エピソード33 海を眺めて
部屋に戻り、窓から見える夕日が沈んでいく美しい海をバルコニーのビーチベッドの上で私はクッションを抱えたままじっと眺めていた。顔は熱く、胸はドキドキしている。
何これ?こんなの変だ。どうして胸がこんなに早鐘を打っているんだろう。
「ひょとして・・・私・・アレクの事が好き・・なのかな・・?」
一度言葉にしてしまえば、後はもう止める事は出来なかった。この島に来て3週間・・・アレクと一緒に過ごした楽しい日々が思い出される。そのことを思い出す度、幸せな気持ちに包まれ、笑みが浮かんでしまう。間違いない、私はアレクに恋してる。だけど・・・。
「駄目だ・・・やっぱり私とアレクじゃ・・・身分が違うに決まってるもの・・・。」
アレクは一度だって自分の爵位の話をしたことがない。だけど、王子様の付き人をしているんだから、絶対爵位は高いと思う。それに・・・フォスティーヌは以前アレクの事を育ちが悪そうだと私に話したことがあるけど・・絶対にそんな事は無い。だってずっと近くで見てきたの私には分かる。アレクは言葉遣いは確かに乱暴かもしれないけれど・・その仕草にはどこか気品を感じる。これは私がアレクを好きだから欲目で見ているとか・・・そんなんじゃない。だってアレクからは時々眩しいオーラのようなものを放っているように感じる事があるから・・・。
「ふぅ~・・・。」
私は溜息をついた。いつの間にか太陽は海に沈み、徐々に空はオレンジから紺色の美しいグラデーション色に染まっている。星は空に瞬きはじめ、海から吹く潮風は少しだけ湿り気を帯びていた。
「・・身体冷えちゃうかも。部屋に中に入ろう。」
ビーチベッドから立ち上ると私はコテージの窓をガラガラと開けて、部屋の中へと入って行った。確か・・今夜は海辺でキャンプファイヤーの後、皆でパーティーをするんだっけ・・・。
「私は身分の低い男爵令嬢。アレクには・・私なんかよりもずっとふさわしい女性が似合ってるんだから・・・なるべくアレクからは距離を取っていよう。」
私は心に決めた―。
****
海辺ではやぐらが組まれ、赤い大きな炎が燃えて、当たりをオレンジ色に染めている。
私はビールを片手に岩場に隠れるようにお皿に乗せた串焼きを食べていた。
周囲を観察してみると、ほぼほぼカップルは成立していた。フォスティーヌも皇子と一緒に過ごしている。2人はとても雰囲気が良い感じだ。これも・・・きっと2人の前で私が演じた悪役令嬢が功を成したのかもしれない。
ぐぃーっとビールを一気飲みし、私は海を眺めていると不意に近くで話し声が聞こえてきた。え?誰かいる?慌てて岩場に隠れてそっと様子をうかがうと、そこにはアレクと同じサマースクール参加者の女性が立っていた。
「あ、あの・・・アレク。返事・・・聞かせてくれる?」
彼女はじっとアレクを見つめると尋ねた。え・・?もしかしてあの2人・・・交流があったの?返事って・・・あれだよね?きっとあれの事しかないよね・・・?
アレクは難しい顔をして立っていたけど、口を開いた。
「悪い。俺・・・好きな女がいる。」
ドキッ!その言葉に心臓が飛び跳ねた。
「だ、誰よ・・・その人・・まさか・・あの落ちぶれた男爵令嬢?!」
落ちぶれた・・・確かに事実だけど、誰かに指摘されると多少は傷つく。
すると・・・。
「リアをそんな風に言うなっ!」
アレクの厳しい声が聞こえた―。
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