エピソード40 3年後の私

 大勢の人々が行きかう雑踏の賑やかな町の中―



「リアンナッ!ほら、こっちこっち!」


大きな噴水の前で友人のアリエルがリュックサックを背負い、ショートパンツ姿で手を振っている。


「あー。ごめんごめん!道に迷っちゃって・・。」


私は手を振りながらアリエルの元へ駆けつけてきた。そして ハアハアと息を整える。


「それじゃ、行こう。他の仲間たちはもう事務所に着いたってさ。」


「うん、行きましょ。」


そして私とアリエルは連れ立って歩き出した。私たちが何処へ向かっているかというと・・・。



「あ~・・それにしてもドキドキするわ・・・。いよいよ今日から会社がオープンするのね。」


アリエルは両手を前に組んで、目をキラキラさせながら言う。


「うん、本当だよね・・。これでいよいよ私達も社会人の仲間入りかな?」


私も期待に胸を膨らませながら大きく頷く。


「大学の教授も驚いていたわよ?本当に会社を起業したのかって?まさか自分の教え子たちが共同でIT企業を設立するとは思わなかったんじゃないの?まあ・・それも全て天才プログラマーのリアンナのお陰かな?」


アリエルは私の背中をバンバン叩きながら言う。


「天才って・・・いやぁ~・・・それほどでも・・。」


その時、大きなスクリーンを設置したビルの映像が目に飛び込んできた。


『今度のレオナード・キャンベル王子の新しいお相手は侯爵家のイサベラ・マギールご令嬢で・・今回こそ最有力候補となっております・・・。』


私はその映像に思わず足を止めた。


「どうしたの?リアンナ?」


アリエルが不思議そうに声を掛け・・私の視線の先を見ると言った。


「ああ・・・レオナード王子のニュースね?今年いよいよ国王になるのよね・・確かまだ21歳だったわよね?


アリエルもスクリーンを眺めながら言う。


「うん・・・そうだよ・・。」


私はスクリーンを見上げながら返事をした。そこ映っているのは・・アレクならぬ、レオナード王子・・・3年前、私が恋した彼。

あの日、私はアレクの着信を全て拒否し、さらにアドレスも消去した。フォスティーヌは約束を守ってくれて、アレクから私の事を問い詰められても何も知らないと言い、連絡先を教えるように頼まれても拒否してくれたそうだ。



 ここ最近、レオナードはマスコミを騒がしていた。時期に王位を継ぐので、いよいよ結婚も秒読みかという噂で連日連夜彼に関するニュースは世間を騒がせていた。

私があまりにも食い入るように映像を見つめていたからだろうか?アリエルが声をかけてきた。


「あれ?リアンナもレオナード王子に興味があったの?」


「う、ううん!そんな事無いよ!只・・私の友人が彼の側近のアレクセイ伯爵と婚約したから・・それでちょっと気になっただけだよ。」


そう・・・実はフォスティーヌは王子のふりをしていたアレクセイ伯爵と・・つい先日婚約をしたのだ。


「そう言えばリアンナの友達に伯爵令嬢がいるって言ってたわよね?どう?やっぱり気品があるの?」


アルエルがフォスティーヌの事を尋ねてきた。


「ううん、そんなことないよ。ごく普通の女の子だよ?さ、それより早く行こう!皆が待ってるから!」


私はアリエルの背中を押した。



****


新しい事務所に到着した私は共同で起業した他の3人の友人たちと引っ越しの準備をしていた。すると突然スマホに着信が入ってきた。それはフォスティーヌからだった。


「はい、もしもし?」


『あ、リアンナ。今大丈夫?』


「うん、平気平気。」


『ねえ、今日から事務所を開けるんでしょう?私の婚約も正式に決まったし・・今夜2人でバーでお祝いしない?』


「うん、いいね~楽しみ。」


フフ・・あのお店のカクテルおいしいんだよね・・・。


『それじゃ、今夜7時にいつものお店でね?』


「オッケーそれじゃまた夜にね?」


その後、私とフォスティーヌはたわいもない話をし・・電話を切った。




****


夜7時半―


ムードのあるジャズが流れる地下のショットバーで、ゆったりした白いブラウスにスリットの入った長いタイトスカートを履いた私はバーカウンターでフォスティーヌが来るのを待っていた。



「遅いな・・・フォスティーヌ・・・。」


私はスマホを眺めながらポツリと呟いた時、突然バーテンが私にカクテルを差し出してきた。


「・・どうぞ。」


え・・?


「あ、あの・・何ですか?これは・・私、まだ何も頼んでいませんけど?」


するとバーテンは言った。


「・・あちらのボックス席のお客様に是非と言って頼まれたのです。」


バーテンの差した方向には、こちらに背を向けて座る男性の姿が目に入った。

知らない人から飲み物をご馳走してもらうわけにはいかない・・。私は立ち上がるとグラスを片手にその男性の元へと向かった。

飲み物を返す為に―。



 








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