第18話 天井の絵

 巨大な円柱の研究施設。耕太とカヤと吉村は、その中腹の側面をぐるっと囲む足場をゆっくりと歩いた。

 カヤが100年後から来た事と、その理由。この三日間で耕太とカヤに起きた出来事。そして今、二人の時間に起きている奇妙な現象。そんなウソみたいな話を、吉村は黙って聞いていた。

 そしてカヤが言う。


「こんな話、信じられませんよね?」


 吉村はふと立ち止まり、じっと一点を見つめて言った。


「……あるのかもしれませんね」

「……はい?」


 思わずカヤがそう言うと、吉村は続けた。


「ちょっと、お見せしたいものがあるんです」


 すると、側面の壁がまたしても扉の様に開き、吉村はその扉の奥へと進んだ。

 耕太とカヤは不思議そうにお互いの顔を見合わせ、吉村の後に続いた。


 壁も床も天井も真っ白い通路。その行き止まりの壁が、やはり扉の様に開く。

 その扉の向こうから射す眩しい光に、耕太とカヤは目をつぶった。


「どうぞこちらへ」


 吉村が耕太とカヤを扉の中へと招き入れる。

 するとそこは、直径5メートル程の白いドーム状の部屋だった。吉村がフッと息を吐くと、部屋は真っ暗になった。

 しばらくして、眩しい光と共に、例の絵が天井に浮かび上がる。


「……えっ」


 カヤは思わずそう言い、耕太もハッとした。

 真っ青な空と真っ白い雲。そこに二十人程の白い衣の老若男女。彼らは輪になって手を繋いで浮かんでいる。そしてその輪の中心、天井のてっぺんには、一輪の白いガーベラ。

 その映像を見上げ、耕太とカヤは固まった。

 カヤが言う。


「……な、なんでこの絵が」


 天井を見上げながら吉村は言った。


「カヤさんがすぐに耕太さんを殺さなかった理由が、お互いの肩に彫られた白いガーベラ。……そして、そのガーベラの意味が二人とも違う」


 カヤが言った。


「私の時代では、『この先の世界』の象徴……」


 耕太が言う。


「僕にとっては、亡くなった彼女の象徴……」


 吉村が言う。


「これから先の未来、この、彼女さんの象徴が、この先の世界の象徴に変化していく……」


 天井を見つめる吉村の次の言葉を、耕太とカヤは待った。

 吉村が言う。


「この絵を映し出した人にも、白いガーベラのタトゥーがあります」

「……は?」


 カヤがそう言った瞬間、扉が開き、カヤと同じ白い衣装の少年が現れる。そして少年の後ろには大人の男三人も現れる。三人とも同じ白い衣装だった。

 耕太とカヤが不思議そうに突っ立ってると、後ろ手を組んで堂々とする少年が言った。


「ぼく、代表者二人の息子です」


 咄嗟に銃を取ろうとするカヤだが、それより速く男三人がカヤに銃を向けた。

 カヤは動きを止め、少年、男三人、天井の順に目線を動かした。耕太はあ然としている。カヤが怪訝そうに吉村を見ると、吉村は言った。

    

「タケル君です。昨日きました」

「タケル君? きのう?」


 思考を巡らせるカヤに、少年が言った。


「ミサキ先生に、ここに行けって言われて来たんです」

「……え」



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