エピソード32 水族館の帰り道
水族館の帰りの車の中、車内からは南国ムードたっぷりの音楽が流れている。
美しい海沿いの道路を走りながら聞くこの音楽は最高だった。窓の外をヤシの木が流れていく様子を見つめていると、不意にハンドルを握っているアレクが尋ねてきた。
「リア、水族館・・・楽しかったか?」
「うん。すごく楽しかったよ。」
海にはオレンジ色に染まってきた太陽が映り込み、きらきらと眩しく光り輝いている。その光景に見惚れながら私は返事をした。
「そうか・・・。」
「?」
何だろう・・?さっきからアレクの歯切れが悪い気がする。そこで私は視線をアレクに移すと尋ねた。
「ねぇ、アレク・・・どうしたの?何か言いたい事でもあるの?」
すると、何故かアレクは焦ったように言う。
「え?え?な、何でそう思うんだ?」
「う~んと・・何となく?よくよく考えて見れば、この島に来てからはアレクと一緒に過ごした時間が一番長かった気がするからさ・・。アレクが何か言いたそうにしていると感じたんだよね。」
「そ、そうだよな?俺も・・確かに誰よりもリアと一緒に過ごした時間が長かった気がする。」
アレクは力強く頷く。
「うん、だから後1週間しか無いんだし・・今日で一緒に過ごすの・・もうやめようよ。」
「はぁ?!な、何でそうなるんだよっ?!」
アレクが大声を上げる。
「だって・・今日水族館に行ったとき、あれほど王子様を追いかけていた彼女が、別の男性と一緒に水族館に遊びに来てたじゃない。仲良さそうに腕迄組んで・・。あの2人は恋人同士になったって事でしょう?そろそろ他の女性たちも見込みのない王子様からは手を引いて・・他の男性たちに目を向け始めたって事だよね?」
「あ、ああ・・・確かにそうかもしれないな・・。」
「だからさ、これはチャンスなんだよっ!」
「え?チャンス?」
アレクが首を傾げた。
「そう、チャンス!だって王子様から手を引き始めたって事は彼女たちの興味が・・アレク達に向けられてきたって事だよね?だから・・・今からなら恋人を見つけられるって事だよ。だからアレクも頑張れば、1週間以内に恋人が出来る可能性があるんだよ。」
「・・・。」
しかし、アレクは何故か不機嫌そうにハンドルを握り締め、返事をしない。
「アレク・・?」
「リア・・・お前も・・・。」
「え?」
「お前もここで恋人を見つけるつもりか?」
「へ・・?ま、まさか!そんなはずないじゃないっ!」
慌てて全力で否定する。
「何でだ?いくら親友の付き添いで島に来たからと言っても、ここの島に来た連中は皆自分のパートナーを見つける為に集まってきてる者ばかりなんだ。リア・・お前は本気で恋人を作る気が無いって事か?」
「そう・・だよ。」
おかしなアレクだ。今更そんな事を聞いて来るなんて。私は前からフォスティーヌの付き添いで来ただけだと言っているのに。
「何でだよ?」
「え・・何が・・・?」
「何で・・リアはこのサマースクールで相手を見つけようとは思わないんだよ?」
その言葉に溜息をついた。
「あのねぇ・・・前もアレクには伝えたけどさ、私は落ちぶれた男爵令嬢なんだよ?しかも爵位がただあるだけの。家だって普通の一般家庭だから当然他の人達みたいにお手伝いさんがいるわけでもないし・・本来であれば、このサマースクールに参加できるようなお金も持ち合わせが無い家柄なの。だけど、ここに参加している人たちは皆どう?子爵家以上の家柄の人たちばかりで、中には自家用ジェット迄持っているような人たちと私じゃ身分が違い過ぎるの。生きる世界が違うんだよ?だから私はここに来ている人達とは恋愛しないの。」
「じゃあ、俺は?リア・・今までどういうつもりで俺と一緒に過ごしていたんだよ?」
アレクがイラついた口調で言う。
「友達だよ。」
「友達・・・?」
突然アレクがブレーキを踏んだ。
「え?ちょ、ちょっと何で止まるの?」
「何でって・・ホテルに着いたからだ。」
「え・・?あ、本当だっ!」
眼前には美しい海が広がり、コテージが立ち並んでいた。そうだ・・・忘れてた。私たちは昨日からこっちのホテルに移り変わっていたんだっけ・・。
「ありがとう、アレク。それじゃあね。」
ドアを開けて車を降りようとしたところ、アレクに右腕を掴まれた。
「アレク?」
「まだ降りるな、リア。話が終わっていない。」
「ええ~・・・。」
しぶしぶシートに座りなおすとアレクは言った。
「リア、俺は・・相手の家柄なんか全く気にしない。たとえそれが落ちぶれた男爵令嬢だろうが、一般庶民だろうが・・・。」
「え・・?」
胸がドキリとした。
「リア・・俺は・・。」
「ストップ!」
私は慌ててアレクを制した。
「リア・・?」
「は、はい。この話はもう終わり。そしてアレクと2人で会うのも今日で最後。それじゃあね!」
私はアレクが返事をする前に車から降りると、急いで自分のコテージへと向かった
心臓は・・・早鐘を打ち、顔は多分真っ赤になっていただろう―。
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