろ?

捜索願とかでたら

山田先生は誘拐犯になるよ」


俺はストローを触りながら半笑いでいう

片瀬はこちらをしっかり見て


「捜索願出さないから誘拐犯にはならない」


ムキになっているのか?自信満々に言い放つ


「そうなの?」


おれも少しムキになる


「ええ

だって

中学の時、私が自殺未遂をして

その理由がママの結婚相手だったって知ってからは

ママは私に何も言えなくなって

私が何をしても何も言わないから

今はただの同居人」


片瀬は、左腕にしていた革製のブレスレットを外し

しっかり残ったリストカットの後を俺に見せる

知らなかった・・・痛々しい傷跡


「このブレスレット

山田先生が作ってくれたの

傷が見えない方がいいって…」


そして続ける


「ママはあんな事があったのに

離婚できないから

二重生活みたいになっていて

・・・ママと結婚相手そして

子供は

別に部屋かりて暮らしているから

私の家には

週に1度か2度

ママだけ現れて

掃除したり洗濯したり

冷蔵庫に食事を作りおいたりして

いつも5000円をテーブルに置いていくの

だから

ホッとするんじゃない

私が誰かと暮らし始めたら

それがどんな相手でも

親の責任が外れた気がして楽になると思う

それに

山田先生は一年の時の担任で

登校拒否気味の私を

外に連れ出してくれた人だから

ママは信頼しているし・・・私の事

自分じゃどうにもできないから

山田先生に丸投げしてるだけなんだけどね」


驚いたのは

話の内容だけでなく

こんなに話す子だったって事

お母さんの事

嫌いなんだろうな・・・

片瀬が握りしめた拳を見てそれが伝わってくる

義理のお父さんと何があったんだろう?

それは聞けなかった

聞いてしまうと

片瀬がもっと苦しくなる気がした

彼女をこれ以上

苦しめたくなかった


片瀬は時計を見た


「もう帰っているかも

私、行くね

話聞いてくれてありがとう」


そう言って立ち上がった

ブレスレットを慣れた手つきではめて

鞄を持った


俺は、部屋を出ようとした片瀬の右手を掴む

片瀬はこちらを見る


「一緒に行くよ

もう暗くなってきたし荷物重いから

先生の家まで一緒に行く」


俺は、片瀬を山田の家に送る


家で

片瀬とあの彼女が修羅場になるかもしれない

それか

無事に片瀬を山田に差し出し

俺は、目の前で持っていかれる情けない男になるかもしれない


どちらにしても

不安しかないよ

この状況


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